第3話

「あつ、そうだ。携帯の番号とメアド、交換しましょ」

「悪ィ、俺、携帯もってないんだ」

 そういう俺に、彼女はある提案をしてきた。

「じゃ、今度の日曜日に契約しに行きましょ。私のおそろいで」

「おいおい、恋人になって早々、デートの約束か?」

 休みの日まで俺を監視するのか? ただ、「オタク」である、というのがバレるのが怖いだけで。

「デート、いい響きだわ。よーしっ! 決定ね。」

 勢いよく拳を振り上げがった。

「俺はオーケーしていないのだが……カネもかかるしな」

 そういう俺に、彼女はしらっと言い放つ。

「このセクハラ男」

「お前が俺の手を自分の胸に押し当てたんだろうが」

 すると彼女は目許に手をあてて、弱々しく言う。

「和之くんがわたしのコト、いぢめる……」

「わかった、わかった。降参だ。で、携帯買ってどうしろっていうんだ?」

 彼女の迫真の演技に付き合うのに疲れたよ。

「もちろん、彼女のピンチを護るために必要なのだよ」

「つまりは、お前に呼び出されてパシリにされるだけか」

「その、『お前』っての禁止! 夏奈加たん……はやめておこうか。夏奈加様、と呼びなさい!」

 俺の方をびしっ、と指して言う。

「わかったよ、夏奈加様……」

「よろしい!」

 そういうと腕をふりほどき、らったらた~ん、と擬音を口ずさみながら階段を駆け下りる夏奈加。一段飛ばしで、踊り場では三段を一気に飛び降りると、紺の地色に白いチェック柄の入った彼女の制服のスカートがふわりと広がっていった。

「どうしたの、和之」

「いや」

 その背を見つめながら、その残り香に誘われて、俺も後を追う。

 踊り場で追いつくと、

「それじゃ、これ持っててね」

といってカバンを押し付けてきた。

 彼女は中二階を一気に駆け下りると、下駄箱から品の良さそうな革靴を出した。ほんの少しヒールが高めのそれは、俺にはおいそれと手が出ないようなブランドものだった。

「和之の靴、どれ」

「四列目の最上段」

 翻って俺のは、国内メーカー製の大量生産されたスニーカー。釣り合わねーな。

 半林は丁寧に靴紐をほどくと、膝をつき、俺の足もとにスニーカーを差し出す。

「あの、何を?」

「彼女ですから」

 この頭の切れる半林は、俺の疑問に感じることを一切解せずに言ってのけた。

「あのさ、普通の彼女はこんなことしないが……。何か勘違いしているのか?」

 そう言うと、にこりと微笑んで言う。

「好きなギャルゲーでいいな、って思ったシーンがあったから、それに倣ってみたの。いいでしょ」

 この笑顔が、笑顔が素敵すぎる。

 ……悪魔の微笑みのような気もするが。

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