レポート3 ロックスソルド
ざっざと歩きながら、敵はスズネが倒していくうちに西門には簡単にたどり着いた。
「よし、ショートカットで行くわよ!!」
「えっ、でも舗装されてる道以外は敵のレベル上がるんじゃ」
「北方面はそこまでだし、レベルがやばくなるのは首都から離れればどこも同じよ! まあ8レベルってところだから、あなたでもいけるんじゃないかしら」
「耐久戦に持ち込めばな!」
「善は急げよ!」
「急がばまわれっていうことわざを知らないのかよ」
そんな言葉を聞く耳など持たずに、さらには俺の手を掴んで引っ張られてしまう。現実でいう筋力にあたるステータスの差もあるせいで、抵抗は全くできずに連れて行かれてしまうわけだ。
少しして、手を離されて降ろされる。
「さすがにこれは突破できないから、倒すわよ」
「おう」
降ろされるというよりは落とされた感じで、立ち上がって武器を構えて敵を確認してみる。
《石人間》というエネミーか。レベルは8レベルってことは、今の俺よりも2レベル高いんだな。
名前の通り石ころがいくつもつながって人型になってる。身長的には同じくらいだけど。
ここに来るまでに、一緒にいたせいか経験値が俺にも入っていて2レベル上がったのだ。
ただまあ――10体もいるわけだが。
「さすがにきついと思うんだが」
「大丈夫よ。任せなさい……7と3ね!」
「ちょっと、待ってくれ。レベル差あるのに3!?」
「頑張って! いくわよおお!!」
「おいぃ……」
実際、スズネは7匹に打撃入れてヘイトをためて連れて行った。そして結果的に残り3匹のヘイトがこちらにきた。
「仕方ねえ……やるしかないか」
俺は決死の覚悟を決めて――その場にとどまる。
いや、盾持ってるから、あっちからきてくれたほうがありがたいんだよな。
『ゴゴゴゴッ!!』
そんな声なのか音なのかわからないものをだしながら1匹、都合よく飛び込んできてくれた。
そして俺はあることに気づいて、始まりの町の青年に感謝を告げようと思う。
「切断系だと弾かれそうだけど、打撃武器だから戦いやすい!!」
飛び込んできた石人間の横っ腹にメイスを叩き込んだ。どうやらノックバック効果があるようで、横によろける石人間。
するともう1匹飛び込んでこようと、足を踏み出したのが俺の視界に入る。
「もう少しおとなしくしてろ!!」
テンションがハイになっていた俺は何故か、盾を投げつけた。見事に命中して、1匹その場にとどまるが、もう1匹はなおも近づいてくる。
「……ゲームの鉄則。ゴリ押しでも個別撃破!!」
俺はそいつは無視して、目の前で怯ませた奴に追撃を加える。
HPバーは少しずつ減っていく。少なくともオーガよりはダメージは通っている。
「あと2発!!」
右から一撃!
そして左から一撃――入れた瞬間に、俺に対しても右から一撃!
「痛くないけど、痛い!!」
痛覚はないが、HPがわかりやすく減った。この調子だと、今のレベルじゃ3発で俺沈むな。
「だが、ポーション!!」
ショートカットに登録というなの、ベルトに装着していたポーションをひとつ使用して全回復。
「よっしゃあ!! って、さすがにそうだよな」
盾で踏みとどまってた1匹がくる。だが、1匹はさっき倒した。
「やってやるぁぁあ!!」
「あぶねぇ……あぶねぇ……」
残った自分の赤色になったHPを見てそう呟かざるにはいられない。
「おつかれさま……ってギリギリね」
「レベルはおかげさまで上がったけどな」
《メイン職業》まであと3レベルだ。
戻ってきたスズネさんはピンピンしてる。まあそりゃそうだよな、初対面の時に見たけど24レベルだったし。
「大丈夫? 少し休む?」
「町が近いならそっち行く」
「何とも遭遇しなければ5分ってところね」
「よし、じゃあ行く」
残り少ないがポーションでHPを回復させてから俺は立ち上がる。
「あと、ほら」
「うん? おっとと、忘れかけてたわ」
「そんな使い方初めて見たわよ」
「映画で見たのの見様見真似だけど、できたから使ってる」
盾を投げ渡されて、少しお手玉しながらキャッチする。そして左手に装備し直す。
「それじゃあ、行くわよ」
「了解なんだが」
「だから、何なのよその口調……」
何かに遭遇することはなく、俺は辿り着いた。
砂岩のような崖などが見える、岩でできた
「うっし、舗装された道の近くでレベル上げしてから《ソルジャー》になるか!」
「お疲れ様。それじゃあ、私はここでお別れかしらね」
「あぁ、そういえばそうだな……お疲れ様でした。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ。ゲームでは助け合いが大事だから当たり前のことしただけよ」
「そうか、そんじゃ」
時間的に、夕飯までもう少しあるし1レベルぐらいあげられるかな。スズネに手を降ってその場を離れる。
その後は少し割愛するが、石人間と比べれば弱いと感じてしまう同レベルのモンスターをバッタバッタと倒していたら、9レベルまで上がることができた。
そして、ポーションの補充に《ロックスソルド》に戻ってきた。ここまでだいたい1時間ぐらいだ。すると、さっきの場所になんかうずくまってる褐色少女がいる。
「もぅ……またやっちゃったぁ……なんで、こう最後に私は甘いのかしら」
ブツブツ言ってるな。ネットコミュニティの取り方を学ぶためにも、声をかけることに挑戦してみよう。幸い大人数の中からひとりではなく、あそこでうずくまっている少女に話しかけるだけだしな。
「あの~、大丈夫ですか?」
「えっ、あ、いや、あの、なんでもない――あっ」
驚いたように立ち上がって距離を取られたが、至極当然だから傷つかない。ただ、少女は数少ない知った顔だった。
「あ、スズネじゃん。クエスト終わってから何かあったのか?」
「あ、いえ、そういうことはないんだけど。その……うぅ」
何故か口ごもってしまう。一体なんだっていうんだ?
――もしや、俺と同類のリアルではコミュ症タイプ?
いや、それにしては俺にはすぐ話しかけてくれたしな。違うよな。
「…………」
「…………」
岩の町をバックに褐色肌のハンマー少女の絵は、結構いいなとかどうでもいいことすら考え始める沈黙が過ぎた。
「あ、あの!」
「は、はい!!」
沈黙を破ったのは彼女だった。ていうか、俺も驚いて気をつけの姿勢をとってしまった。
「と、友達登録いいですか」
えっ、いや待って。あれほど沈黙やうずくまって深刻そうだった理由がそれなのか。いや、助け合いが大事って言ってた人が、そんなわけないよな……そんなわけないよな!?
「……ど、どうぞ?」
「じゃ、じゃあ……」
すごい、ゆっくりぎくしゃくとした動きをするスズネ。そして、通知音が聞こえてメニューを開くと《フレンド》の欄に新着アイコンがでている。
『スズネから友達申請が届いております。認証しますか?』
俺が《YES》を押すと、フレンドの中にスズネの名前が追加された。というか、初めてのフレンドだから一番上に配置された。
「あ、これって、認証すると相互で登録されるのか?」
「えっ? えっ!? ま、まって、確認するわ」
すごいあたふたしている。もしかして、さっきの予想マジであたってる?
「と、登録されてるわ!!」
すごい笑顔になった。
「じゃ、今日は夕飯だから一旦落ちるわ。またな」
「う、うん。またね、ヒカク!!」
そのままの満面の笑みで手を振られて、俺はメニューから《ログアウト》を押してゲームを終了する。
そしてゲーム機を外して、自室のベッドに座り意識を落ち着かせる。
――めちゃくちゃかわいかった。
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