毎日考えるたびに僕は思う。こんなことってあっていいのか。なんでこんな人と出会ってしまったんだ。涙が流れて止まらない時もあって、僕はそんな時に眠りについて、夢に出てくる、顔のない彼女をただ追いかけた。


   鏡の向うで相対して僕は君の後ろを、君は僕の後ろを互いに守ってあげようとするんだ。僕には君の後ろに多くの人が君を見守っているのが見えてるんだよ。同じように君にも見えているのかも知れない。見えていないのかもしれない。僕は君が泣いているのを見て、同じように泣きたくなった。君はきっと僕が守ってあげたいと思うけど、鏡越しの君は遠くて、そしてなにより僕も、君を守れるほど強くはないのかもしれない。僕らは互いに互いを補完していくしかないのかとも思うけれど、その先に見えるものはただの依存や中毒だった。


 ロマンチストの彼女が見つめる世界に僕はたどり着けないのが悔しい。僕も君と同じようにこの醜い世界を美しいと思ってきたけど、君ほど綺麗に世界を捉えることはできないみたいなんだ。そう思うとまた涙が堪えきれなくなって、なんだ、こんなに泣けるんだなと僕はいつも驚くんだ。僕は常に冷めていて、君はいつも温かい。僕らの違いはそれだけじゃない。まだ気が付いていないだけで、それを見つけるたびに、もっと遠くなりそうで怖いんだ。  もし、本当にもし君と僕が互いに隣を歩くことになっても、いつかそこらのカップルのように別れていってしまうのかと思う。その時は何を思ってるんだろうか。初めて人と出会ったことに運命を感じたけれど、その時にはもうそんなことは忘れて、ただ鏡の前から去ってしまうのか。


 馬鹿馬鹿しい。本当はこんなことを書いている自分が馬鹿馬鹿しい。こんなことを思っている僕は、なんて醜いんだ。  僕は君に何もしてあげられないのか。いいや。僕は何にも自信がないけど、多分なにかしてあげれるんだ。君が足元ばかりを見るなら照らしてあげよう。君は眩しいのが嫌いだから小さな明かりで、どうせ僕は強い光は放てないし。


 足元の写真。前を見ようとしてるんだね、少しずつ。それでいいんだよ。人はなにかしようとするとき自分の位置が気になるものだよ。僕の勝手な解釈かも知れないけど、なにも思わないよりましだよね。


 僕はやがて鏡の前から去るのかもしれない。そしたら君の前から僕が、僕の前から君がいなくなってしまう。そうなってしまう前に、この鏡ぶっ壊して君の元に行くよ。君は君だし、僕は僕だ。いつまでも鏡の自分だ、鏡の自分だと、似てる所ばかりを見ないで、君にしかないものを見たいんだ。君ほどの感性はなくて、上手く君を写せないかもしれないけれど、勘弁してよ。


青っていい色だ。僕は君がそんなに青を思っているなんて思わなかったよ。  僕は手を挙げて、鏡の奥の君も手を挙げて、ハイタッチをしよう。きっとよく息が合うよ。


  fin

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