第4話

「無視するか。いい度胸じゃ。じゃ、やっておしまいなのじゃ」

「!」

「勇者さまっ、早く起きてくださいなっ!」

「きゃっ!!」

 勇者は、突然背中に走る冷たい感触に目を覚ます。

 あわててベットから飛び起きる。

 淡いピンクの寝間着姿のまま、勇者が振り返ると、そこには……。

「勇者さまっ!」

 ベッドの中から顔を出したのは、国教団の教皇の娘であり、既に司祭の地位にある少女であった。

 青い法衣の中心に紅い光を放つロザリオ。それは、司祭が祭祀を執り行う正装である。

「その格好で寝込みを襲う? この俗物司祭」

「当然、襲います。女王さま公認ですっ!」

 そういうと、司祭は勇者の頬に擦り寄る。

 勇者は思わずベッドから飛び出した。

「魔王を倒したあかつきには、妾が仲人として結婚式を執り行うと約束しておるのじゃ」

「もちろん中央大聖堂で盛大にですっ!」

「ちょっと待て、保守派の最右翼たる国教団が同性愛を認めるのか?」

 勇者の目の前に謄写ガリ版のビラが女王より差し出される。

『10万人婚姻法改正運動! 恋愛に自由を!! 国教団』

「教皇もかわいい盛りの娘には逆らえぬのじゃ」

 王女はうんうん、と頷く。

「もちろん、妾も友人の愛を祝福しておるのじゃ。魔王を倒してくるまでに法改正を行い、同性婚を制度化しておくのじゃ」

「それでいいのか?」

 勇者は怪訝そうな顔で問う。

「妾は思うのじゃ。権力者が人民の思いと乖離するのは、権力者層とのみ付き合う偏狭な交友関係により、偏在する課題に目が向かないことが大問題なのじゃ」

 女王は朗々と語るが、ここにいるのは女王の知り合いばかりである。

「性的少数者に選択肢が増える、ということには異存はないけど、どう考えても教皇の娘という一人物の意向が政治に大きな影響を及ぼすのは問題」

「勇者さまっ、問題ないですわ」

「大あり」

「こいつと結婚させられるのがイヤだ、といってるの!」

「それこそ、勇者という一人物により政治が振り回されるのも本意ではないじゃろ?」

「はい」

「受け入れるじゃろ?」

「結婚しましょ、勇者さまっ!」

「イヤ」

 勇者が拒否の姿勢を示すと、今までベッドの上で悶えていた司祭が立ち上がり、

「いてっ」

低い天井に頭をぶつけた。

「マットレスが痛むからベッドの上に立つなよ」

「わたくしの頭のことは心配してくれないのですか?」

「それより言いたいことがあるなら言うのじゃ」

「いいからベッドから降りてくれ」

 腰を低くしながらベッドから降りる司祭。

「勇者の妻として、戦いの旅路の中で愛をはぐくみます」

「新婚旅行じゃ」

「司祭を煽らないでよ」

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