レポート2 褐色少女との出逢い

 視界が再び光から開放されると、目の前には大きな開いた門があった。

 そして多くのプレイヤーが出入りしたり談笑している。そしてさらに上を見ると、《グリフォンズシティ》と書かれた看板がでかでかをその存在を主張している。

「でっけぇ……」

 そんな感想が口から漏れでてしまった。

 当たり前ではないだろうか、現実だったら高い旅費を払ってヨーロッパでもいかなければ見れるわけはない景色が目の前に広がっているのだから――否、ケモミミ娘やエルフがいることも考えると現実で絶対的に味わえるわけのない物を、俺は感じているのだ。声に漏れてしまうのは、何度も言うが当たり前なんだ。

「さて、ここからは自由に行動できるんだよな……どうするかな」

 この大人数の中、特定の人に声をかける自信はないし、恐らくだが、首都というだけありここが一番使う拠点になるだろう……と考えれば、ここには初心者と発売当初からのベテランが入り混じっているはずだ。

「よし、ここは掲示板や事前情報として集めておいた、初期職業を決められる町に行こう」

 《メイン職業》は10レベルになって特定のクエストをクリアすることで、手に入れることができる。とりあえず俺が目指すのは《ソルジャー》。つまりは戦士職だ。

 盾と片手武器というのも、それだからこそ選んだ装備だったしな。

「えっと、マップ開けたよな……?」

 メニューを開いてマップを開いた。そして町の名前を探す。

「えっと、たしか《岩石町ロックスソルド》だったか……あったな」

 首都から北西に歩いていけばあるらしい。

 首都の中は明らかに人多そうだし、周りの草原をそって西門まで向かうか。

 俺はマップを閉じて、草原を走りだした。

「うおおおおおお!!」

 雄叫びを上げながら。


 そして俺は、大事な事前情報のひとつをすっかり忘れてしまっていたことを、たどり着いてから思い出した。

『グアアアアアア!!』

 首都の正門は南だけど、舗装されている道以外だと南方面が難易度高くて、北が初級向けだったんだ。そして、その正門から西門を草原を突っ切ろうとすれば、南西を突っ切ることになり――首都周辺で弱めとはいえ、始まりの町からでたすっとこどっこいではどうにもならない《オーガ》に出会ってしまったら、為す術はないのだ。

「HPバーの横には20レベルって書いてあるな。つまり《メイン職業》をとって特訓した後くらいなら倒せそうだから、初級のエネミーといえばそうなわけだ」

 現実逃避の分析なんかを初めて見たりしてな。

「ちょっと、あなた何をしているの!!」

「うん?」

「伏せなさい!!」

 どこからか声が聞こえてきたので、とりあえず――従ってみよう!

 おもいっきり伏せる。いや、もはや土下座に見えるかもしれない。オーガに土下座する俺の図の完成だ。

 その瞬間、目の前でオーガがぶっ倒れて、体は霧散した。つまりは、HPがなくなって倒れた。

「オーガの目の前で何をしているのよ!!」

 俺はその声の主が前にいることを声から確認して、ゆっくりを顔を上げる。

 最初にみえたのは褐色肌の足だった。必然的にどこまでいっても褐色肌のキャラメイクになっているようだ。そして次に目についたのはくびれ。細いが、心配になるほどではないいい感じの、引きこもりの俺でもそれがわかっちゃうね。

 そして胸はでかい。巨乳と普通の間くらいかもしれないが、形が良い――そして、髪は金髪か、いや銀髪……プラチナブロンドとかクリーム色っていうのか、そんな感じのツインテールだ――が、そんなことはどうでもいい!!

 ――肩!!

 ――肩が綺麗だ!!

 ――これ、絶対にうなじもいい感じのやつじゃねえかな!!

「な、なに、じろじろ見てるのよ!」

「……あ、あぁ、えと、あの――どちらかというとすまない」

「他の選択肢は何よ!」

「ありがとう」

 俺、何言ってるんだ。いや、マジでリアルで女子と関わることがないからキョドりかけてどうにか、言葉に出してみたけど――これただの本心の感想じゃねえか。

 そうです、俺は美乳と肩とうなじ好きの高校生です!!

「それで、何してたのよ? オーガの目の前で……って、このレベルでなんでここにいるのよ!? ……というか男だったのね。後ろからだと細くて髪長いから勘違いしちゃってたわ」

 どうやら、俺のステータスをチェックした模様。

「えっと、《ヒカク》って名前なのね」

「その通りだ。そういうそっちは……《スズネ》か。もしかして、本名?」

「違うわよ。教える気もないけど、そうね。鈴の音が好きってだけの話よ」

 彼女は右手で指を立ててそういう。何だその仕草。

 ちなみに俺のキャラ名の《ヒカク》は本名の日角秋の日角の読み方を変えたやつだ。

「まあ、俺は移動してたというのが100%正しいと言わざるをえない!」

「さっきから、たまにでるその口調はなんなの? RP(ロールプレイ)?」

「TRPGは好きだが、そうじゃない……気にしないべきだ、そうするべき」

「まあ、わかったけど……移動ってどこに向かってたのよ? まだ《メイン職業》も取れない4レベルじゃない」

 現在4レベルだ。クズスライムとクエスト報酬の経験値でそこまでは上がった。

「《ソルジャー》予定だから、ロックスソルドに行こうと思って、ただ人混みがすごいから国の中を通りたくなかっただけだ」

「あぁ……まあ気持ちはわからないでもないけど。しょうがないわね、私もロックスソルドのクエストクリア報告しに行くし、一緒に言ってあげるわよ」

「それは本当か?」

「嘘つく必要ないでしょう。ゲームは楽しむために協力プレイは惜しまないわ!」

「それじゃあ、よろしくお願いします」

 ペコッと礼をしておく。礼儀だけは正しくしないとな――嘘だ。挨拶するときに視線をそらす方法として、頭を下げちまう礼はすごい合法的な手だからだ。

「そんな、改まって頭さげないでいいわよ!」

「マジか。じゃあついでに言葉もこのままでいい?」

「どういうこと?」

「いやほら……ネットって年齢わからないから外見で判断するしか無くて、同年代と判断したから」

「あぁ、まあ私も堅苦しいのは苦手だからいいわよ」

 プラチナブロンドの髪を揺らしながらそう答える。少し視線下にやったら胸を揺れてそう。金属鎧きてないし。

「じゃあ、このままでよろしく。少しの間だが」

「そうね」

 かくして、俺は褐色肌の肩綺麗美少女のスズネと行動をともにすることになったわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る