第36話
部屋を出てすぐ、あまりに近い楽園への入り口。
自分の部屋と全く同じドア。ただただ、そこに貼られた部屋番号が違うと言うだけの差異なのに。手に入れたレアアイテム、『莉紗の部屋の鍵』を使用して、俺は、莉紗の部屋に足を踏み入れる。
まだ陽の昇らない闇夜を照らしていたアパートの外照明の灯りから外れた部屋の中は、まるでダンジョンのように思えた。俺は、携帯電話を取りだし、カバーを開く。ディスプレイに展開されるのは、莉紗の顔。彼女の姿を守護に付け、俺は攻略にかかる。
ラスボス……莉紗は容易に見つかった。ま、ワンルームだし。
「き、キスを」
床に直接布団を敷いた莉紗に覆い被さるような体勢で、俺はゆっくりと彼女に顔を近づける。何やってんだろ、俺。こんなに胸が脈打つほどしたいのに、なぜか唇を拒否したくなる。いや、莉紗がこれでいいのなら、いいんだ。心にそう呼びかけていると。
突然、莉紗の側から抱きついてくる。
唇から、胸から、腕の先から伝わる微熱。俺と莉紗が一つになる瞬間。おれは脱力し、彼女の上に倒れ込む。
「ご、ごめん」
突然俺の体重がかかり、彼女は狼狽する。
「何してるのよ、こーいち。早くどいて。重たいわ」
「ごめん」
俺は平謝りで、そのまま彼女の横に倒れ込む。
「でも、本当にやってくれるかどうか、半信半疑だった。お姫様になった気分」
暗がりの中で、彼女が微笑んでいるのが耳からありありと描かれる。
「でも、最後は私が我慢できなくなって抱きついたけど」
そう、耳許で囁く。
「でも、」
彼女はそう言うと、立ち上がり、机の上に置かれたリモコンに手を伸ばす。煌煌と蛍光灯が青白く辺りを染める。
「せっかくデートと洒落込んだんだから、早く出かけましょ。今日一日、立派にこーいちの彼女役を果たすんだからね。だから、こーいち、今日はめいっぱい私を弄んでよね」
そう言って、机の上から紙を一枚取り出し、俺の目の前に突きつける。今日の日付から始まる、緻密な文字列。分刻みで書かれたスケジュール。交通機関の時刻、店の名前、映画のタイトルのリストが紙面を埋め尽くしていた。
「今日のデートプランよ」
「これ、全部やるのか?」
「ところどころ、選択制の部分もあるから……よろしく」
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