第33話 次なる敵は
ルキア将軍の船“パラベラム”の船医は、献身的と言っていいほどの姿勢でエテルナ様の治療に当たってくれました。その甲斐あって、船上の決闘から3日目、エテルナ様は無事意識を取り戻したのです。
「……エル、私は、どれだけ眠っていた?」
「3日です、エテルナ様」
僕は、目を覚ましたエテルナ様の横で、不覚にも涙がこぼれるのを、抑えることができませんでした。
「申し訳ありません、エテルナ様……僕は、何もできませんでした……」
うなだれる僕の手を、エテルナ様は力強く握ります。
「そんなことはない。エルはよくやってくれた。私たちはまだ生きている。魔物の国もまだ滅びてはいない。何も諦める必要はない」
エテルナ様は、いつの間にか、僕が思っていたよりもずっと強くなっていました。
僕は涙をぬぐい、精一杯の献策をします。
「今、僕たちには魔力の操作を妨害する拘束魔術がかけられています。この解除はそれほど難しくありませんが、解除すれば直ちに警報が鳴り、兵士たちに捕縛されるでしょう。エテルナ様の魔力が戻るまでに、船内の構造を把握し、脱出計画を……」
そのとき、船室のドアがノックされました。
「……開いている。入ってくれ」
エテルナ様の声に応じて部屋に入ってきたのは、ルキアでした。
「目覚めたか。その様子だと、早速脱出の計画でも練っていたか? だがその必要はない。私は、あなたに同盟を申し込もうと思うからだ」
ルキアの言葉に、エテルナ様は警戒を露わにします。
「同盟? 降伏勧告の次は同盟か。いったいどういう風の吹き回しだ?」
「状況の変化だ。もともと、この“パラベラム”の改装が完了した段階で、ネグロス島を急襲、痛撃し、魔物の国の海軍戦力を半減させ、次の作戦に向かうつもりだった」
ルキアは、部屋の隅にある椅子に腰かけ、言葉を続けます。
「期せずしてバルトルディ候が死に、ギルモア伯が反乱を起こしたことで、戦力を失うことなくネグロス島を占領できる状況が生まれた。“パラベラム”と、この艦隊の戦力であれば、一気に魔物の国の首府を陥落せしめることができるかもしれない。その期待を受けて、私は作戦を立案した。威圧して籠城戦に持ち込めば、私たちはベセスダの港を焼き払うだけで、全戦力を温存したまま魔物の国を無力化できるはずだったが、そこの少年に見事に阻まれてしまった」
「阻まれた? あなたは、僕の脅しなんて意にも解さなかったじゃないですか」
僕がそう反論すると、ルキアは笑いました。
「そう見えたか? 負けを負けと見せないのも、将軍の務めだからな。きみは自分でわかっていないかもしれないが、もし私がこのままベセスダに向かい、都市への砲撃を開始したとしたら、きみは他の何者をも犠牲にして、その爆弾を起動しただろう」
「それは……」
「ともかく、次の作戦を成功させるには二つの条件がある。まず、この船“パラベラム”が健在であること。次に、魔物の国からの攻撃が発生しない状況であることだ」
話を進めようとするルキアに、エテルナ様が問います。
「待て、次の作戦とはなんだ? 魔物の国のほかに、これほど大規模な艦隊を必要とする敵がどこにいる?」
これに対するルキアの答えは、僕たちが想像だにすらしなかったものでした。
「いるさ。次の敵は、帝国そのものだからな」
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