23 大規模爆風爆弾
「くっ……曲者っ!」
突然現れた俺達を見て、エレーニアのそばにいる男が変な言葉を口走って来る。
「な、薙阿津さん。どうしてここに?」
エレーニアも相変わらずのいい顔で驚いていた。
「いやな。神器機関が何かやるつもりだって聞いてたから見に来たんだよ。すごい双眼鏡もあるみたいだし」
俺はエレーニアが覗いていた機械を指さす。だが改めて見ると、どう見てもただの双眼鏡じゃないな。映画の撮影にでも使いそうな、ビデオカメラみたいな機材とでも言えばいいか。
「これは双眼鏡などではないですわよ。レーザー目標指示装置ですわ。これで玄武の位置情報を指示して大規模爆風爆弾を誘導するんですのよ。とても重要な任務ですわ。だからこうして警備も厳重にしているというのに……」
改めて周りを見回すと、エレーニアを始めAランク相当の強い人間ばかりが揃っているようだった。
その厳重な警備もテレポートの前には無力だったわけだが。
ここで十名ほどいる神器機関の人間の中から、男が一人歩み出てきた。
中年の日本人男性だ。あきらかに非戦闘員という感じのおっさんだ。そのおっさんが、いやらしい口調で話しかけてくる。
「いやいや、そこにおられるのは世界が誇るEXランクの一人、カーヴェル・ソサディアさんではないですか。なんでも世界最強の魔法銃でロード種も一撃で仕留めてしまうとか。それに隣にいるのは、国際刑事警察機構の瀬上 聡理 捜査官ですね。テレポーター。Cランクとは言えあなたも世界的に優れた能力者だ。ですが――」
おっさんはわざとらしいくらいにこちらを持ち上げてくる。だが、それは後に続く言葉を強調したいがための布石にすぎなかった。
「あなた方のような、一部の強者が戦局を左右する時代は今日終わる。これからは技術が戦場をもリードする世界へと変わるのです。そしてその世界を動かしていくのはあなた方のような英雄達ではない。私のように……金と権力を持った者が全てを動かす時代へとシフトするのですよ」
うざいレベルの成金野郎だった。正直話をするのもめんどくさい。
(緋月、お前が相手しろよ。お前こういうの得意だろ)
(私もこの手の輩は好かないのだがな。だがいいだろう。国連で登りつめるにはこういう手合いの相手もせねばならぬからな。今のうちから慣れておくとするか)
俺は戦闘専門だからな。こういう類の人間は政治家志望の緋月に任せるに限る。
「なかなか興味をそそられるお話ですね。くわしくお聞かせ願いたい所です。実は私は近く神器機関に入る予定なのですが、入った暁には銃火器部門を拡張させたいと考えているのですよ」
「ほう、それはそれは。君は中々見どころがあるようだね。どれ、私が色々と教示してあげようではないか。だがまずは情報の重要性について話をせねばなるまいな。例えば私がこの世界での普及を目指している先進個人装備システムについてだ。この世界ではインターネットこそ一般に開放されてはいないがネットワークそのものは――」
よく分からん話をしながらおっさんは緋月と一緒に離れて行った。
「……え? あれいいの薙阿津」
パンネが心配そうに聞いてくる。
「緋月だからな。大丈夫だろ。あのおっさんだってあれだけ偉そうにするからには少しは権力もあるんだろうしな。緋月の踏み台にはちょうどいいんじゃないか?」
「そ、そうなんだ……」
パンネも納得した所でエレーニアとの話に戻る。
「とにかく、この機械は作戦に使うものなので勝手に触ったりしないで下さいね。それに作戦なら肉眼でも十分見れますわ。純黒結界もここからしっかりと見えますでしょう」
エレーニアが玄武のいる場所を指さす。巨大な黒い結界が良く見えた。
この世界に来て五感も鋭くなっているからな。結界の周りで戦闘が行われている様子も良く見える。
向こうはリレ局長に……太郎さんもいるな。あとやたらと良く動き回っているネコミミの青年がいる。
「太郎さん達以外にもすごいのがいるな。あのオレンジ色の髪した猫人。空中にいる魔物にも飛びかかって素手で倒してやがる」
「ああ……ありゃハッカだね。一応あいつもEXランクの一人さ。中身はただのエロガキだがね」
EXランク五人目か。話しぶりからカーヴェルさんとは知り合いみたいだが。
なんにしても向こうは大丈夫そうだ。人の数こそ少ないが全員が精鋭に見える。その上でEXランクの護衛が三人もいるのだ。玄武を小善氏が抑えている以上、向こうの戦局が悪くなる気配はなさそうだ。
そして、すぐに作戦の時間もやって来た。
「輸送機が来ますわよ」
エレーニアが言うと同時に聡理さんの携帯が鳴る。
「私の方にも連絡が来ました。小善さんを回収してきます」
聡理さんもこの作戦の一員として組み込まれていたようだ。爆弾を落とす中心地に小善氏を置いたままの訳にはいかないからな。
現場の方では護衛として残っていたメンバー達が避難を開始していた。管理局への仮設ゲートをくぐって避難していく。現場には小善氏と護衛のリレ局長だけが残った。
「では、ちょっと行ってきますね。
聡理さんがテレポートで消える。そして向こうで一分ほど時間をおいて再び戻って来た。
「回収完了です」
聡理さんの顔には少し疲れが見えた。テレポートは文句なしにすごい能力だが使うのに相当魔力を消費するらしい。
半日近く結界を張り続けていた小善氏の方がまだ余力があるように見えた。
そして魔物の大群の中戦い続けていたはずのリレ局長は、やはり無傷で息ひとつ切らしていない。EXランクの中でも、リレ局長の力は頭一つ抜けているように思える。
「妾のことは向こうに置いといてくれても良かったんだけどな」
リレ局長は恐ろしいことを言っていた。爆弾程度では死なない自信があるのだろう。これから落とされるのは対神獣用の新型爆弾のはずなのだが。
「ま、今回は神器機関のお手並み拝見といこうかな」
リレ局長もこれからの展開には興味があるようだ。緋月と中年のおっさんも話を中断して戻ってきた。
そして大きな音と共に俺達の頭上を輸送機が通り過ぎて行く。
玄武のいる場所ではゲートが管理局側から閉じられる所だった。こちらには仮説ゲートの外枠だけが残される。
そしてそばでは、小善氏の結界から解き放たれた玄武が大きな咆哮を上げていた。
「輸送機がビームで落とされなきゃいいけどね」
リレ局長が不吉なことを言ってくる。だが作戦までにそんな隙が生じることはなかった。
輸送機の後ろにある貨物扉はすでに開いている。そしてそこから、パラシュートが勢いよく飛び出した。そのパラシュートに引きずられるようにして、大規模爆風爆弾がその姿を現す。
「なんだありゃ。……でかいってレベルじゃねえぞ」
輸送機の後部ハッチから滑り落ちたのは、小型トラックほどの大きさがある、超大型爆弾だった。
大規模爆風爆弾は玄武のいる方角へと音もなく落ちてゆく。そして落下しながら軌道を修正し、大規模爆風爆弾は玄武のすぐ真上で大爆発を起こした。
巨大な玄武の体が爆発の炎で完全に覆い尽くされる。
そばでは玄武の攻撃で半ば崩壊しかけていた街が、爆風で火山の噴石みたいに飛び散って行くのが見えた。玄武の周りにいた魔物の大群も大量に飛び散っている。
「……やった……のか?」
俺は無意識に声を漏らしてしまう。
大規模爆風爆弾の凄まじい爆発により、爆心地からは巨大なキノコ雲が立ち上り始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます