こちら魔物の国、中央銀行総裁室でございます。

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プロローグ 3つの願い


 あるエルフの村には、こんなことわざがあるそうです。


「違う種族の3人が、同じとき同じことを願えば、どんな願いでも叶う」


 残念なことに、これは言い伝えや伝説ではありません。「そんなことはありえない」という意味の、皮肉なのです。




 さて、あるとき、一人のオークが戦場に倒れました。

 彼は飢饉の年、妻と息子を飢えから救うために、兵隊に志願したのです。

 戦地に向かった彼は、愛する妻子の顔を再び見ること無く、ここで死んでゆきます。彼は死の間際、こう願いました。


「どうか今年こそ、降るべきときに雨が降り、小麦が無事実り、あの子たちが飢えることのありませんように」




 また同じとき、別の戦場で、一人のワーウルフが、銃で人間の男を撃ちました。

 彼はかつてまだ戦争が起こる前、その男とよく狩りの獲物を交換し合っては、酒を酌み交わしたことを憶えています。彼は自分の放った弾丸に倒れる友人を見ながら、こう願いました。


「あの男には子があった。もし俺が、その子と戦場で出会ったなら、その時はこの俺が死ぬ側であってくれ」




 同じ時、エルフの老爺が、一人の赤ん坊を川に流しました。

 その赤ん坊は、彼の孫娘が産んだ子なのですが、ダークエルフの血が半分流れていて、他のエルフたちと比べると肌が浅黒く、そんな子をエルフの村で育てることは許されなかったからです。彼は若木の枝で編んだ丈夫な籠に赤ん坊を寝かせ、川に流してから、こう願いました。


「ああ、この老いぼれを地獄に落としてください。その代わり、だれか正しき人が、あの子を拾って、生かしてほしい」


 幸運なことに、この老人が流した子どもは、下流で心ある人に拾われ、命を取り留めました。この子は、類い希な魔術の才能を見出され、ある貴族の家に養子として迎えられたのち、健やかに成長してゆきます。




 この物語は、かつてのこの赤ん坊が、不思議な人間と出会うところから始まります。

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