第14話

 沈黙……。

 陽光の下、俺たち二人だけが外に残った。

 どういう言葉を発しようか、迷うに迷った。

 見つからない。台詞は、見つからない。

 ただただ、時間ばかりが過ぎていく。

 七星と二人だけの時間と空間……想像だにしなかった幸運が、すごく、すごく息苦しい。

 風の音、光の色、庭の匂い。いつもは気にならない存在が、沈黙の中で、我も我もと個性を主張し始めた。

 しかしながら、その中で燦然と俺を刺激するのは……口許に残る七星の唇の味であった。

 横目でちら、と七星のほうを見る。彼女は下を向いていた。俺は再び視線を外そうとすると、

「浩一……くん……」

 こちらに向き直り、七星さんは俺の名前を呼んだ。

「七星……さん」

 それに応え、俺は彼女の名前を呼んだ。

 好きな彼女の横で、その彼女の名を口にする。

 すると七星はすっと立ち上がる。それにつられて無意識に従う。彼女が歩み、距離が縮まれば、俺も間を詰める。

「祐佳里殿、ご乱心でござる」

 そんな、佐々木先輩の声など気にも留めず。

「お兄ちゃーんっ!!!!」

 この雰囲気を祐佳里の声、そして祐佳里自身の登場によって切り裂かれた。

「ねぇ、七星のお姉ちゃん、なんかいい雰囲気になっていたみたいだけど」

 その言葉に、少し赤みががっていた彼女の頬から一気に血の気が引いたように青白く変わると、一気に紅潮した顔へと変貌していく。

「な、何もないわよ……花村なんかに特別な興味なんてあるわけないじゃないの。バカみたい」

 そう吐き捨てたと思いきや、顔を手で抑え、階段を上る。ドアが閉まる音が響き、彼女は消えていった。

「七星……」

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