レポート8 イベントアイテム

 夕食後、風呂などを済ませて時間は7時。いつもよりも早かったが、はたして間に合うだろうか。

 妹に「れっつ引きこもりライフ」とかわけわからないこと言っておいたら、「後で外に引きずり出す」と言われたのはなかったことにしてグリプス・サーガ・オンラインを起動し、ゲーム世界に入る。

「ふむ……とりあえずだ。確認するべき」

 俺はフレンド欄を開いて、ログイン状況を見る。

「ジュジュはログインしていて、スズネはまだか、じゃあ合流しておくか」

 メッセージ機能を使って連絡を取り合う。

 最初はチャット的なあれかと思ったが、

『こ、こうなってるの!? び、びっくりした』

「お、おう。大丈夫か……なんかテレパシーとか念話みたいだな」

『ふ、ふひっ、そうだね』

 頭に響くような通話機能だった。よく見るとメールなる機能もあって、そっちがチャットとかなんだろうな。

「とりあえず、今どこにいる?」

『ロ、ロックスソルドの魔法つかいギルドの前』

「魔法つかいギルドの前だな。わかった、まっててくれ」

『わ、わかった』

 メッセージをきって、町内マップを開く。まださすがに覚えきれていない。

「今俺がいるのがここだから、ここの階段を上がって、右にいって橋を渡る。そんでさらに階段を登るんだな」

 声出し確認は大事だ。


 確認したとおりに、歩いて行くと《魔法つかいギルド・ロックスソルド店》という場所にたどり着く。

「あ、い、いた」

「よう」

 ローブ深く被ってて、ある種異質な服装をしていたので見つけるのに時間はかからなかった。

「……まあ、もうひとりがまだいないみたいだから。もう少し待ってくれるか」

「だ、大丈夫」

「…………」

「…………」

 判断が早いかもしれないが、会話の間が持たない気がする。クエスト中はフィールドなりやってることなりネタにできることが多かったし、戦闘中はそんな会話しないしどうにかなってたけれど。

「そ、そういえば、魔法つかいギルドっていうのは何をするところなんだ?」

「ま、魔法つかいギルド?」

「見ての通り、武器と防具だけでどうにかする職業だから、きたことがなかったからよく知らないんだが」

「え、えと……魔法はスキルで覚えられるけど、魔力強化とかの装備とか売ってる。ほ、ほかにMPの代わりに使える《マジック・ストーン》とか、お、お札も値段は高いけど」

「つまり魔法使い系の《メイン職業》用のアイテムショップってことでいいのか?」

「そ、そうなるね」

「…………」

 そのローブについては触れていいんだろうか。ゲーム内だしRPの可能性も否定出来ないから、下手に踏み入れていいか悩みどころなんだよな。

 四苦八苦しながら会話を続けていく事10分。通知音が響きメニューを開くと、メールが届いていた。

『ごめんなさい。遅れた! ご飯とかもおわしてきたから大丈夫! 今どこにいる?』

 褐色美少女が降臨した瞬間だった。


 連絡を返して待ち合わせ場所に向かう。

「待たせたんだが」

「むしろこっちのほうこそ。それで、どの子がその《ソーサラー》」

「これだ」

「このローブ?」

「ふ、ふひっ……」

 ロックスソルドの入口付近で再開を果たす。相変わらず可愛いキャラしてやがるぜ。ハンマー以外は。

 スズネの姿は昨日とあまり変わらずだ。

「だけど、このローブって初期モンスターのよね? よく作ったわね」

「なにか違うのか?」

「違うわよ。基本的にこのゲームは鉱石防具――つまりは金属系の防具のほうが強いの。モンスターの素材を集めればこういうローブとかもだけど、頭、銅、腰、腕、足の5つ集めて特殊スキルがでる装備とかも作れるけど……金属のが普通に効率がいいのよね。いわゆる見た目装備ってやつよ」

「でも課金アバターなかったっけか、このゲーム」

「あるわよ。それどころかイベント配布もあるから……こだわり装備よね。だって金属鎧でも筋力足りてればいくら見た目重くても、動きは阻害されないし」

 嫌な現実を知ってしまった感覚がある。

 だけど、なんか金属装備が多いなとは、思ってたりしたが合点がいった。

「まあ、ちょっと私も作りたい装備はあるけど、もっと上のレベルいかないとだからしばらくは金属かしらね」

「後で調べてみるかな。あの有名狩猟ゲーム的なら、そっち作りたいし」

「大体間違ってないわよ。ただデザイナーのあれなのか、基本的には女性用は可愛いけど、男性用は女性にしか見えないかわいい系かかっこいい系がほとんどだけど」

「気になる言葉が聞こえたが、気にしないで置く」

「髪長いし、似合いそうよね」

「やかましい……まあ、とりあえずだ」

 話においてかれてしまっていた、ジュジュの紹介をしなければいけないな。

「偶然出会ったジュジュだ」

「ジュ、ジュジュです。《ソーサラー》です」

「スズネよ。見ての通り《ソルジャー》。よろしくね」

「よ、よろしく」


 その他にも少しだけ話したり、午前中にしていたことなどを話し終えて、本題へと入った。

「それで、イベントの素材集めだったよな」

「そうよ。ダンジョンに入るわ」

「だけど、全然レア物でなかったぞ」

「そ、それは多分……常駐ダンジョン」

「ジュジュ、正解ね。イベント専用のダンジョンがあるからそっちに入るの。ドロップ率が格段に上がるわ」

「そういうことだったのかよ……で、どこにあるんだ?」

「あのNPCに話しかければいけるの」

 スズネはそう言って指をさす。そこにはたしかにNPCがいたが、イベント前からいるわけじゃない俺は、いつも見てるNPCという印象しかなかった。

「じゃあ行くわよ。まずはパーティーを組んで」

 ジュジュとスズネの名前とHPが視界に見えるようになり、リーダーとなっているスズネがNPCのほうへと歩き出した。

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