第2話


そう、その少年だろうと 思ったのだ。

左手に置かれた 、スーパーの袋。袋越しに赤いパッケージが透けている。

引き寄せて 覗けば確かに、これは彼のものだ。

愛と勇気を味方につけたヒーローの棒付きチョコレート、highmilkの文字が印刷された赤いパッケージの板チョコ、多種多様なチョコレートが詰まったバラエティパック。


それにしても、すべて食べるつもりだろうか。僕の目が間違えで無ければ板チョコ 7枚、ヒーロー 2組セットで5個、バラエティパック2つ。

脳にどれだけ糖分を送れば気が済むのか。

ただ、呆れている場合ではないのだ、これは彼の忘れ物。気づいてしまったものは無視できない。

この蒸し暑いなか バスの営業所まで連れて帰られたらヒーローは輪郭だけ残して跡形もなく ファンキーなことになるだろう。


でも…なあ…


確かにあった選択肢。

いや…でもさすがに…


頭にある選択を選べば チョコレート達はファンキーな事態は避けられるだろうが 僕がファンキーになってしまう。




ああ!もう!


タイミングよく目的のバス停に停り 蛇が獲物を狙い舌を伸ばすような音を立てて開いた扉。

左手にスーパーの袋、右手に鞄を持って ステップを降りる。



彼が着ていた学生服は近くの高校のものだったし、マンションが建ち並ぶこの地域で用もなくあのバス停で降りることはない。おおかた彼の家もこのあたりなのだろう。


今日この時間にいたのだから 来週いてもおかしくない。それまで僕の家で ヒーローたちを冷やして また彼を見つけたらその旨を伝えればいい。

見つけられなかったらその時だ。

知らないサラリーマンから返されても困るだろうか。でもまあ僕の家にあっても困るし、捨ててと言われたら捨てればいいことだろう。




そこら辺の思考は案外軽いのだ。


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