第4話 一枚の想い(後編)
落盤事故に遭ったダンを探す為、ユゥンは鉱山へ向かって飛行していた。
「で、どうやって探すつもりだユゥン」
その肩からドゴンがそう問いかけると、ユゥンは前方の鉱山を向いたまま応えた。
「ん? どうやってって?」
「あの村の救助隊が諦めたダンを、どうやってお前は見つけるつもりだ」
それは当然の問いかけだった。
鉱山を知り尽くした者たちが探して見つからなかったダンを、ユゥンに探せるのか。
そうでなければわざわざ行く意味がない筈である。
「私は見つけられないよ」
そしてユゥンは、あっさりとそれを否定した。
「だろうな」
その返答を分かっていたように、ドゴンは驚いていなかった。
「私は、ね」
そしてその返答にドゴンが小さくため息をつくのと同時に、鉱山の上空に着いた。
「よし、それじゃあお願いドゴン!」
ユゥンがドゴンにそう言うと、彼は面倒臭そうな顔で彼女の肩からふわりと浮かび上がった。
「……まあ、どうせそのつもりだろうとは思ったけどよ」
そして浮かび上がったままユゥンの前方にゆっくりと進み、少しして制止した。
「ユゥン、一つ訊いておく」
「ん? なに?」
ユゥンが首を傾げると、ドゴンは振り返らずにこう尋ねてきた。
「お前にとって、俺は何だ?」
「相棒だよ」
そしてその迷いない即答に、ドゴンは軽く肩を揺らした。
「結構、じゃあしかと拝聴しな。お前の相棒の、
竜人郵便局員が何故フェアリードラゴンを連れているか、それはフェアリードラゴンには他の生物にはない特性があるからである。
それが
自然界に数多く存在する姿なき精霊と言葉を交わす事によって周辺の事象を把握し、自身や目指すものの場所を正確に知り、危険な生物を察知して接触を避けたり、また荒れる天候の予知も出来る。
なのでフェアリードラゴンと共に居るだけで郵便の効率は格段に上がると判断し、竜人郵便局は食事や安全の保障と共に多くのフェアリードラゴンを雇っている。
そして雇われたフェアリードラゴンは様々な相性などを考慮したうえで、郵便局員とコンビを組んでいるのである。
「まあ……だからって落盤事故に遭った奴にまで手紙を届ける為じゃないんだがな……」
「まあまあ、それじゃお願いねドゴン」
「へいへい……さて」
ドゴンは一息吸うと、
「――――――――」
鳴き声とも吐息とも取れない不可思議な音を口から発した。
笛の様な、風のそよぎのような、不思議な音色がその場に響く。
「んー、いつ聞いてもドゴンの
「のんきな事言ってないで、あっちに急げ。かなり衰弱しちまってるぞ」
「じゃあ生きてるんだね! なら早く行かないと!」
こうして、一人と一匹はダンの元へのたどり着いたのだった。
「いやー、ダンさんが無事でよかったね」
鉱山の村を出たユゥンは嬉しそうに帰路についていた。
「俺は疲れたけどな」
「うん、今日は特にありがとうドゴン!」
ユゥンが軽く背中を撫でると、ドゴンは尻尾でそれを払った。
「だったら寝かせろ。
「うん、それもそうだね。ごめんなさい!」
どこまでも素直な自分の相棒に少し呆れたドゴンだったが、
「それにしても……」
ユゥンが下げている郵便カバンに目をやると、更に呆れた顔つきになった。
その目線の先には、溢れんばかりの食糧が詰め込まれた郵便カバンがあった。
ダンを助けてくれたという事で、村中からお礼としてそれぞれの家から肉や野菜などを持たされたのだ。
「お前、これどうするんだ?」
「うーん、配達先で貰った食料はそのままもらっていい規則だけど、これはちょっと多いね」
「……三日じゃなく、もっと貰っていても良かったな」
「別にそれでも私はいいけど」
ユゥンの言葉に少し考えるそぶりを見せたドゴンだったが、
「……いや、いい。三日分と言ったら三日分しか貰わん」
それを聞き、ユゥンは笑みを浮かべた。
「まったくもー、ドゴンはそういうとこ頑固だよねー」
「うるさい。さっさと局に帰るぞ」
「はーい」
ユゥンはそう言うと、カバンから貰ったものが落ちないように、それでいて疾風のごとく夕焼けの空を駆け抜けていった。
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