22 国連の思惑

 ゲートをくぐって前線の街へと到着する。最初に俺と緋月でサブマシンガンを乱射した街だ。


 街の中は人口密度がかなり高くなっていた。傭兵だけではなく国連軍の本隊も来ている。


 神器機関をはじめ色々な部署の人間がいるためすごく雑多な感じだ。なんというか……街の中は喧騒と活気に溢れていた。


 夜明けまでの戦場の様子とは一変している。魔物への対処も完璧に出来ているらしく、街の中には戦いの雰囲気がまるでなかった。


 ちなみに玄武がいる街に出なかったのには理由がある。あの街は特殊作戦のために現在立ち入り禁止となっているのだ。


「向こうは現在、小善さんを守るための最低限の人員しか配してないですからね」


 俺や緋月は作戦の詳細を知らないのだが聡理さんは知っているようだ。


「そういえば神器機関が何かやるつもりだって言ってたよな?」


「はい、大型輸送機からの精密爆撃ですね。大規模爆風爆弾と言う兵器を使用すると言っていました。通常兵器では最大の威力がある爆弾だそうですよ。地球のとは詳細が違う所もあるようですが、半径二百メートルの建物を根こそぎ吹き飛ばす威力があるという話です」


 半径二百メートル。東京ドーム三、四個分くらいの広さか。通常兵器最大というだけあってかなりの破壊力とは言えるのだろう。だが……


「それで……神獣は倒せる計算なのか?」


「いえ、さすがに爆弾一発で倒せるとは上も思ってはいないようです。むしろこれは、デモンストレーションを兼ねているという見方が一般的ですね。この世界では人道的観点から航空機による無差別爆撃などは禁止されていますが、この大規模爆風爆弾は命中精度も高いという話ですから。まあだからと言って人同士の戦争で使われることはないとは思いますが。国連の、各国政府に対する牽制としての効果は大きな物があるでしょうね」


 各国への牽制にデモンストレーション……か。神獣との決死の戦いのはずがなんだか変な話になってきているな。


 俺がいぶかしんでいると、聡理さんが説明を追加してくれた。


「国連の上の人達は、神獣を倒すこと自体は確実に出来ると考えているようなんです。その上で各国に対して国連の力を見せる絶好の機会だと思っているふしがあります。前回の対神獣戦から二十年、この世界では大きな戦いが一度も起きていません。その間に神器機関は、軍事面で大きな飛躍を果たしていますからね。国連は今回の対神獣戦で……この世界での戦いのあり方そのものを変えてしまうつもりのようです」


 何やらすごいことになっているようだ。



 俺は最初に神獣が現れたというニュースを見たとき、この世界の技術力ならEXランクが前線で戦わずとも物量で押す戦法もあるんじゃないかと考えていた。


 その考え方で正解だったということのようだ。


 小善氏の結界で玄武を封印出来た時点で、この戦いの勝敗は決まっていたと言えるのかも知れない。


 本当に、国連軍が到着するまでがこの戦いの正念場だったというわけだ。


「今はEXランクの何名かも小善さんの護衛としてついていますが、結界を解除した後は神器機関主導で玄武を倒す計画になっているようです。実はまだ……傭兵ギルドなどとの調整がつかずにもめているそうですが。上の人達は物理兵器のみで神獣を倒しきってしまうつもりのようです。使う人員も全てAランク以下。本当にSランク以上の人間なしで神獣を倒し切れば、世界に激震が走るはずですよ」



 俺は……この世界では魔法障壁があるために銃火器は不遇な扱いを受けていると思っていた。実際傭兵なども、ランクが上がるごとに剣や魔法を使う人間ばかりになる。


 だが逆を言えば、ランクが下がれば下がるほど銃火器を使う人間はこの世界にも存在していたのだ。


 元々この世界で、銃火器が武器として使えないなんてことはない。


 例えばCランク傭兵のシン。シンは森で一緒に戦った時サケマグロ一体を倒すのに苦労していた。だがそのサケマグロは、パンネの持つただのマシンガンで倒すことが出来ていたのだ。


 つまり能力なしの純粋なマシンガンでもCランク相当の力はある。むしろCランク以下なら銃火器で戦った方が安全に敵を倒せるくらいだ。


 俺の周りにいる人間が軒並みBランク以上だったから気付かなかっただけで、この世界では元々銃火器が使用されていないわけではない。だからこそ普通にガンショップも存在するし、魔法銃なんて代物も独自に開発されてもいたのだ。


 つまり……ランクが上がるほどに使う人間が減るとはいえ、この世界においても銃火器は十分有効だと言うことだ。



 だがそれでもこの世界では、銃火器が戦争の主役になることは今までなかった。ただし、これからもそうではないということなのだ。



 この世界では二十年近く大きな戦いがなかった。その二十年ぶりの大規模戦闘が起こったまさに今、この世界の戦いの歴史が塗り替えられようとしている。


 現代兵器……いや、地球発の軍事技術の力を、今日、この世界に住む全ての人間が目撃することになるだろう。


 もはや国連にとっては、神獣でさえそのための実験動物にすぎないということなのだ。


「気にくわないねぇ……」


 カーヴェルさんが口を開いた。


「戦いってのは、昔も今も人間がやるもんのはずだろ。それは地球でだって同じはずだよ。それを科学技術だけでどうにかできると思っている辺り、あたしゃ上の連中の気が知れないね」


 カーヴェルさんの言うことは、確かに半分は当たっている。


 現代の地球においても戦いの主役はあくまで歩兵だ。戦闘の主な形態が対テロ戦争に変わってからは、特に市街地戦において歩兵の重要度はむしろ増している。


 だがそれこそ、地球の技術が進み過ぎた結果だった。地球では第二次世界大戦で核兵器を完成させるに至り、正規軍同士がぶつかり合うこと自体が減っているから局地戦が増えているに過ぎない。


 本当に大国同士が全力で戦うのなら、今の地球は大陸間弾道ミサイルの打ち合いになるはずなのだ。


 今日の結果次第によっては……この世界でもそういう時代が始まるに違いない。


 もっとも、アメリカ以上の力で国連が全世界を支配するこの世界では、すでに二十年以上前から地球と似た状況にあったとも言えるのだが。


 ともかくこれまでの高ランク能力者に頼った戦闘のあり方が、銃火器主導による物量至上主義の物へと姿を変える日がもうすぐやってくると言うことだ。


 銃火器の地位が上がるのは悪くないが……戦場から英雄がいなくなるというのは寂しい気がしないでもない。


「国連の思い通りに事が運べばいいがな」


 緋月の言葉で、俺は楽観しすぎかも知れないと思い直した。


 今後の世界がどうなるにせよ、上の連中が思うようにすんなり玄武を倒せるならそれに越したことはないのだ。


 だが、まだそうなると決まったわけではない。全てはこの戦いの結果次第だ。この戦いがどう決着するのか、最後まで見届ける必要があるだろう。


「どこか見晴らしのいい場所でもないかな……」


 俺は辺りを見回す。すぐに街で一番高い建物が目に付いた。さらに知ってる顔を発見する。頭にミニハットが乗っていた。


「エレーニアもこっちにいるじゃねぇか。あいつ何やってんだ?」


 俺の声でみんなもエレーニアの存在に気付く。


「なんか双眼鏡みたいの覗いているわね。私達も見させてもらいに行こうよ」


 俺もパンネの意見に賛成だった。ただ街に人が多すぎるせいで向こうまで行くのも大変そうだが。


「テレポートで向こうまで飛びましょうか」


 聡理さんの言葉に甘えさえてもらうことにする。


 俺達五人は、聡理さんの能力でエレーニアがいる建物の屋上へと飛んだ。

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