レポート9 イベントプレイ
数分後。俺達が転移させられたフィールドはレンガ造りの建物が並ぶゴーストタウンだった。
「ブリキの兵隊でも倒せっていう感じか?」
「そういうのもいるらしいわね……基本はパーティーの平均レベルに合わせた敵がでてくるらしいわ」
「俺が19になったばっかりで、ジュジュが17とかそこらで、スズネが高めだから21とかそこら辺ぐらいか?」
「そうなると思うわ……ほら、きた」
そう言われた方向を見ると、開けた大通りの真ん中に走ってくるふたつの影。近づいてきてその正体が見える。
《ベアー・ドール》レベル21
「くまのぬいぐるみとは可愛いのがきたな」
「《エネルギー・ショット》」
ソーサラーの先制攻撃がベアー・ドールに命中する。ただ、あまりHPが減らない。レベル差が原因なのか、魔法耐性があるのか。
「私が右をやるから、ヒカクは左をお願いするわ!」
「はいよ」
「ジュジュは適時援護お願い」
「わ、わかった」
さて、レベル差は2だからどうにかなると思うが。しつこいが初期の盾だ。こいつで防ぐのは少し怖いものがあるから、今回は回避重視でいくとしよう。
ベアーの攻撃。柔らかい腕の右ストレート。大きさはかなりでかいので大げさにかわして、その腕にメイスで攻撃を入れてみる。
「でりゃっ!!」
ぬいぐるみだから弾力があるとかはないようだ。代わりに布が破けて血でもでるかのようにわたがでてくる謎の演出付きである。
「でええええええいっ!!」
右の方からそんな雄叫びが聞こえた後に、地面にドンキを叩きつける轟音が響く。
「俺もやるか! 《ブレイク》!!」
メイスに力を込めてからジャンプし、その出っ張った腹にメイスを叩き込む。
ぬいぐるみだから声などはないが、バランスを崩して倒れる瞬間、なんとなく悔しそうな表情をした気がする。
「しかし、HP多いな。いや、俺の攻撃力が弱いんだが」
再び立ち上がってくるベアー。
「《アース・ハンマー》」
だが、その脳天に土のハンマーが叩きこまれてスタンを起こした。
「ふ、ふひひっ。成功」
「ナイスだ!
動けないぬいぐるみをメイスでいじめる男が、そこにはいた。というか俺だった。
だが、ゲームは非常なんだ。ていうか数発食らったら死ぬかもしれないフィールドだから許せ。
「《ハイ・プレス》!!」
右では決着がついたらしい。
「こっちも終わりにするぞ!」
スタンが切れたベアーの顔面に盾を投げつけて気を逸らす。こういうAIは良く出来てるよな。
その隙に力いっぱいメイスで足を叩きつけた。そしてベアーのHPゲージはなくなり、消え去った。
「よし、次行くわよ!」
スズネは肩にハンマー担いでそう言う。
なんとも頼もしいことだ。
その後もレンガの町――
ベアー・ドールの他にも《ブリキの剣士》とか《くるみ割りドール》とか現実にある名前を少し英語にしたりした名前のモンスターが出てきた。
だいたい1時間もしたころになるか、全員のMPが切れかけて一旦、途中で見つけたセーフポイントで休憩する。
「アイテムどうですか?」
「結構、私は集まってきたかな。2人は?」
「俺はなんか偏り気味だな」
「わ、わたしは満遍なく……ふひっ。でもこのイベントの装備は前衛用だから、あとで2人に渡すから足りないものは、い、言ってね」
「そうなのか?」
「まあ魔術師用のもあるけど、すごいカッコ悪いというかではあったわね……逆に戦士用は男子のはすごいかっこいい装備で、女子用のは可愛いのよ!」
「お前の可愛いがだんだんわからなくなる時がある」
「なんていうのかしら……あの」
「ひ、姫騎士」
「そう、姫騎士風なのよ! ジュジュナイス!」
すっかり仲良くなってるな。よかったよかった――それにしてもスズネが姫騎士装備……有りだな。
「よし、頑張るか」
俺は妄想を一時的に吹き飛ばすために、ポーションを飲む動作して使い全回復する。いや過回復した。
「ふ、ふひっ……頑張る。恩返しのためにも」
「恩返しってなんだよ」
「恩返しって何よ?」
俺とスズネの声が重なる。
「あ、あの……わたしリアルでも、あんまり友達い、いなくて……だから、その、こうやって一緒に遊ぶのが楽しい人、小学生以来……だから……お礼したい」
声の次は目線を合わせてしまう。
そして少し笑ってしまった。
「な、なんで、わらうの!?」
「い、いや、だって……そんなことでお礼っていわれると全く思ってなくて……ははっ、ごめん」
「そうよ。それなら、私達だってそんなに人と話すのが得意なわけじゃなくて、反りがあったからこうやって一緒に遊んでるだけだし。ジュジュもそういうことだと思うわよ……ふふっ」
「えっ? ……えっ?」
「なんか、一気に緊張抜けちゃったわ。今なら――リラックスして動けそう」
「俺も今ならガンガンいけるわ」
「それじゃあ――」
「行くしかないんだが――」
「が、がんばる!」
なんとなく和んだところで、俺達はセーフポイントからかけ出した。
セーフポイントからそれっぽく飛び出した俺たち、そして目の前に偶然ベアー・ドールがいたので――俺が腹に、スズネが頭に一撃加えて転ばせた。
「ラストスパート!! 100体いくわよー!」
「俺が30体ぐらい倒してやるのは明らかだ!」
「わ、わたしも、20体くらいはMPが持つ」
「じゃああたしは150体やっちゃうわよー!」
増えてるっていうんだよ。楽しそうだから、まあいいや!
***
リアルの時間は夜の10時を過ぎた頃。
俺たちはイベントフィールドから外にでて、ロックスソルドに戻ってきた。
「気づいたらレベル21まで上がってたぞ! これで《タフネス》がとれる!」
迷わずスキルゲットすると、HPの最大値がギュインと増えた。
「素材も揃ったし武器工房行きましょう」
「武器工房なんてあったんだな。武器屋とは別なのか?」
「武器屋はほら、町によって品揃えとか少し変わるでしょう。だけど武器工房は制作だから、基本的には変わらないのよ……まあ、サブで《鍛冶師》持ってる知り合いが居て工房持ってるならそっちに頼みたいけど、残念ながら私にはいないわ」
「俺もいないな……」
サブ職業についてもいろいろと調べてみたいな。ただもう少しレベル上げてからだな。
VRMMOだと狩場での篭もりプレイは精神的にきつそうだと、この前ひとりでダンジョン潜った時に少し思ったからな。
「あ、あの、私は今日は、これで」
「そう? まあいい時間だもんね。またね、ジュジュ」
「また今度時間があったら遊ぼうぜ」
「う、うん。またね」
ジュジュとはここで別れた。学生さんだろうか……いや、そしたらまだ夏休みのはずな気がするしな――違う部活はいってたら朝早いじゃん。
俺基準で物を考えてはいけないだろう。
ジュジュと別れて、スズネに案内されるままに武具工房へと向かった。
『よう、武器の作成か? 防具の作成か?』
いかにも親方というふうのハゲでヒゲを生やしたNPCが鍛冶用のハンマーを片手にそう言う。
「私はこの《プリンセスソルジャー》の防具セットかな。姫騎士じゃなくて姫戦士だったね」
「俺は、武器でも作ってもらうかね。おもちゃの鐘とか言う」
絶対ネタ装備にしかならなそうな気がするけど、気にしない。こういうのは思い出として作るものだから。
『承ったぜ。明日の朝10時過ぎなら完成しているから、好きなときに引き取りにきな』
「時間かかるんだな」
「鍛冶には時間がかかるんだってことを、運営が拘ってて。それでもゲームだから長すぎずってことみたい」
「あとで普通の鉱石も買うなり集めて、メイスと盾作ってもらうとするかね」
さっきリストを見たら《アイアンシールド》と《ヘビーメイス》って装備が製作可能リストにのっていたからな。
「鉱石ならロックスソルドに報酬でも出してくれるクエストあるから、今度紹介してあげるよ」
「ありがとうよ……しかし、時間かかるなら今日ももう寝るかな」
「私もそうするかな……宿題やらないといけないのよね」
「やってなかったんかよ……夏休みいつまでかしらないけど、普通に考えてあと2週間ぐらいだろ」
「うん……終わるかな~」
「頑張れ! 俺はゲームのために前半で終わらせた」
「くそー! ……これはレベルも追いつかれちゃうな~」
「そっちのほうが色んな所いけるから良くないか?」
「先輩扱いされなくなっちゃう」
「わがまま言うな」
他愛無い言い合いをした後に、工房からでてログアウトする。
そして俺はリアルで就寝した。楽しかったな。
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