第44話

 照明がつく。

 莉紗の方を向く。彼女は泣いていた。大粒の涙が、間断なく瞳からこぼれる。

「はずかしかったんだ。好き、っていうこと」

 そして、莉紗も俺の方を向く。

「こーいちのことが最初、気になって気になって仕方なかった。会えないから、余計に仕方なかった。近付きたい、と思って引っ越した。でも、祐佳里さんがいた。……焦った。私の方を向いて欲しい。私を好きになって欲しい。でも、そんな簡単なことが言えなかった。私は勉強馬鹿で、流行に疎くて、男子の好きな話しなんてこれっぽっちも出来ない。それが怖くて、祐佳里さんがどうとかなんとか言って、とにかく好きなのを隠して、それでも付き合って欲しかった。付き合ってたら、やっぱり好きになってしまった。それでも、言い出せなかった」

 俺も言いたかった。

「改めて言います。こーいちのことが好きです。祐佳里とか関係なく、心の底から」

「……俺も」

 というと、涙を流しながらも、しっかりとこちらを見据えて笑う。

「いっちゃったよ、こーいち」

 莉紗は極端なまでに真面目だ。真面目すぎるが故に周囲に壁を作ってきた。でも、その壁を取り払って、なんておこがましいことは言わない。彼女の世界の中で彼女を支えてあげる存在でありたいと、俺は考える。

「私たち、本当に愛し合えるのかな」

「もう愛し合ってるだろ」

 そこに、

「おたのしみでしたね、お客さん」

 受付の女性であった。

「老老介護の困難さを訴える趣旨だったんだが、まさか泣く人が出なんて、初めてだよ。……客入りは少なかったのは事実だけどね。ま、そろそろ次を上映しないといけないんだけど、サービスだ、次のも見るかい? 外国のコメディ。よっぽど若い人向けだよ」

「相方が迷惑掛けてもいけないんで、ロビーの方で休憩できれば助かるんですけど」

「あいよ。好きに使っておくれ」

 部屋を出て、置かれたソファーに座る。莉紗も一緒だ。次の映画を見る客が上映室に吸い込まれていく。残された俺たちは、愛を確かめ合う。

 キスをした。

 彼女は泣き止んだ。

 嘘の無い、本当に好きな人との好きな、好きなキス。

 ことばをいくら重ねるよりも、近くに感じられた。

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