第5話 地下
そして脅威は、上から降ってくる。
瓦礫の上に転がりながら着地したのは、四足歩行の機動兵器。狼のような姿と体格を有し、体を構成する銀色の金属骨格と、まるで血管のような配線が剥き出しになっている。その荒々しい風貌は、野性的で、非情な暴力性を感じさせるものだった。
肉食動物が出すような、威嚇を込めた唸り声。両目の部分を赤く発光させながら、狼型機動兵器は近くにいる夕夏ら四人に敵意をばらまいた。
「ドッグ・ウォリアー……?」
夕夏が驚きと焦燥を思わせるような声を出した。
ちっ、と柴村が舌打ちをする。「
それは厄介この上ない事態だった。四人の表情が一気に曇り始めた。
その瞬間、
「逃げるぞ」
赤木の声を合図に、四人は走り出した。
そんな彼らの目の前に、今度は二体のドッグ・ウォリアーが降ってきた。間髪入れずに、夕夏と柴村が同時に発砲する。それぞれ三回の発砲音で、ようやく敵を無力化することができた。だが、機能を停止したわけではない。あくまで一時的な、不全状態に陥れただけだ。
四人は、横たわるドッグ・ウォリアーの傍を通過し、来た道を逆走し続ける。すると遥か上空、ショッピングモールの三階部分に、さらに三体の狼がいた。それらは標的を見下ろしながら、舞い降りるタイミングを見計らっているようだった。
その様子に気づいたのは水原だった。ふと上を見上げた際に、発見したのだ。彼女は足を止めると、肩にかけていた狙撃銃を素早く構え、スコープを覗き、遠方の敵に狙いを定めて引き金を引いた。三十口径の弾丸が見事に、一体のドッグ・ウォリアーの頭に命中した。引き続き、あと二体の頭にも銃弾をお見舞いしていく。
ドッグ・ウォリアーたちは、目の光を失くすと、遥か下の地面に落下していった。
「ナイス、亜紀」柴村が振り向いて、サムズアップした。水原は嬉しそうな表情で赤面する。
「さ、早く走れ」と水原の後ろにいた赤木が、彼女の背中をポンと押した。
間もなく、四人が入ってきた入口が見えてきた。外には彼らが乗ってきたジープが止まっている。
しかし、次の瞬間、ジープの陰から猿のようなシルエットの機動兵器が四体も飛び出してきた。紛れもなくゾンビロイドだった。ジープから少し距離の離れた場所にも、大量に集まろうとしていた。
さらにそれだけでなく、入口の壁の残骸からひょこひょこと、三体の体格の小さなゾンビロイドが追加された。
「こっちは駄目!」
夕夏はすぐに判断し、左に曲がる。三人も後に続いた。彼らは、眼前の広場を全力疾走する。一番後方にいる赤木が、追いかけてくる七体のゾンビロイドたちに繰り返し発砲を続けた。
銃弾は、幾体かのゾンビロイドに命中する。
やがて夕夏ら四人は、コンクリートの壁に空いた長方形の横穴を発見する。丁度人間が入れるサイズだ。ひとまず身を隠すために、彼らはそこに向かっていく。
赤木の奮闘のおかげで、追跡してくるゾンビロイドは、あと二体にまで減らすことができた。その内、一体を赤木が始末する。そしてもう一体が、赤木を襲おうと跳躍する兆しを見せた。赤木は引き金を引く。
カチッ。
無情な音が響き、銃弾が発射されることはなかった。弾切れだ。
「夕夏っ!」赤木が叫ぶ。
呼ばれた夕夏は、振り返りながら拳銃を構え、赤木に跳びかかったゾンビロイドに向け、弾丸を放った。次の瞬間、ゾンビロイドの頭部の破片が派手に飛び散った。
赤木は夕夏に感謝の視線を送った。
その間に、水原と柴村は壁に空いた横穴に入っていった。夕夏と赤木も二人に倣う。
穴の向こうには、今にも崩れ落ちそうな階段が設置されていた。
「非常階段か」と赤木は推測を述べる。
「そうみたいだな」柴村が反応した。「それで、こっからどう……」
彼が夕夏に指示を仰ごうとした時、爆発音が聞こえてきた。その影響で、コンクリートの破片と塵が、パラパラと上から降ってきた。
「何?」水原が眉をひそめる。
「自爆ゾンビロイドよ」
夕夏の言葉のすぐ後に、階段の上層部分が崩れ始めた。「まずい、早く外に!」
直後、連続で何度も爆発音が響き渡り、穴のすぐ外側に、大きな瓦礫がいくつも落ちてきた。それは外への道をふさいでしまう。
階段は地下に続いている。判断を迷っている暇はなかった。崩壊は進行しているのだ。
上から落ちてくる瓦礫の塊から避ける様に、四人は急いで、階段を下りていった。
そうして、地下の空間に彼らは飛び込む。
数秒後、非常階段は完全に崩壊し、地上への道は絶たれた。
暗闇と化した周囲。夕夏は立ち上がり、「皆、大丈夫?」と声を出した。
「ああ、なんとかな」と答えたのは柴村。「俺も大丈夫だ」と赤木。「水原も」と水原。
「集まって」
夕夏の言葉で四人は身を寄せ合う。だが互いの顔が、暗すぎてよく見えない。
それぞれの呼吸音が聞こえるだけの時間が、少しだけ経過し、夕夏の目は暗闇に慣れてくる。そして、目の前に現れたのは……
「何これ?」と水原が言う。
彼らの前にあったのは、直径二メートルほどの、重く厚みのありそうな鋼鉄の扉だった。
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