第3話
「おのれ、勇者。タヌキ寝入りとはこしゃくな……」
王女、口調が悪役そのもの。
「女王なのじゃ。かくなる上は……」
失礼しました。
女王は羽織っていたマントを脱ぎ去る。その下に顕れたのは、なんと黒のボンテージ衣装。
手にはムチと蝋燭。
そして、仮面を目もとにあてがう。
「月にかわっておしおきよ――なのじゃ」
そういうなり、布団を思いっきりムチでひっぱたく。
間一髪で床に転がることで、勇者は難を逃れたものの、顔はひどくやつれていた。
「あんた、なにやってんのよ!」
「妾は女王様。だから、女王様なのじゃ」
子供っぽくだだをこねるね。
「あー、もうやってらんないわよ」
やっとこさ、立ち上がる勇者。
「朝っぱらからそんな格好でいるの、どうにかならないの?」
「女王の正装なのじゃ。そして、これが勇者の正装だ」
全身鎧? しかも、伝説の?
歩くごとに体力を回復するとか、毒に耐性ができるとか?
いいえ。
「……ただの布の服じゃないですか」
「防具屋で最も安い、勇者の初期装備だ」
勇者はちらと窓の外に目をやると、声を荒げた。そこには王女の護衛の兵士がいた。
「おつきの兵士の甲冑より安いってどういうこと?」
女王はフッ、と鼻で笑う。
「正規の国家公務員と下請けの自営業という立場をわきまえてほしいのじゃ」
「勇者って下請けかよ」
「そうじゃ、成功報酬型で――制服のみ先行支給なのじゃ」
「失敗したら即リストラ」
「もちろん、労災補償もなしじゃ」
「最低のブラック職場……」
「自営業とはそんなもんじゃ」
「どこか就職して安定した生活を……」
「コールセンターはネタがかぶるから避けるのじゃ……って、この世界が魔の手に覆われているのが分かっておらぬのか、じゃ」
「いや、至って平和そのもの」
「違うのじゃーーーーーっ!!」
地団駄を踏んだ王女は鋭い目つきで勇者を睨む。
「勇者が旅立てば魔王が目覚めるのじゃ」
「探偵ものの事件発生じゃないのですけど」
もう、メチャクチャで非論理的な王女の言葉などどこ吹く風、勇者は苛立ちつつ、布団をたぐり寄せ、床につこうとした。
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