第2話 ささやかな幸せ
ガチャ・・・
『ただいま』
────あこはベッドで気持ちよさそうに寝ていた。
『ふっ・・・可愛い寝顔。何も掛けずにこんな無防備に・・・』
昌臣は脱いだジャケットをそっとあこの身体に掛けた。
そのまま昌臣はシャワーを浴びに行った。
(ん・・・あれ、このジャケット・・・)
あこは掛けてくれたのに気付き、シャワー浴びに行く昌臣の姿を横になったまま目で追った。
(もうこんな時間・・・起きてお昼の支度・・・しなきゃ)
ダル重い身体をゆっくりと起こし、エプロンを着けてキッチンへ向かった。
冷蔵庫にあるものを確認して・・・
「よし、お昼はオムライスにしようかな!」
あこは雇用に材料を切りそろえて、手早く調理してお皿に盛りつけた。
もちろん、包んでいる玉子には、ベタだけど"love"の文字を書いた。
昌臣の事をずっと想いながら作っていたため、1人ニヤニヤしながら作業していた。
『おい、なにニヤニヤしてるんだ?気持ち悪いぞ』
昌臣はシャワーを済ませ、髪の毛をタオルで拭きながらリビングへ来た。
「えっ、ちょっと・・・いつから居たの!?」
『今来たばかり。何そんなにニヤニヤしてたんだ?』
「いや、あの・・・ずっと昌臣の事想いながら料理してて・・・ね!それで・・・色々思い出して・・・」
『ふぅ〜ん。思い出したりしてニヤニヤするんだ、あこは。可愛いねぇ。』
「な、なによ!別にいいでしょっ!」
そう言うとあこは、オムライスをテーブルに運んで食事の準備をした。恥ずかしさを隠すために必死に食事の準備をする姿をジッと見ていた昌臣は、気持ち抑えきれず、後ろからあこを抱きしめた。
『ねぇ。どうしてそうやって俺の理性を崩すようなことをするの?わざと?それとも・・・無意識?俺、気持ち抑えられなくなっちゃったよ?どうしてくれるんだ?』
「そ、そんな事言われても・・・っ」
『ふっ、まぁいい。仕事終わりの楽しみにとっておく。お前の心も身体も手術という名の"支配"できるのをな』
そう耳元で囁き、意地悪な笑みを浮かべ椅子に座った。
あこはそんな事を聞かされドキドキが止まらなかった。
『いただきます。お前も早くたべろ。遅刻するぞ』
「わ、分かってる!食べます、食べるよ!」
まだドキドキは止まらず動揺までもしていた。
『あこ、動揺してるね。ドキドキ止まらないの?』
「っ昌臣のせいだよ!あんな風に囁いて・・・言われて・・・仕事前なのにっ!」
『勝手にドキドキしたんだろ?やんわりと俺のせいにするなよ。仕事でも別にその調子でも構わないぞ?今日からお前は俺の下で仕事するんだからな』
ニコニコと笑顔でそう言った。
「なっ!どうして・・・何も辞令おりてない・・・よ?」
『俺を誰だと思っている?前にも言ったが、人事は任されている。こう言う変更俺がやる権利を持ってる。ましてや"妻"である君の仕事変更なんて辞令出すまでもない。俺の好きにできるのは夫婦の特権だな』
「そう・・・なのね。でも、私、内科看護師だよ?昌臣の下で仕事なんて・・・務まるのかな・・・」
『当たり前だが、内科とは勝手は違う。だから、俺がお前につきっきりで教えながら仕事だ。』
「そう・・・分かった」
『俺は厳しいぞ。噂で聞いてるとは思うが。普段の俺とは違う。途中で投げ出すなよ。』
「もー。今からそんなこと言われたら怖くて震えるじゃない・・・お手柔らかに・・・お願いしますっ!」
『ほら、さっさと食べていくぞ!遅いんだよ、お前は!』
そう言い放つと昌臣はリビングを後にし、準備を始めた。
(ひぃ〜っ!もうお仕事モード!?)
『ご、ごめんなさいっ!』
あこは急いでオムライスを頬張った。昌臣の食器も片付け、仕事へ行く準備を始めた。
ささやかな幸せ・・・それは、この家での日常生活。
時間合う時は一緒に食事をする。
こういう日は必ず洗面所でも一緒になる。その時もう既に阿吽の呼吸・・・と言うか、歯ブラシに歯磨き粉をのせるのも私、洗面所では何でも昌臣が優先に事がまわる。
そんな時間とても幸せ。
『ん・・・』
「・・・」あこはいつものように歯磨き粉をのせた。
2人で鏡を見ながら歯磨きをする。この時間か個人的にとても好きだ。時々お互いに顔を見て様子を伺ったり、言葉で話さなくても伝わるものが私たちの間には存在する。
「ねぇ、昌臣。今日も寝なくて大丈夫?」
『ねる時間なんかないだろうが。ダメでも寝る時間ないんだからどうしようもない。医師はそんなもんだ。慣れた。』
「そう・・・無理はしないでね。昌臣の事心配してるの。」
『わかったよ。・・・もう出るぞ?支度は出来ているか?』
「うん、もう行けるよ」
『よし!少し時間押している。今日は車で飛ばしてくぞ』
「大丈夫?私が運転しようか?」
『・・・断る。お前の運転で車は乗ったことないし、確実に俺の方が・・・』
「もうー!わかったわよ。隣で大人しくしてます!」
昌臣の言葉を遮るようにあこは言い放った。
こうして、昌臣の運転で病院へ向かった。
まさかこの後、昌臣が勤務を変更した本当の理由を知ることになるとは思わなかった────
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