第5話

「さぁ、帰るわよ」


 とは言うものの、下駄箱に何か細工したのか気になって仕方ない。


 野暮だが、開けるか。


「あー、和之っ!」


 中から、ハート型の封印シールが貼られた水玉の封筒がはらりと宙に舞う。


 もしかして、ラブレター?


「夏奈加……さま?」


 あわてて回収する半林に、俺は問うた。


「あーあ、バレちゃった」


「見ていいか?」


「どうぞ」


 意外にあっさりと、封筒を俺に渡す。


 シールをはがし、中を引き出す。同じく水玉の便箋びんせんにワープロで

「今日の放課後、体育館の裏で待っています」

と印字してあった。


「まるもじ、どうしても苦手で書けなかったの」


 半林は頬を膨らませ、ふて腐れていたのだが、それが妙にかわいい。


「明日、登校したときに、和之が、見つけるでしょ」


 互いに向かい合わせた指を回しながら、とつとつと。


「放課後、体育館の裏へ。行くでしょ」


「行かない!」


「そこで、新しい彼女と出逢う」


「誰だよ?」


「私が用意するサクラ。友達に頼んでおくのよ」


「それを応じる友達がいるのか?」


「ダメだったら、体育館に行く前に不審行動で締め上げる」


 そう言って、腕を組み、首を締め上げるポーズをとる。


「いたら?」


「もちろん、私が密会に踏み込んで修羅場シチュエーション。三角関係ってよくない?」


「いけないだろ」


「最終的には私が勝つの! 私がメインヒロイン!!」


「だから、なんでそうなるの?」


「私の好きなギャルゲーで、そういうシーンがあるのよ」


「すでに彼女になった女子が手紙を入れるのか?」


「違うわよ」


 半林は手をパンと打つ。


「いい? ギャルゲーっていうのは、主人公一人に複数の美少女が出てきて恋愛する話。男性向けだけど、私はそれが好きなの」


「それはよーくわかってる」


「私に似た美少女キャラクターがいたら、そのキャラクターと主人公をくっつけるのに無上の喜びを感じるのよ。そこには、ライバルもいるわけ。それを押しのけて恋愛するのって素敵じゃない」


「いわんとすることは分からなくもないが」


「だから、ライバルを作って、それを押しのけて恋愛したいのよ」


「それがおかしいんだよ! 普通に好きな男がいて、恋愛すりゃいいんじゃないのか?」


「自分で言うのもなんだけど、三次元の男ってあまり興味ないの」


「じゃあ、なんで俺に構うんだ?」


「ヒロインの人に言えない秘密を握って、それを心配して付き合いはじめる……そのゲームが一番好き。付き合っているうちに親密になって告白するの。まさにゲームのリアル体験じゃない?」


 身振り手振りを交えて熱弁する半林に、俺は心底、彼女がギャルゲーが好きなのだと感心する。


「そんなにうまくいくか?」


「そのゲームの体験に付き合ってくれたら、本当に好きになってもいいかな? 今、彼女とかいないんでしょ」


「いないな」


「ほとんどのゲームは最初に出てきた女の子が攻略しやすいのよ。だから、私を攻略しなさい」


「それでなぜ、他にライバルを作って二股させようとするんだ?」


「ゲームだからよ!」

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