誇りまみれの竜賭博 第3話 精霊の箱庭 竜の賭場
Ⅰ
世界がまだ目覚めの時を迎えたばかりの、雲のない青空の元、王宮に集いし面々は、朝の光にそぐわない恩讐に満ちた言葉をすでに飛ばし合っていた。
ハルフノールを統治する有力貴族達が一堂に会し、今後の国政について激論を交わしている。小さい島国であるため領地は限られており、全体でも一〇名程の、ごくごく小規模な会合である。例年なら誕春祭に合わせて集合し、国王のいない平場でこれからの一年について話し合う場、恒例かつ穏やかな会議であるはずだった。だが、今回は皆顔つきが変わっている。当初見かけ上和やかに、祭りの打ち合わせからはじまった会合は、いまやハルフノールの開国の是非を巡って意見の応酬となっていた。
全く進まない議論の中、飽くことを知らず声を上げるのは、開国急進派の先鋒、ロイ・ジグハルトである。いささか性急とも言える発言に、一同は困惑しているというのが正確なところだが、彼の人気と実力、そして国外を歴訪してきたという経緯は無視できないのもまた事実であった。
「女神ハルはいまだ降臨せず、我らハルフノールには竜に対抗する術なし!一方、五大国の守りと結束は盤石!我々はさらに孤立し、いずれは歴史の大波というものに飲みこまれよう!いまここで断固たる決断が必要である!」
ジグハルトが声を張り上げて訴える。腹に響く、まるで武人のような大声は、端正な容姿とはかけ離れていた。
「何故、今この時期に開国などと……それに断固たる処置とは?」
「無論のこと、宗教の開放です。五大神の教えを受け入れ、いずれは、円蓋の覆いの下に国を置く。そうして、はじめて竜の脅威から脱却した、新しいハルフノールの将来を語ることができるのです」
国王がいない会議とはいえ、大胆な発言であったが、ジグハルトに対して真っ向から否定の声を上げるものはいない。沈黙が落ちかかった議場で、ただ一人宰相モス・シールズが立ちあがった。
「国家安全保障、という点から見れば、ジグハルト卿の話には一理ある。が、それでは女神ハルに申し訳が立たぬではないか。我らを戦乱の禍から遠ざけ、繁栄をもたらした大恩を、仇で返すようなものではないか。国民も己の信仰を容易には変えられまい」
宰相の発言は、一同の心理、心情を的確に表現している。豊かなハルフノール、何者にも邪魔をされず、繁栄を維持されてきたのは、女神ハルあってのものであったことは周知の事実である。ジグハルトは声の調子を落としつつ、シールズに向き合う。シールズは目を合わせずにいた。
「宰相閣下のおっしゃられることはごもっとも。だがもう少し広い視点で世界を見ていただきたい。大陸では円蓋の外に置かれた小国や、独立を守った都市において竜の被害は確実に増えている。円蓋を破壊できなかった竜が、進路を変えて国を襲うからだ。このままでは、いずれハルフノールにも災禍が及ぶことは必定」
そこで、ジグハルトの数少ない賛同者、ハルフノール、ポジカ地方領主、リンド公が発言した。
「気になる噂も流れている。何でもこのハルフノールに竜が来る、とか」
「竜が来る?そんな噂がどこで?」
「おや、この街中で知らぬことなどない噂ですよ。誰それが、文句を言った。何某が裏で手を組んでいるなどと、宮廷内の事情にはお耳の速いシールズ閣下にしては珍しいこと。もう少し、邸宅や貴族の集まりを離れ、民の声に耳を傾けてはいかがかな?」
シールズはむっとした顔をして黙りこむ。リンドが畳みかけるように声量を上げた。
「竜がこのハルフノールに上陸するなどと、噂ですら今まで起こりえなかったことだ。やはり、ハルの恩寵が薄れてきているということなのではないか?巷では辻斬りが横行し、街に鬼すら出没するという。繁栄とは名ばかりと言わざるを得ない。いつまでも手をこまねいている場合ではなかろうかと」
「まるで、飽きた女を捨てて、別の女に鞍替えするかのような言い草だな。さすがに夜な夜な異教徒の女を買っているだけのことはある」
シールズの側近がまぜっかえし、短気で有名なリンドは立ち上がった。
「何だと?聞き捨てならん!」
「とにかく」
いきり立つ一同を制して、ジグハルトは立ち上がった。
「国民も不安に感じている、いまここで国の行く末を照らすのが我々の責務。ハルフノールが今後も国として栄えるために必要なことを、断固たる決意で成し遂げるのだ」
ジグハルトは、まっすぐに宰相を見据え、シールズもここに来て初めて、ジグハルトを見やった。場の緊張感が、一段高まる。結局この会議はこの二人の対決でしかないことはこの場にいる全ての人間が認識していた。
「何か、考えがあるようだな」
「まず、私ジグハルトが改宗をする」
ざわり、と周囲が緊張する。ハルフノール貴族中でも名門の一族が女神ハルを捨てるとなれば、騒動だけではすまない。シールズですら僅かの動揺を示してジグハルトに聞き直す。
「短慮にも程がある。お前が持つ、ハルフノールの剣はどうする?それはこの国の守り手、ハルに選ばれしものが持つ剣ではないか?」
「もし私が改宗をし、剣が輝きを失うのであれば、喜んでこの剣を返そう。真にこの国を憂う心情が伝わらないのであれば、それこそハルが私を見捨てたと同じこと」
ハッタリかどうかは、周囲の人間には判断できない。ジグハルトの語気は強く、聞く者の心を捉える力を持っていた。
「宰相閣下も、今の状況が望ましいとは思っておられないはず。周辺国家は、虎視眈眈と領土拡張を狙っております。実のところ、いかがお考えか」
「私としては、今の体制を大きく変えるつもりはない……ただ」
「ただ?」
「国防への不安という点では私も考えは同じだ。他国の力を借りる、ということについても」
動揺が奔る。シールズは現体制の長、即ち旧体制の維持派であったはずだが。今の発言は、ジグハルトの提案を容認したと取るべきではないのか。嘗て、この案件についてシールズがここまで踏み込んだ発言をしたことはなかった。
「では?」
「早い話が同盟だ。軍隊の駐留、および港の使用権を与えようと考えている。対価として、国内外で活動する船舶も含めて警備をお願いすることになる」
「……何ですって?そんなことをしたら、この国が乗っ取られる!」
「国家間における、我らハルフノールの最大の価値、それは海路を支配できるという地理的要因である。今後は竜との戦いに向けて、ハルフノールも海運力を活用して国際社会に参加していく。自分達だけ逃げたという不名誉も、これで解消されるし、ハルへの信仰を捨てずともよい」
「同盟を結ぶ国、とは?」
ジグハルトの声が震える。怒りか、それとも動揺か。
「デュミエンド。それ以外にない」
シールズの一言は、ジグハルトを激発させた。
「よりにもよって、デュミエンドと同盟とは!竜との戦いだけでなく、国家間の紛争にまで巻き込まれますぞ!宰相閣下は平和だったこの国を戦場に変えるおつもりか!」
「国を守る武力がない以上、最も尚武に熱心な国に頼るのは、いっそ必然であろう。むしろ複数の国家と対等の条約を結べば、一斉に譲歩を求められ、それぞれの都合によりこの国は分断されるだろう。となれば大樹に寄り添って、小国の安寧は保つほかはない。陛下にはすでにある程度ご了承いただいているところだ」
「そんなことは認められない!」
「ジグハルト卿。私は卿に許可を求めているわけではない。この話はここで終わりとする」
「まだ終わっていない!」
ジグハルトの静止も聞かず、シールズは立ち上がるとさっさと会場を後にした。宰相に賛同するもの達も一斉に追従し、退室していく。その数は過半数を優に超えていた。
「……」
黙然とジグハルトに、声をかける人間がいる。会議では少数派の、ジグハルトを支持する一人だ。顔に浮かんだ動揺に、双方の旗色を伺う気色がありありと見て取れる。そう遠くないうちに、寝返っていることだろう。ジグハルトは確信した。
「これからどうなるのでしょうか?シールズ閣下がまさか、国を売るとは……」
「どうなる、ではない、どうするか、だ」
「しかし、閣下の言にも理はあるように思われます。何の強みも持たぬ我らであれば、いっそその身を投げうつことも必要なのでしょうか……」
「投げうちたければ身内のみですればいい。共に贄とされるものからすれば、たまったものではあるまい」
皮肉で日和見を切り捨てると、ジグハルトは大股で歩き出す。今、自分ができることをするだけでは足りないかもしれないという焦りが、有能を自負する男を駆り立てていた。シールズがこうやって話を切り出したということは、もう結論が出ているということだ。あの男は、ハルフノールを売った。どうすれば一番自分が得をするか、一番ハルフノールを、自分を高く買う相手は誰かを考えた末の結論だろう。国民の生活などは考える必要も感じていないに違いない。
「そうはいかんぞ」
ジグハルトは行動すべきであると自らに言い聞かせた。八年前の政変には、外遊のために参加できなかった、これ以上は好きにはさせぬ。焦りが決断を誤らせるということを理解しつつも、何らかの手段をとらねばならないときはあるのだ。
散会後、そのままシールズは国王に謁見する。現国王、スタン・ニルグは三十二歳。男盛りに入るといってもいい年齢ではあるが、表情は精彩を欠く。酒色にただれた顔をぼんやりとシールズに向けている。
「陛下、ご機嫌うるわしう」
「一々うるさい。要件だけを言えばいい」
ニルグは吐き捨てたが、シールズにぎろり、と一瞥されると一気に二日酔いが醒めたようである。居住まいをただし、正対する。
「結構。陛下にもまだ分別がおありのようだ。デュミエンドとの同盟の件ですが、本日他の者に話しました。今回の誕春祭、花の儀当日にでも、国民に向けて話をしたいと考えています」
「好きにするがいい。俺には関係のないことだ」
「かしこまりました。招待国代表の皆様に対する歓迎式典へのご出席をお願いいたします。挨拶文はこちらに」
「分かった分かった。読んでおく。これから、ポーチと狩りにいくのだ、時間までには帰る。他にはないな」
「愛犬と狩りですか、結構なことです。ですが、一つだけ」
「何だ!」
「最近妙な噂が流れております、俺はこのままで終わる男ではない、あのシールズに必ず目にもの見せてくれる。いい気になるのも今の内だ、などと陛下が嘯いているなどと……賢明なる陛下が、そのようなことを口にするとは決してありえないことなのに」
「う……」
スタンの顔が青ざめる。数日前、側妾に話かけた内容、一言一句そのままである。
「国王と、宰相は一体のもの、これからも変わることのない連体こそが、ハルフノールの発展へとつながるものと信じております。どうか、根も葉もない流言などに惑わされませんよう、お願いする所存です」
「……分かった」
悠然と退出するシールズの背中に怨嗟を込めた視線を送ろうとして、やめる。彼の動作はすべて監視下にある。少なくともスタンはそう思い込んでいたからである。そして、かれの邪推は、全くの事実であったのだ。
Ⅱ
海岸沿いの街道は人影もまばらであったが、冷たい風の中に微かな春の芽吹きを感じさせ、不思議と寂しさを感じない。ツィーガ一行と離れたエクイテオはところどころで寄り道をしつつ、目的地である村へと足を運んでいた。
「にしても、ここは気持ちいいなあ」
目を閉じ、思い切り空気を吸い込む。何が、と言われても、エクイテオに表現できるものではないが、世界の密度というか、洗練度が違う気がする。島全体が、濃密でいて清涼な香りに包まれているようである。おそらく、ではあるが、精霊の動きが活発なのではないか、とエクイテオは何となく考えていた。連れてきた風の精霊の舞も、一際軽やかに見える。精霊士でなくても心が安らぐような環境に、いつの間にか歩みが軽やかになっていた。当初首都ガーデニオンの外れに住んでいると言われていた訪ね人は、今は故郷で穏やかな生活に戻っているとのことであった。水筒に入れた酒がちょうど切れた頃、崖下に村らしき家屋を発見する。煉瓦造りの家が立ち並ぶが、数はそれほど多くない。一目みたところでは漁が主な産業のようであった。
「およ。水の精霊が船を動かしてら」
エクイテオの目は、はっきりと水の精霊の姿を捉えている。恐らくは朝の漁からの帰りであろうが、数人乗りの小さな船の下、透明度の高い水の中を優雅に泳ぐ魚のような外見をもった精霊である。小型の鮫に、飛魚のように大きな翅が付いている。ほとんど水と一体化しており、全容は伺いしれないが、明らかに船を支え、波を抑えている。おそらくは、これから訪ねる精霊士の仕業なのだろう。
「見えるかい?すごいなあ」
『ミエル』
風の精霊も心なしか笑っているようだ。エクイテオは自分一人になったときには、お供である精霊に声をかけていた。精霊もまたエクイテオとの会話を楽しんでいるかのようである。精霊に性別はないが、どことなく女性めいた華やかさ、儚さを感じさせる表情は、エクイテオにとっても強く心を惹かれるものがあった。
視線を海に戻せば、船が接岸しようとしているところであった。十数隻ある船全てに二体ずつ、船の左右を支えて、極めて精妙に制御している様子に、エクイテオは素直に感動する。もし、二〇体以上の精霊に対し、同時に働きかける契約を一人で行っているとすれば、まさに破格の能力であるといえた。精霊一体が限界のエクイテオ自身と比べるべくもない。
人間一人の持つ志力には個人差があり、限界がある。精霊士の力量は限りある志力の中、どうやって精霊と交渉し、その力を引き出せるかに尽きるものであり、どれだけ世界と調和しているか、世界の機微を知っているかが決め手となる。二〇体ともなれば、島全体の天候を左右することすら可能だろう。驚愕は期待へと変わり、エクイテオは一刻も早く、件の精霊士に会いたくなってきた。もしかしたら乗船しているのかもしれない。
「とりあえず、船着き場にいってみよう。ついておいで」
『ワカッタ』
自然と早くなる足に、見る間に村が近づいて、テオは立ち止った。漁師が水揚げをしているが、それらしき人物は見当たらないようだ。さて、どうやって尋ね人を探すか。エクイテオが思案を始めたときだった。
「あら、見ない顔ね」
エクイテオに声をかけたのは、化粧っ気のない一人の女性だった。目尻のしわが深いが、それ以外はとても若々しく、溌剌とした印象の女性である。年齢はエクイテオより二〇歳ほど上だろうか。青年は誰にでも効果のある、魅力的な笑顔を作った。
「すいません、このあたりにカイム・ジエンディンさんがいらっしゃると伺いまして。ご挨拶に参ったのですが」
「ああ、あの変り者に。時々くるのよね、あなたみたいな人」
やれやれ、という表情をする。表情の一つ一つに精彩があり、みるものを飽きさせない顔である。若い頃はさぞ人を惹きつけたであろう。いや、ひょっとすると今でも、などとエクイテオはしょうも無いことを考える。
「お知り合いですか?」
「ええ。あなた、ひょっとして精霊士さん?」
「分かりますか?」
「そりゃあ、あの変人に用があるといったら、精霊士ぐらいのものだからね」
変人、変人と言葉でそう言いつつ、突然の来訪者であるエクイテオの人となりを探るかのように、上から下まで観察しているようである。柄にもなく緊張した男の顔を見て、女性は軽く頷いた。
「うん、あなたなら大丈夫でしょう」
女性に指定された丘の上は、実に心地の良い風と匂いに満ちて、エクイテオは思わず目を閉じ、全身で空気を感じ取った。ついて来た風の精霊もはしゃぎまわっているようだ。周囲の景色を一望しつつ該当の人物を探すものの、相変わらず人影はない。エクイテオははて、と思いつつ声をかけた。
「カイムさん、いらっしゃいますか」
「ここですよ」
どこからともなく聞こえてくるのは、人間の声というより、風の唸りのようだ。エクイテオは全身の力を抜き、皮膚全体に意識を拡散させ、周囲に向けて己を開こうとつとめる。次第に世界の一点が濃縮され、形成されていく人の姿を認識することができた。
「はじめまして。私がカイム・ジエンディンです」
「は、始めまして……」
エクイテオは引きつる顔を何とかこらえつつ挨拶をする。世界と一体となった人間が再び自らの姿を取り戻す、その事実の偉大さを認識しつつも、目の前の光景をどう処理していいものか判断に困る。温和な表情を漂わせる男は、当然のごとく服を着ていなかったのだ。
「あの、どうかしましたか?」
エクイテオは、男の問いに答える術を持たない。
「挨拶の前に、そのみっともないものをしまいなさいよ」
いつの間にか現れた先程の女性が助け舟を出し、置かれていた服をカイムに投げつけた。
「あわわ、最近は、意識していないと姿を失ってしまうので……すいません」
「いえ……俺、あの、感激しました。まさか、ここまで自然と一体化できる人がいたなんて!」
あちこち引っかかりながら服を着込むカイムに、改めてテオは感激を隠さず表明する。自身の器である肉体を自らの意思で自在に解放するということを可能にした人間は、果たして過去何人いたのであろうか。世界との調和を図りつつ、自らの意志を具現化するという精霊士が求め、届きうる最高の到達点といってもよいだろう。ようやく社会性を取り戻したカイムが、優しく微笑みながらエクイテオに問いかける。穏やかな中年男性、なのだろうが、年齢が上手く掴めない。
「あなたも精霊士なのですね」
「はい。いまだ未熟ですが。エクイテオ・バーンと申します。師匠に、ハルフノールに当代随一の精霊士がいると聞いてきました」
「当代随一は言い過ぎですが……」
「あなたは、風の精霊へと変容していくのですか」
「いえ、私は個別の精霊と契約をしてはおりません。強いていえば、このハルフノールという島全体と、ですかね」
「こんな寝坊助の出不精が、風の精霊になるわけないと思うけど」
厳しい指摘の女性に対し、カイムは、非難するような、甘えるような声をだす。
「ひどいなあエルン。お客の前なんだから、もう少しさ」
「そういうことは、部屋の掃除をきちんと終わらせてから言うことね」
「……はい」
どうやらカイムは、目の前の女性に頭が上がらないらしい。これだけの能力を持つ精霊士をこき下ろすとは、一体何者なんだろう、とテオは思ってしまった。
「じゃ、エクイテオさん。私はここで。カイム、ぼーっとしてないでさっさと洗濯物を干しておいてね」
ぽんぽんと、言葉の飛礫を投げかけて、あっという間にエルンと呼ばれた女性は去っていった。残された男二人は曖昧な笑みを作りながら、何となく村へ向けての道を歩き始める。鄙びたという言葉がしっくりくるような、時代の流れに取り残された村であったが、老若男女それぞれがいきいきとした表情を見せていた。
「おう、カイムさん!今日も大漁だぜ!」
「へえ、そりゃよかった」
「あんたがこの村に来てからいいことばっかりだ!きょうも魚持ってくからよ、エルンにでも捌いてもらうんだな!」
あはは、と笑うカイム。それなりに有名らしい。彼が力を行使していることは、どうやら認識していないようだ。
「エルンさんって、さっきの方ですか?」
「ええ。僕の幼馴染で、エルンといいます。エルン・ミスト」
「奥様ですか?」
「とんでもない!彼女は僕なんかに見向きもしませんよ。明るくて、みなに元気を振りまくことのできる素敵な女性ですから。まあでも、今は旦那さんとは死別して、独身ですが」
「……」
カイム自身の話より、エルンのことを話すほうが嬉しそうである。なんとなく事情は察したが、勿論初対面の人間が追及する話ではない。カイムのほうは、エクイテオの様子など全く気付いていない様子で話を進めていく。
「誰か、師匠について修行はされたのですか?」
「はい。私の師はルスト・マローン。もし会ったときには、貴方によろしくと言っていました……大分前の話ですが」
「あの『だんまりマローン』が弟子を持ったとはねえ……あなたの師匠とは、以前共に修行をしたこともあります。いまも元気ですか?」
「ええ。風の便りでは好き勝手に生きているようですね」
修行時代のことを思い出し、エクイテオが渋い顔になる。カイムは笑った。
「精霊士には必要なことですよ。心を世界にゆだね、流れに逆らわずに理を知ることこそが精霊士の生き方そのものですから。ハルフノールへは、もしかして私に会うためだけに?」
「いえ、友人の付き合いです。それとお祭りがあるってきいたもので……勿論貴方に会うのが一番の目的ですよ」
「それはどうも。誕春祭は賑やかになりますよ。是非満喫していってください」
カイムが、誕春祭について話し始める。ハルがこの大地にその身体を同化させ、春を生み出した日とされている。寒冷の地域でありながらハルフノールが温暖な気候であるのは、そのおかげであるとされており、ハルフノールの国民は女神の行動に感謝をささげ、今年一年の平穏を願う、とのことであった。
「以前は、血を引くとされる王族がいることで、実際に春を迎えるために意味のあるものでしたけどね。今は単に大騒ぎをするだけの祭になってしまいました。でもまあ、それでよいのかもしれませんが」
「王族は、確か八年前に……」
「そうです。八年前、大混乱があり、残った最後の王家、ニルグ家の皆様がたは行方知れずとなってしまいました。ニルグ家はハルと人から生まれた最古の一族とされ、ハルフノールの大地と密接につながり、一体化したハルの意識を活性化させ、大地に豊かな実りをもたらすことができたのです。呼び起こされることのなくなったハルの意識は、薄れ、いずれは完全に消えてしまうかもしれませんね」
カイムは真面目な顔を作った。世界の機微を知る精霊士としては、看過することはできないだろう。
「本当に、春を生むという意味があったのですね。だとすれば、大変だ」
「事実、王族がいなくなってから、ハルフノールの精霊の力はほんの僅かずつですが、弱まっているように感じられます」
「本当ですか?」
「本当にささいな、実に微妙な変化です。一〇年、二〇年たっても表立って分かるものではないでしょう。私が長年精霊士として、この国と結びついているからこそ分かる話です。実際に、普通の生活をしている人間が気付くのは、そう……一〇〇年も先のことになるでしょうね」
それは遠い先のようでもいて、案外近いのかもしれない。この自然豊かなハルフノールの光景は、どのように変化していくのであろうか。
「しかし、呼び起こさないと神の意識というものが薄れていくなんて、そんなことが起きるのですね」
「それだけ、我々のいるこの世界が大きいということです。神の意志ですら、その大きさに飲み込まれていく。ましてや、人など、ね」
遠くをみやるカイムの姿は、世界に溶け込んで消えてしまうかのようである。半ば世界と一つとなったこの精霊士の言葉には、実感を伴った真実味があった。
「想いとは、意志とはそれほどに儚いものです。逆に、それゆえに強いものでもある」
カイムは、そこまでいうと、脱力したかのような間の抜けた笑みを浮かべた。
「我が家に寄っていきませんか?エルンお手製の焼き菓子があるんです。なかなかの逸品ですよ?」
「はい、是非!」
二人は家についてからも精霊についての話を飽きもせずに続けていた。カイムの家は男独り身が住む、質素極まる家である。聞けば、ひがな一日なにもせずぼんやりしたり、子供達に読み書きを教えて暮らしているらしい。以前は王宮にも出仕することもあったそうである。精霊士に対する風当たりの強いエスパダールなどでは考えられないことだが、国民の島そのもの及び世界に対する感謝の気持ちの表れであろう。
「エクイテオ君。君は精霊士に最も必要なのはなんだと思う?」
「はあ。精霊に対する、奉仕の精神ですかね。あとは精霊の間を取り持つ調整能力というか」
エクイテオは自分の経験から率直に応える。精霊士はある意味、自然の均衡を乱すものである。軽々しく扱うことはできないし、なによりやっかいなのは、精霊士のおかげで、規律からはみ出しえた精霊をやっかむ精霊もいるという事実である。えこひいきだなんだと揉めるのを防ぐために、細やかな配慮と労力が主な負担であった。
「なかなか面白い点をつく。そうだね、世界に対する感謝は確かに必要かもしれない」
「でも、それだけでは足りない、と?」
カイムは頷いた、というより、首を傾げた。
「足りない、というか。何と言うべきかな……こう考えたらどうだろう。君もまた世界の末端なんだ、と」
「自分も、精霊も世界を形作る存在には変わらない、ということですか?」
「そう、確かに世界に意志はない。だが、世界に触覚はあり、反射行動はあるということなんだ」
「つまり……なんですか?」
「大事なのは、世界と一つになるという意識を強く持つということかな。天と地の中に自分を置いて、自らを世界とをつなぎ合わせること。精霊との交信は、世界に触れ、促すことであって、世界を丸ごと作り変えるわけではないからね」
「つまり、俺自身が世界の法則そのものになれば、精霊は自ずと従うって訳ですか?」
「精霊士の観点で言えば、そういうことになるかな。世界の法則に逆らわず、いかに自分の意志を残すか。まあ突き詰めると、なぜ人は生きるのかという、哲学的な問いになってしまう。その辺りはマローンが得意だったよね」
「そんな話、師匠は何にもしてくれませんでしたけどね……」
カイムの淡々とした話ぶりに却って引きこまれてしまう。無為に生きるのではなく、主体性を持って世界と一体化する、という発想はエクイテオにとっては新鮮であった。
「君が悩んでいた、風の精霊に送る名前もそうだ。彼らは人間の意志が、その身に宿ることを拒否しているわけではない。そういった意志も包み込むだけの包容力がこの世界にはある。我々一個の人間は、大意などにこだわらず、自分の気持ちを素直に世界へとどけることが一番だよ」
夢中になって話し込んでいると、食欲をそそる匂いが鼻をくすぐる。二人が同時に振り向いた先には、鍋を抱えたエルンがいた。いつの間にか、時間が経過していたようである。
「楽しそうね、カイム。滅多に精霊の話なんてできないから」
「そうなんだよエルン……って、や、これは」
「エクイテオさん、だっけ?あなたも折角だからゆっくりしていって。これでも食べながら話をしていってちょうだい」
煮込まれた海鮮のスープに、香辛料を聞かせた魚のフライ、焼き立てのパンが用意されている。
「やあエルン、ありがとう。エクイテオさん、狭い家ですが、是非ゆっくりしていってくださいな」
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
ツィーガやファナの顔が一瞬消えるくらい、目の前の食事は魅力的だった。
「大分、御引き留めしてしまいましたね。私やエルンも、誕春祭には参加します。そちらでまた会いましょう」
結局夜遅くまで語らうことになった翌朝、カイムの言葉を胸に、テオは帰路についた。豊かな自然の中で、様々な想いを巡らせつつ、歩く。カイムの言葉一つ一つが、これからの自分にとって軽視すべきでない重さを持っていることは分かっていた。自分がいかに生きるべきか、この世に何を為すべきか。志というものを植え付けられた人間にとって、ある意味避けて通れない宿題のようなものであろう。思案しつつ歩き続けた結果、いつのまにか目の前には首都ガーデニオンが見えていた。
「まあいいや。そのうち何とかなるだろう。な?」
『サア』
風の精霊の返答に笑いかけつつ、エクイテオはあっさりと思考を放棄する。この世界を生きることそのもので充分ではないか、という思いがある。世界は美しく、人は儚く、生命は貴重である。流れのままにいきていれば、いつかは避け切れぬ命題にぶつかるであろう。それまでは存分に世界を楽しむべきだ。目前まで近づいて来た街の活気も充分である。
「さっさとツィーガと合流して、美味いもんでも食いにいこう」
街並みを楽しみつつ、宿舎まで戻ってきたエクイテオを迎えたのはツィーガ、そして再び宿舎に訪ねてきていたリーファであった。
「リーファじゃないか!」
「テオ、久しぶり!」
予想外の再会をひとしきり喜びあう。辛いこともあったが、こうやって再会を喜び会えることに勝る喜びは無かった。そう、人生はこれでいいのだ。エクイテオは満足気に頷く。
「何か、こうしてと三人でいるのがしっくりくるなあ」
「本当に」
ツィーガとリーファが笑い合うのをエクイテオは嬉しそうに眺めやる。
「それにしてもこの二人、なかなかいい雰囲気じゃないの」
内心でそっと呟く。考えが世話焼き親父だな、とエクイテオは苦笑した。二人の家族境遇を知るからこそ余計なことを考えてしまうのであろうが、この二人には幸福が訪れてもいいだろうとも思う。
「んでは、再会を祝して乾杯といきますか!」
「ああ!……といいたいけど、実は今日夜警の当番なんだ。酒はやめておく」
「仕方ないな」
外出許可を貰い、リーファの宿泊する宿に付属している食堂で夕飯を取る。白身魚の揚げ物に、貝の葡萄酒蒸。海老の塩焼きに、新鮮な野菜。パンも数種類あり、食材の豊富さが伺える。
「こんだけあって、銀貨一枚でお釣りがくるのか、安いなあ」
「こんな地域でこれだけの食材が取れるのか。それとも他国との貿易の結果なのかな」
食卓の彩だけを見ていると、カイムの心配は杞憂なのではないか、とエクイテオが思うほどの豪華さである。ひとしきり食べ、笑いあった中で、リーファが何かを見つけて立ち上がった。
「師匠!」
リーファの言葉にツィーガとエクイテオの背筋が伸びる。二人は顔を見合わせて苦笑した。お互い、師匠と呼ばれる存在にはある種の緊張感があった。一方、リーファが二人にかける言葉は明るい。
「テオ、ツィーガ、二人に、私の師匠を紹介したいんだけど、いいかな?」
「「勿論!」」
「おお、リーファ、そこにいたのか」
リーファが上に上がり、連れてきたのは、いかにも好々爺といった風情の老人であった。背筋は伸びているが、身長はリーファより僅かに低い。刻まれた皺と長いひげが印象的である。目は細められており、感情を読み取ることはできないが、醸し出す雰囲気は親愛の情に満ちていた。
「師匠、彼等が私の友人、ツィーガ・オルセインとエクイテオ・バーンです」
「おお、旅の途中で何度も話を聞かせてくれた御仁達じゃな。初めまして、お二人さん」
「この人が、今の私の師匠、ヤン・ジン・クイ先生です」
「この度は色々とご配慮いただき、ありがとうございます」
「何の何の。我ら『
ヤンも酒を頼み、改めて乾杯をする。リーファの顔が酒気以外のなにかで上気する。
「ヤン師匠は、私達の中でも最長老なの。教えを乞う機会が来るなんて思わなかった」
少女の様子から察するに、目の前の老人はかなり高名な存在なのだろう。ツィーガ達も自然と敬うような姿勢となる。
「この子の兄、ガリューシャも面倒をみたことがあってな。優れた才を持つものじゃったが、惜しい若者をなくしてしまった」
杯を干しながら、しみじみと過去を振り返る。ツィーガもまた、彼の強さを思い出していた。遺体を連れていった竜は、今どうしているのだろうか。ふとリーファを見やると同じことを考えていたようである。目が合うと、ひっそりと笑みを返してきた。
「どうしてこのハルフノールを尋ねられたんですか?」
「勘じゃよ。何か、リーファの修行に役立つことがあるかもしれんと思ってな」
「勘、ですか」
「勘を馬鹿にしてはいかんよ。世界を感じ取り、理解することは、知識や理論だけでは足りぬ。身体全体を使い、知覚を鋭敏にすることで今まで見えぬものが見えてくるのじゃ」
「はい」
ツィーガは真面目に返事をする。こういうところがラーガのような存在にも好感を持って迎えられる所以なのだろう。代わりに、エクイテオがまぜっかえした。
「勘は当たりそうですか?」
「うむ。この酒は当たりじゃ。ワシの勘もまだまだ捨てたものではないということよ」
ヤンも朗らかに大笑する。ツィーガは頃合いとみて立ち上がった。
「申し訳ありません、これから夜警の仕事がありまして、あとは皆さんで楽しんでください」
「おお、仕事熱心、結構結構。儂らももうすこし滞在するから、折を見てまた会おう」
「ぜひとも。それじゃテオ、あとはまかせた」
「まかされた」
「それとリーファ。また会おう。今度こそ俺も飲むからな」
「ええ」
かちゃり、となったのはラーガの挨拶であったか。ツィーガがいなくなった後、酔いが回ったのか、それとも箍が外れたのか。追加を運んできた女性の給仕に、エクイテオがちょっかいをかけていた。
「どう?ハルフノールの魚貝の味は」
「最高!みんなも親切だし、いい国だね。御常連のみんなにもかんぱーい!」
エクイテオがいきなり立ち上がり、周囲に向かって呼びかけると、同じく酔いのまわった客たちが、ノリよく唱和する。
「乾杯!」
「おう、こっちきなよ、この店はこのトマト煮が旨いんだ!」
「いい飲みっぷりじゃねえか、気に入ったぜ」
たちまち、あちこちから声がかかる。どうやら、皆騒ぐきっかけを探していたようである。
「ほほう、では早速」
ヤンがいつの間にか別の卓でちゃっかりとお相伴にあずかっている。リーファは好色そうな親父に酒を注がれそうになるのを、寸前で離れ、別の女性の一団に呼ばれていった。
「おう、兄ちゃんも飲めや」
「お、こりゃどうも」
「その服の形からすると、エスパダールの人間かい?」
「はい。誕春祭に参加するためにはるばるやってまいりました!」
「そうかい、俺ァこの国きっての英雄、ロイ・ジグハルト様のところで働いてんだ。親方はスパッダにだいぶご執心みたいだから、よろしく言っといてくれ、がはは!」
「分かりました!知り合いの神官戦士に言っておきます!」
素直に頷きつつ、これ幸いと質問する。
「とってもいい街のようですね、ハルフノールは」
「そういってもらえんのは嬉しいが……まあ、天国じゃねーんだし、色々あらーな」
「そうなんですか?」
「犯罪だって、最近増えてきちまったしなあ。辻斬りが起こるし、鬼が出たって話もあるんだぜ」
「へえ、信じられないなあ」
「特に!今の宰相、シールズとかいうやつ、ありゃあ駄目だ。な?」
「そうそう、自分の金増やすことしか考えてねえような野郎だぜ!税金ばっかりあげやがってよ!」
「やな奴だなあ。そんなこと、許されるものなのかよ」
エクイテオが憤慨気味に声を上げる。
「まあ、昔は今ほど露骨じゃなかったけど、一番の原因は8年前だな」
そうだそうだ、と人が集まって来た。皆、話がしたくてたまらないようだ。異国の人間に目をつけていたのだろう。
「八年前に、何かあったんですか?」
「兄ちゃん、ちゃんと国のこと調べてから来なよ、常識だぜ?」
はあ、すいません。エクイテオは逆らわずに頭を下げる。敢えて知らない振りで、話題に乗るのは常套手段である。
「八年前に、前国王家族が、初めて国を出て他国に挨拶に行ったときに、事故にあって皆死んだんだよ」
「ああ、確かにそんなことがあった気がする……」
「デュミエンド、だったかのう」
「ああ、そうそう!なんか土砂降りの雨かなんかで流されたとかだったよな」
「ご遺体の一部、とやらが送られてきたけど、本当なのかあれ。何にしても酷い話だったよ。そんでそれ以来だ、シールズがやりたい放題になったのはさ」
「一説じゃ、宰相に殺されたって話もあるくらいさ」
「滅多なことをいうんじゃないよ!」
「……生き残りとかはいないの?」
「相当ひどい土砂崩れだったらしいからなあ。お付きの人間もいたし、誰か一人くらい生き残っていてもよいだろうけどな」
話がしぼみかけたころ、立ち上がって声を出したのは若い男である。
「まあ、でも!きっとジグハルト様がこの国を変えてくれるさ!」
「そうだ!あの人ならきっと変えてくれるに違いない」
「強くて、お優しくて、何より恰好いい!」
「何だよ、結局そこかよ」
「結局そこよ。あんたなんかじゃひっくり返ったってかなわないでしょうよ」
「うるせえ!」
成り行きで女に抱き着こうとした男を、横にいたリーファが鮮やかな手際でひっくり返し、やんやの喝采を浴びている。誰と話をしても、流れが結局ジグハルトという男に収束されていくので、今度はエクイテオが質問した。
「ジグハルト様ってな、どんな人?」
「幼い頃から、親について世界を旅していた人だ。剣も滅法強くて、デュミエンドで開かれた剣技の大会で優勝してるくらいだ」
「ほう、それはすごい」
ヤンが感心する。尚武の国、デュミエンドの大会は当然真剣勝負。そこで優勝するということは本当の実力があるということだ。
「今ジグハルト様が持っている剣、知っているか」
「ああ、あの凄そうな剣」
見てもいないのに、さも知っているような口調をさせたら、エクイテオにかなう人間はいない。相手も我がことのように胸を逸らした。
「あれは、ハルフノールの剣ってな、女神ハルが国民を守るためにと最後に作った法具だ。国一番の剣士で、行いも正しいものしか持てないのさ。絶対に折れないとか、鉄を紙かなんか見たいに易々と切り裂くともいわれている。国王が持つハルフノールの宝冠と並ぶ国の至宝、それをジグハルト様が持っているんだぜ。本当ならシールズなんかより、よっぽど国を治めるのにふさわしいんだ!」
「そうよ、ジグハルト様が一番よ!」
人望があり、実力もある。過剰ともいえる期待は、期待を寄せねばならない情勢だということの裏返し、なのかもしれない。エクイテオは表面で笑いつつ、言葉を記憶に刻み込んでいく。
「あーあ、そんなジグハルト様でも、女神ハルは降臨させられないんだからなあ。ジグハルト様が王族のもっと濃く血を引いていれば万事解決なのに、全て上手くいくわけにはいかないものね」
「王族ってのは、女神ハルを目覚めさせる力を持っているって奴?」
「そう、それそれ。よく知っているわね。ハルの目覚めさせるための力を持つ王族がいなくてなあ」
「王様が焦って、国中の女と子供作ったはいいが、今度は庶子同志で争いになっちまったしな。がはは!」
「何人死んだのか、きっとうちらが知らない間に生まれて、死んじまった子もいるだろう、かわいそうに」
「あーやめやめ!そんな話、お客さんにしてもしょうがないだろ!さあ必要なのは酒と歌だよ!」
暗くなりかけた店内に、一斉に楽器が掻き鳴らされる。陽気な調子の音楽に合わせて踊る人間、歌を響かせる酔客もでてきて、話は有耶無耶になってしまった。エクイテオも気を取り直して話に花を咲かす。さらに酔いが店全体にいき渡るころ、今までとは違う奇妙な話題が耳に入ってきた。今まで、輪に入らず静かに飲んでいた一団が、ぶつぶつと話しこんでいる。
「……竜?」
その単語は、決して無視できない言葉である。エクイテオが調子よく卓に割りこんでいった。
「良かったら、俺達にも今の話聞かせてくれない?」
「あ、ああ。実は……」
真剣な口調に、いつの間にか店全体の人間が引き込まれ、話を聞くことになっていた。
Ⅲ
飲み会から一人離れたツィーガは、任務である献上品の警護についていた。折角の再会に水を差されるとはこのことで、仕事の悲哀を一人噛み締めている。かすかに聞こえてくる潮騒が、一層寂しさを募らせた。厳重に封印、補強された木箱は、それだけで威圧感のあるものだったが、夜ともなると不気味な印象を強めてツィーガに迫ってくるようであった。
「うう、寒い。今頃テオ達は盛り上がっているんだろうなあ」
かちゃり、とラーガが音を立てる。
『何だ、寒いのか?ではいいものをくれてやる。剣の型を三〇回。それで温まるぞ』
「……」
『人が楽しんでいるときに、鍛える。これこそが上達の秘訣だ』
「わかったよ」
『今のお前の身体では、俺の全力は出せん。せいぜい六~七割といったところだ。早く一人前の剣士になってもらわねば、な』
「わかったってば」
ツィーガは唯々諾々と従う。実際、暇なことは確かである。それならば、いざというときのための準備運動は無駄ではないと自分に言い聞かせる。実際、重要な献上品とはいうものの、宿所の周囲はハルフノールの騎士達が囲んでいるので、そうそう危険な役目はないと思われた。開けた場所にでて、教本通りの型を振るう。この八か月、基礎に戻って徹底的にラーガに叩き込まれた動きだ。
『無意識に体が動くようになってからが本番だぞ。常に戦う相手を想像、緊張感をもってやるんだ』
ツィーガが無心で型に取り組み続けること、小一時間。ようやく鞘に納めたはずのラーガが、かちゃり、かちゃりとなる。放心に近い状態のツィーガの意識が一気に引き締まった。
『前に飛び込め!』
突如、地面に向けて飛び込み前転を決める。今までツィーガがいた場所には、短剣が突き刺さっている。
『走りながら、剣を薙ぎ払い、警告を発しろ!』
「襲撃!襲撃!」
渡された警笛を吹きつつ、走り抜ける。
『木箱を背にして、法術発動!』
「神よ!我ら二心を一つに!一つの身体を分かち合わせたまえ!」
剣自体が輝き、目を閉じたツィーガの身体に流れ込む。身体でなく、ひびわれていくような自身の意志を強く意識し、縛り付ける。全身の違和感を満遍なく認識し、地に投げ出すように身体を放擲する。浮遊感に包まれる身体が別の何かに支えられ、別の型にはめ込まれるような感覚。
「ぐっ……」
ラーガの魂が身体を獲得した瞬間から、ツィーガの意識に激痛が絶え間なく流れ始めた。ここまでの間、行動に一瞬の遅滞もない。以前の戦いで編み出した戦法、歴戦の勇士であるラーガの魂に、ツィーガの身体を委ねることで、往年の技量と経験を最大限に発揮する法術である。ツィーガは自身の鍛錬とともに、法具使用について、より長時間、より負担のない方法を探求してきた。更に緊急時において、ラーガの指示に瞬時に反応することだけに集中するよう、行動を徹底的に体に染み込ませていた。以前のツィーガであれば、まず法術を発動しようとして、大きな隙を作っていただろう。
『目標、右前方。意識配分は五分五分分でいくぞ。』
ラーガがいち早く発見した敵は、おきまりの、暗褐色の衣服に身を包んだ影であった。ツィーガより一回り大きな体格に、既に抜きはらった剣を隙なく構えている。
『防衛戦だ、深追いは禁物。いくぞ!』
「襲撃だ!」
再び声を上げつつ、目の前の敵に一歩踏み込み、軽く斬撃を放つ。相手は誘いにのらず、軽く剣を合わせただけである。受け止めた感覚から、かなりの膂力の持ち主であることが伝わって来た。
『おっと!』
瞬時に敵の動きが変わり、静から動へ転換し、猛然と切りかかってくる。次々と繰り出される斬撃全てに火花が上がった。一撃一撃それぞれに必殺の威力が秘められていたが、ラーガ余裕をもって全てを捌き切っている。影はツィーガの卓越した動きに驚いたかのように、一歩間合いを外した。ラーガの剣技は、体を貸しているツィーガであってもまだまだ底が見えない。下手に動こうとすると予想外の方向に動く身体の邪魔になる。全身の力を抜くことと、身体の使い方を心に刻みつけることにのみ意識を配っていた。ラーガの動きから、相手を生け捕りにしようという意志を読み取ったツィーガは、再び声を上げた。
「みんな!早く来てくれ!」
ようやくに、ツィーガの声に反応し、建物から物音が聞こえはじめた。状況を察し、影は再び大胆な踏み込みから、電光のごとき突きを繰り出す。その速さに、ツィーガは冷や汗をかいたが、ラーガは見事に角度をつけた刃で受け流しつつ、絶妙の間で打ち払った。
『何!?』
態勢を崩したかにみえた影はしかし、剣を払われた力をそのままに、ツィーガから一気に跳躍して距離を取ったかと思うと、身を翻して逃走に移った。
「待て!」
『よせ』
ツィーガが踏み出そうとした足を、ラーガの意志が止める。肉体が軋みを上げ、ツィーガは法術を解除した。痛みは小さくなったが、疼きは残っている。数日は筋肉痛のように動作をするたびに痛むだろう。
「何故追わないんだ?」
『追いつくころには、法術が切れる。今の相手は、素のお前では厳しい』
「わかった」
ツィーガは素直に受け入れる。ラーガの確かな実力の内でも、最も優れているのは状況判断の力であると、この八か月で学んでいるからだった。
「無事か!」
駆けつけた仲間に対し、片手を上げて応えつつ、放たれ、地面に突き立った短剣を抜き放つ。
『何の変哲のない、短剣だな。足取りを探すのは難しそうだ』
「しかし、凄い相手だったな」
ドーミラ事件以降、ラーガが仕留められなかった相手は一人もいない。悠々と逃げおおせた事実が相手の力量を雄弁に物語っていた。
『全くだ、世界は広い。このような場所にあれほどの剣士がいたとは』
ラーガは楽しそうであるが、ツィーガはそれどころではない。強くはなりたいが、戦いが好きなわけでは決してない。自分が希望とはかけ離れた場所に連れていかれそうで、新人神官戦士は、やれやれと天を仰いだ。
Ⅳ
一夜明け、モス・シールズは、王城から町並みを眺めやる。日課であり、儀式のようなものでもあった。自分の立ち位置を理解し、把握することは、何時の時も必要なことだ、と少なくとも彼自身は考えている。
「ジェラーレはいるか」
「こちらに控えております」
人の気配はなかったが、声は確かにする。シールズは表情を崩さず、姿勢も変えずに言葉を続ける。
「スタンの若造めの動きは掴めたか?」
「いえ。陛下は不満をお持ちなだけで、具体的な行動を取ってはおりません」
「どうだかな。自分の女には、えらく息まいておったようだがな」
昨日の話を思い出す。言われたときの顔色の変りようは愉快でもあり、同時に情けなくもあった。あんな男が自分の上に立っているという認識への苛立ちは、すでにシールズの許容範囲を越えかけていた。
「陛下の行動に変化はありません。相変わらず、狩りと愛玩動物にしか興味がないご様子」
「ふん。街の外でも、中でも変わらず、か」
「よろしいのですか」
「かまわん。奴にも『息抜き』が必要だろう。それに、いざという時には奴の足枷になるからな。全く、大人しく飼われていれば、仮初とはいえ王座に居続けられるものを」
モスの吐き出す毒舌は虚空に消える。
「ロイめの動きは?」
「エスパダールの要人と接触し、何事かを打ち合わせた様子ですが、詳細はまだ掴めていません。恐らくは、今後の国の守りに対する要請かと」
「ふん。こちらがデュミエンドなら、あちらはエスパダールか。いちいち対抗意識を持つ奴だ。お前に対抗して、誰かを雇いあげるかもしれんな」
「元々私の士官先は、ロイ・ジグハルト卿でした」
「そうであったな。だがお前は奴を見限り、私の誘いに乗った」
「状況を考えれば当然の選択です」
あまり表情を変えないモスの顔には、珍しく満足気な様子が伺える。それほどにロイ・ジグハルトという男を意識しているということであろう。
「報告は終わりか?」
「は、実は気になる噂が流れております」
「噂?」
「はい。実は竜が、ハルフノールに来る、という警告がここ数日街中に広がっております」
「昨日も聞いた。このハルフノールに竜が来るだと?ありえない話だ」
「特に根拠の無い噂であると思いますが」
「当然だ」
シールズの顔が曇る。ハルフノールに竜が来るなど有史以来無かったことである。問題は今、このタイミングで何故竜襲来という話が出たのか、だが。
「誕春祭にあわせて、多数の間者が入ってきているようだ。判断はお前に任せるが、見つけ次第斬れ。無理に情報を聞きだす必要はないぞ」
「畏まりました。では」
声は聞こえなくなった。シールズはジェラーレという男の働き振りには満足していたが、同時に警戒もしていた。便利過ぎる道具は、それゆえに我が身を滅ぼす原因ともなりうるものである。監視を着けることも考えたが、下手に動けば警戒し、場合によってはジグハルトの下に帰るくらいのことはする。ジグハルトから奪って後、シールズにも全く隙を見せない。過去についても誰も調査の手が及ばない。鉄の意志と沈黙を持つ男であった。
同時刻、ツィーガとエクイテオはデリクスの前にいる。昨日の襲撃と、街での竜の噂についての報告である。竜の話題については、デリクスはそれほど興味なさそうであったが、とにかく表情を変えない上司である。部下としてはどう反応すべきか、とっさには判断できない。
「まずはツィーガ、お疲れさん。君とラーガ先輩が捕まえられないってことは、敵もさるものだね」
『うむ。なかなかの遣い手だった』
「狙いは、おそらく献上品でしょうが。盗賊でしょうか?」
「まだ何とも言えないな。盗みにきたのか、それとも壊しにきたのか。何せ一人で運べるものではないしね。ラーガ先輩は何かお気づきになりました?」
『いや、昨日のやり取りだけではな。俺が相手を見つけたのは、宿所の屋根からこちらを見下ろしていたときだった。敢えて手合わせを望んだということであれば、偵察か、腕試しか、もしくは警告といったところか』
ファナが気づかわしげな視線をツィーガに向ける。身体を動かすたびに顔をしかめていたのを見咎められたようだ。
「怪我はないと聞いたけど、法術の反動がありそうね、あとで治療するわ」
「大丈夫です。治療が必要なほどではありません」
『いかん。常に全力が出せるよう、僅かな傷でも疲労でも可能な限り治療するようにしろ』
ラーガの意外なほどに強い口調に、ツィーガは言葉を発せずに頷いた。
「その通りよ。いざというときに疲労で戦えないというのは、戦士にとっては恥だし、神官としては職務怠慢。遠慮とは別の次元の話だからね」
「分かりました。ありがとうございます」
「ま、ひとまずは警備を強化する方向でいくしかない。ツィーガもそのつもりで……それと、竜の噂ねえ。何でそんなこと言いだしたのかなあ」
「何か考えがあってのことなんでしょうか?」
「まだ分からないね」
情報が少ない中で判断するような時期ではないよ、とデリクスは椅子に座りなおす。揺れない大地が余程気に入ったようである。
「そもそも、竜が来るなんてのは、分かるものなのですか?今のところ発生情報もないようですし」
現在では竜が出現したときに、各地にある観測所から【意志の大海】を経由した速報が届くようになっており、円蓋と併せて、竜防衛の切り札となっている。勿論全世界が観測範囲ではないが、着実に範囲を広げており、数年後には完全な態勢が敷かれることになっていた。さらには【意志の大海】の満ちる上空に、観測用の法具を放つことで、より効率的な観測をしようという動きもあった。
「まあ、発生したからといって何処に上陸するかまではまだ予測できないのは事実。だからこそ賭博になりうるのだし」
「賭博、ですか」
「そう。竜賭博。竜がどこに発生するか、何処の街に向かうか、何人くらい被害が出るかを賭けるのさ。勿論不謹慎だから、大っぴらにはやってないけどね」
「確かに不謹慎ですね……人の生死にお金を賭けるなんて」
ファナの顔が曇るが、デリクスは気にせず続ける。
「とはいうものの、竜の予測事態はとても重要なことだよ。円蓋が上手く機能するためにも、円蓋が及ばない地域の人々を守るためにも、ね」
「そうですね」
「大いなる円蓋、と言えば聞こえがいいけど、実質はまだ穴だらけの機構だよ。今はたまたまうまくいってるけど、課題は山積されているしね」
「そうなんですか?」
デリクスのぼやきに、ツィーガは声をあげる。
「何だい、盤石なものだと思っていた?」
「はい……」
「では質問。竜はどうやって出現する?」
「はい、大陸の北部に連なる山脈を越えた先にあるとされる、竜の棲み家から年に数頭から数十頭の割合で飛来し、人間の住む世界を破壊して去っていきます」
竜の襲来については、人々がこぞって研究し、一定の成果も上がっていた。毎年発生はするものの、発生の激しい季節を乗り切ってしまえば少しは安堵出来る期間が続くことは暦にも書いてある事実である。
「取り敢えずはそんなことだね。そして、竜に対抗するために編み出されたのが、人類の志力を総結集して創り上げた円蓋だ。では逆に、人類が総結集出来ない時の対応は?考えてごらん。例えば、カーマキュサとエスパダール、同時に竜が出現したら、どうする?」
「あ……」
「ほかにもある。例えば竜が円蓋を前にして居座ったらどう対抗する?いつまでも円蓋を発動できる志力の余裕はないしね」
「確かに……」
「今の円蓋とは、竜が単独で襲来する、更に、いつかは竜の棲み家へと帰っていく、という条件があって始めて成り立つ仕組みなんだよ。これからどうしていくのか、よく皆で考えて行かないと、折角の仕組みが壊れてしまう。そして壊れてしまえば、もう二度と戻ることはないかもしれない」
デリクスの淡々とした口調は崩れることはないだけに、自体はより深刻なのだろう。
「国のお偉いさんは皆そのことを理解している。だからこそ、今でも国家間でもめているんだ。ツィーガ、今回の出張には、そういった、世界の流れを知って貰いたいという意味もあるんだ。しっかり勉強してくれよ」
ツィーガとエクイテオが退出した後、ファナががらりと表情を変えて話かける。この変化はいつ見ても見事であるとともに、そこまでして本心を隠したがる心情がどこからくるのか、デリクスには不思議であった。
「しかしまあ、絶好の時期に、都合のいい内容の噂ね。ひょっとして、あなたの刺し金?」
ファナの台詞に、デリクスは眉をひそめた。
「変なこと言わないでよ。噂なんて、制御できないもの俺は使わないさ。それに今回の国の方針については、賛成していないからね」
「あら、そうだったの?」
「そうだよ。時期が早すぎるさ」
多くは言わず、デリクスは天井に向けて嘆息する。ファナは美しい指を噛むような仕草を見せて固まった。
「噂を流したのがあなたじゃない、とすると、やっぱり一筋縄ではいかなそうね……肝心の献上品は無事だったの」
「残念ながら、ね。ツィーガの見事な働きのおかげで、ね。いっそ壊れちゃえばよかったのに」
「あら、ならそう指示をださなきゃ。あの真面目なツィーガなら、きちんと役割をはたしてくれたでしょうにね」
不敵な笑みを浮かべるファナに、肩をすくめてみせ、デリクスは立ち上がった。少ない荷物から、礼服を取り出す。
「さてさて、今日は国王陛下への謁見だ。面倒くさいなあ」
「せいぜい頑張ってね」
「おいおい、君も行くんだよ。君こそが得点源なんだからさ。なんなら玉の輿にでものったらどう?」
「冗談はやめてよ。操り人形の第二夫人なんて面白くも何ともないわ」
「多分、第四夫人くらいだと思うよ?」
「最初の三か月は、ね」
皮肉とも冗談ともつかない言葉を交わして、二人は部屋を出ていった。
Ⅴ
港には、誕春祭に向けて続々と船が集っている。例年にもまして盛況なのは、正式な国家間交流のせいであるが、いずれの国の船をも圧倒するかのような、豪華な船が注目を集めていた。船籍は不明であり、運び出される荷物の量は、人々の噂を刺激する。これは何かが起こる、期待の感情は少しずつ高まってきていた。
そんな活気を、別の船から眺めていた一人の男が立ちあがった。祭りの陽気さからはかけ離れた雰囲気を漂わせ、相変わらずの不敵な笑みを浮かべたのは、トムス・フォンダだった。身なりは幾分整っていたが、敢えて着崩してきているのか、だらしなさが隠し切れない。蒸留酒を一気に煽って、横に座っていた人影に錆のある声を投げかけた。
「あんたはもう少し、この船で待機して、合図を待ちな」
相変わらず外套を深く被り、トムスよりもさらに深い拒絶の意志を周囲に示す女性は、軽く頷いたのみだった。
「じゃあな、スクエア・アトラン」
トムスが部屋をでると、近くにいた子供が、表情をこわばらせ後ずさる。人の波が引くように道が開けられる。トムス自身が気付いていないが、彼の目には炎が宿っていた。暗く燃える。憤怒の炎が。
「いよいよ、はじまるぜ」
それは、自分自身に向けた開戦の号令だった。
……薄暗い船室に残った人物がようやくに外套を取り、顔を出す。繊細な、憂愁を漂わす美しさをもつ女性が、じっと自分の掌を見詰めている。
やがて、夜空の星のような光が、手に浮かびあがる。光を握り締めると、握った拳の中で、次第に輝きは増していった。
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