第45話

 まだ陽は高かったが、どちらから言うでもなく、歩いて駅に向かい始めた。電車に乗って帰った。それだけ。今度は向かい合って座って、ずっとお互いを見ていた。


 帰るまでがデート。しかし、デート、という甘酸っぱい時間は、突然現れた魔法少女の登場によって切り裂かれた。

……祐佳里のコスプレなのだが。

 白を基調としたジャケットの下に、フリルのドレス。黒のオーバーニーソックス。猫耳としっぽの飾り。サキのライバルである。

「祐佳里、屋外でコスプレするのはマナー違反だぞ」

「違うわ。祐佳里はぉ兄ちゃんへの愛と、その女への怒りから魔法少女に変身したんだよ、ぉ兄ちゃん」

「中二病ね」

 莉紗が呟く。

「ぉ兄ちゃんを惑わす悪の手先! この『マジカルこねこ』が成敗してくれるわ」

 祐佳里はそういうと、おもちゃのステッキを振り回してくる。

「あぶないじゃないか」

「正義のためだよ。どいてよ」

「どけられないよ」

 俺の頭、肩、腹。無差別に繰り出してくる祐佳里の攻撃を俺は受け止める。おもちゃだからなんとかなっていたものの、それでも痛い。

「祐佳里、冷静になれよ」

「祐佳里は冷静。ぉ兄ちゃんは淫魔に騙されているんだよ」

「ちょっとコスプレしただけだろ。アニメと現実をごっちゃにするなよ」

「莉紗ぉ姉ちゃんは、祐佳里……の大切な人を奪っていくんだよ」

「いいか、俺は莉紗が好きだ。俺が選んだんだ」

「それでも、ぉ姉ちゃんがいなかったら、いなかったら、お兄ちゃんと祐佳里が結ばれていたんだよ」

「そうとは限らないだろ」

「浩一!」

 金平先輩の声だ。

「祐佳里君、どうしたんだ。落ち着け、落ち着け」

「祐佳里は敵を倒すんだから、じゃましないでよ」

「やめろ、祐佳里くん。『ぉ兄ちゃん』を痛めつけるつもりか」

「だって、……だって……なんで私と付き合ってくれないの? 私にはデートしてくれないの? 祐佳里だって、好きなのに」

「わかるだろ。もう小学生じゃないんだから」

 そこへ遅れて、佐々木先輩がやってきた。

「アニメを見てハマった、っていうからコスプレしてもらったんだけど、急に飛び出して行ったから、はぁはぁ、部屋に戻って帰ってきたときに浩一殿を、はぁはぁ、驚かすのかなと思って、はぁはぁ」

 息切れしながら走ってきた先輩。しかし、

「第一シーズンの最後でサキは改心して、『リリカルサキ』という魔法少女として主人公と共闘するであります。でも、同じ男子を恋してしまうライバルだけど、仲良しなのですぞ」

といいながら、莉紗の後ろに立つと……。

 まるで魔法少女が変身するバンクよりも手早く、莉紗の姿を変身させてしまう佐々木先輩。一瞬にして、ウサギ……いやバニーガールって感じか? なちょっとエッチで大人びた魔法少女姿にチェンジした莉紗。

「何、これ? 魔法? 変身?」

 莉紗は戸惑いの声を上げるも、

「これがサキの新バトルフォームであります。もう、祐佳里殿の仲間ですぞ」

と自信たっぷりに言う先輩。

「でも、でも……」

そんな戸惑いの声を上げる祐佳里に、金平先輩が諭す。

「だったら、自分を磨いて、『ぉ兄ちゃん』に振り返ってもらえるようになることだ。少なくとももう二年は、『ぉ兄ちゃん』と『ぉ姉ちゃん』と一緒にここで過ごすんだ。もしかしたら、祐佳里君のことに気が移るかもしれないぞ」

 そういうと、祐佳里は途端に表情を明るくして言う。

「そうだよね。幾ら鈍感なぉ兄ちゃんでも、二年も一緒にいれば祐佳里の魅力に気づくよね」

「そうだとも、な、浩一」

「あ、そう、そうかもね」

 適当に相槌を打つ。

「でも、ひとまずは私が恋人だからね。そこのところは間違えないでよね」

 バニーガール風魔法少女姿の莉紗が、俺に抱きついてくる。

「私たちも卒業まで一年近くある。その間に浩一を落とすぞ」

「おー」

 先輩方まで、なんか盛り上がっているんですけど。ねぇ、なんで?

「それじゃ、エンディングはダンスであります。再生」

 どこからともなく流れてくる、アニメのエンディング。

「ガンガン踊るであります」

 さも当然のように、佐々木先輩だけでなく、金平先輩、祐佳里、そして莉紗までもが局に合わせて踊り出す。俺は見よう見まねで踊るも、全くついていけなかった。

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