14 決意

 マグロードを倒した俺達はそのまま歩いて最寄りの街に立ち寄った。異人会へと帰る前にそこで体を休める。


 パンネの兄、佐藤 太郎とは街へつく直前に合流した。太郎さんはパンネと同じ金髪ウサ耳のイケメン騎士だ。やはり造形には日本人的要素が全くなかった。とても太郎という名前を持つ者には見えない。


 そして佐藤 太郎はいい人だった。まずは心配していたパンネと話し、その後俺達にお礼を言ってきた。ただし……パンネとは少し揉めていたが。


「また捜索部を辞めろって言われた……」


 パンネの身を案じているのだろう。太郎さんも被召喚者捜索部に所属しているがこっちはEXランクだからな。通常のA~Eランクの上に存在するSランク、そのさらに上の最高ランクだ。魔力だけでもあきらかに強いのが分かった。


 パンネの進退については結局保留となったが、しばらくは太郎さんも異人会のニムルス支部に滞在するとのことだ。今回は着の身着のままだったので、また後日ニムルス国に来ると言って帰って行った。


 太郎さん、かなり大きな案件を中断して駆けつけて来ていたらしい。妹思いのいいお兄さんだった。



 佐藤 太郎と別れた後は男女に分かれて風呂に入る。


 綾ちゃんに早く緋月を見せたい気持ちはあったが緋月が拒否したのだ。みんな服が汚れていたし細かな傷などもついていたためだ。


 緋月が言うにはせっかくの再会をそんな姿ではしたくないとのこと。それには俺も賛成だった。


 俺達が傷だらけのまま行けば綾ちゃんはまずそっちを心配するだろう。


 だがせっかく緋月と綾ちゃんが再会する場面をそんなことで少しでも台無しにはしたくない。だから戦闘などまるでなかったかのような格好で、緋月と綾ちゃんは再会させようということで話は決まった。


 そのためにボロボロになっていた服の代わりも買ってある。ちなみに緋月はお金を持ってなかったのでそれは俺が貸しておいた。返済は今回の報酬でしてもらう。


 傭兵ギルドに連絡してサケマグロやマグロードの回収は頼んであるからな。元々の依頼であった基地局設置の報酬よりたくさんのお金がもらえるだろう。


 ちなみに報酬は緋月も含めた六名で山分けする。緋月は何もしていないからいらないと言っていたが、この世界に来た餞別とでも思えと言ってある。



 緑髪のおっさんと青猫君とは風呂の後で別れた。おっさんは異人会の人間だが、青猫君の付き添いで一度傭兵ギルドに寄るのだそうだ。


 俺と緋月、パンネ、エレーニアの四人が残った。


「エレーニアは神器機関ってとこに帰らなくてもいいのか?」


 気になったので聞いてみた。返事としては帰る予定はないとのこと。そもそも神器機関のある国は、このニムルス国とは別の国なのだそうだ。


 むしろ行き先は俺達と同じだった。エレーニアは実は一週間近くニムルスの異人会にいたらしい。理由は今日の任務のためだ。


 異人会の中で会わなかったのはエレーニアが研究施設に引きこもっていたため。ただしパンネとは何度か会っていたそうなのだが。


 まあ今日で仕事は終わったのでこのまま神器機関に帰ってもいいそうだが。せっかくなので他の基地局の点検などをもう少しやっておきたいとのこと。


 だがそれについては言い訳くさかった。エレーニアは街についてからもチラチラと緋月を見ていたからな。


 もしかしてエレーニアは緋月に気があるんじゃないかと俺は思う。つまりそっちの趣味の人間と。


 だが話を聞くと、エレーニアが見ていたのは緋月の荷物の方だったそうだ。


 緋月の充実した対異世界装備か。ここに来て頭の痛い問題が現れた気がする。


 この世界の文明は地球と遜色ないほどに発達している。その時点で緋月の持ち物は半分以上が大したことのない物へと変わるだろう。


 だが緋月だからな。


 これだけ発達した異世界でも、まだ世界レベルで問題になるような物を持ち込んでいる可能性は高い。


 先が思いやられる。


 だがそれは明日以降の話だ。エレーニアも無粋に緋月を詮索したりはしなかった。


 今日は緋月と綾ちゃんの再会が最優先なのだ。


 俺達はそのことをしっかり確認してからニムルスの異人会へと帰った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「緋月ちゃん。本当に……緋月ちゃんだ」


「ああ。……綾、遅くなって本当にすまない」


「ううん。緋月ちゃん……会えて本当に嬉しい」


 綾ちゃんは泣きながら緋月に抱きついていた。本当に……綾ちゃんの顔は心の底から嬉しそうだった。



 その後はみんなで食事をしながら話をして解散となった。積もる話もあるだろうから綾ちゃんは緋月の部屋に向かわせる。


「うん。私はもっと話したいから緋月ちゃんの部屋行くけど。薙阿津さんは来なくていいんですか? 薙阿津さんも緋月ちゃんと積もる話とかあるんじゃ……」


「ない」

「ないな」


 俺と緋月の返事が被った。二人のシンクロ具合に押されたのかそれ以上綾ちゃんは何も言わなかった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 緋月と綾ちゃんを見送り俺も自分の部屋へと戻る。


 部屋の中で俺は最近の日課となっている銃の分解に取り組んでいた。ハードな一日だったため疲れていたが疲れているのは銃も一緒だ。いつも以上に入念なメンテナンスが欠かせない。


 だが銃を使わない日でもこの分解と組み立ては毎日やるつもりでもいる。というか夜の間は何度もこれを繰り返すつもりだ。


 一つは、銃が故障した時迅速に対処できるように。


 そして二つ目の理由として、銃の構造に熟知すると俺の能力が上がる気がしているからだ。


 この世界における魔法は全ての根底にイメージ力が関係している。脳内に確固としたイメージさえあれば、それでこの世界の魔法は完成するのだ。


 それはユニークスキルにおいても変わらない。いかに自分の能力を理解しそのイメージを確固たるものにするか。そこに全てがかかっている。


 銃の威力を強化する俺の能力は、正直言うと原理がよく分からない。


 俺の撃つ弾丸にはまず弾丸そのものに魔法障壁がついている。だが弾丸に障壁をまとわせただけでは威力はそこまで上がらないのだ。


 剣術なら単純に剣を振る力。弓術なら弦を引く力。それらの力も上がっているから敵の魔法障壁を突破しえる。


 それを銃に置き換えると、威力を上げるにはやはり火薬の爆発力を高めるのが手っ取り早い。


 これは魔法銃にも使われている技術だ。魔法銃は普通の銃なら銃身そのものが壊れるような量の火薬を使っている。そして銃身の方を魔力で強化するのだ。銃身そのものに障壁をまとわせることは剣と同じ方法で出来る。


 この射撃法に特化した銃がガンショップに売っていた魔法銃だ。実際にはもっと高度な技術も使われているそうだが基本はこうだ。



 だが俺の能力に関して言えば火薬の爆発力を高める以外の方法で弾の推進力が上がっている。ここが俺の能力の一番不思議な所だ。


 そしてこういう原理が分からない部分が存在する所が、ユニークスキルの特徴だとパンネは言っていた。


 パンネのアイテムボックスに至っては一から十まで原理が分からない。



 そしてこの原理が分からないという点は能力を鍛える際のデメリットとなる。属性魔法なら最初から訓練法が確立されているし、原理が明確ならその原理をより強くイメージすることで能力の向上を図れるのだ。


 原理が分からない状態でイメージをより明確にする作業は困難を極める。パンネなどはそれが一つの悩みにもなっていたそうだ。だがパンネはある日吹っ切れたようで、とにかく使いまくれば強くなるだろうと思い直したそうだ。


 実際そう思うようになってからパンネの能力は向上したらしい。


 イメージ力なんて言うのは思い込みと大差はないのかも知れない。だから原理の不明なユニークスキルでも、これで自分の能力を上げられると本人が思えれば実際にそれが結果として現れるのだ。



 俺の場合はそれがこの銃の分解と組み立てだった。俺はスキルを使う際、銃身の中に魔力を通してその魔力で弾丸を包むイメージを頭の中に描いている。


 だからそのイメージを強化するために銃の内部構造を知っておくのは有効だと俺は思うのだ。


 その考えのもと、こうして俺は銃の分解と組み立てを繰り返している。


 あとこれをする第三の理由として、銃の分解と組み立てが速く出来るとかっこいい気がするというのもちょっとだけある。




 俺は銃のメンテをしつつ今日の戦いを思い返していた。


 俺は今でも神獣を倒す目標を捨ててはいない。だがマグロードは決してEXランクが必要な敵ではなかったそうなのだ。これは太郎さんに聞いた。


 サケマグロの上位個体であるマグロード。これに限らずロードと称される特殊個体は大体Sランク相当の力がある。倒すにはSランクが二名以上か、Sランク一名に補助が何人かつけばまず倒せるそうだ。


 今回太郎さんに救援要請を出したのは、異人会に適当なSランクメンバーが存在しなかったためだ。


 つまり太郎さんであればマグロードは一人で倒せたとのこと。EXランクとはそのレベルの存在なのだ。


 そして――神獣。神獣が出た際には世界に七人しかいないEXランクが全員駆り出される。神獣とはそのレベルの化け物なのだということだ。



 俺はこれまで普通に傭兵をやって鍛えることしか考えていなかった。だが今日の戦いを経て、自己流では神獣と戦うレベルには到達できないとも思い始めている。



 誰か師事する人間が必要なのかも知れない。今日一日を振り返って、俺はそんなことを考えていた。

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