勝手に神話書いてみた

ソラン

終わりの少し前

突如、どこからか笛の音が聞こえてきた。それもかなり大きい音だ。

この巨獣はその音で目を覚ました。何事かと、少し逡巡したが、

ーそうか、始まったのか........。

すぐにそう得心した巨獣は開いたばかりの目をまた閉じた。よく耳を澄ませば雄々しい叫び声や、行軍の足音が聞こえる。

それに集中し過ぎたのか、巨獣は目の前にいる男の気配にも気付かなかった。

「直々に迎えに来たというのに、全く我が息子は........」

突然の声だったがそれ自体は予定調和だ、巨獣はそこに驚いたのではない。その声の主、一番来ないだろうと高を括っていた人物が迎えに来たことに驚いた。

『ふん........どうやらこの牢には変人しか寄り付かんらしいな』

驚きを悪態で隠す巨獣。だがその男は嘘を簡単に見抜いたようだった。

「照れ隠しとは言えど、親に向かって悪態を吐くのはどうかと思うぞ?」

『こんなところに息子を一人置いていく親に払う礼儀などあるはずもないな』

「2人にも似たようなことを言われたな........それより、お前でも『その紐』は持て余すのか?」

『でなければこんな所で寝てなどいない。』

「だろうなぁ。」

『........何の用だ、我が父よ。談笑しに来た訳でもあるまい。』

そう訊いた途端、軽薄そうに話していた男が指を鳴らした。

「本当はとうに全て分かっているのだろう?あの笛の音の意味はお前が一番知っているはずだ。」

男が掌に魔法陣を出し、檻の向こうから紐に翳す。すると巨獣を縛る紐の力が少し緩んだように見えた。

「我が義兄を討て、露払いはお前の兄妹がしている。」

そう言った声だけはやけに重みがあった。

『私を生んだ父ならば討てるのでないのか?』

茶化すように巨獣は問う。

「私はこの頭が取り柄なものでな、この日までの手引きが精一杯だった。........だからお前らを生んだとも言えるがな。」

軽薄さをすぐに戻して答える男。

『フン.......まあいい、丁度体が凝っていたところだ。』

「頼もしいな。では私はあの笛の音を止めてこよう。」

背を向けると同時に風のように消える男。巨獣はその背中を見送ると、縛る紐を引き千切りながら立ち上がり、何年、何百年もの間眺めた檻を容易く噛み砕いた。

『終末の時だ、精々楽しめよ。我が兄妹達よ。』

壁を砕き、久々の外を眺める。

空気は戦いの余波で揺れ、景色は争いに穢れ、血の香りが漂っている。神界の荘厳だった建造物達も、今や跡形も残っていない。まさしく終末の日に相応しい光景だった。

見下ろす様に眺めていた巨獣は誰もが一目で戦慄する顎を開き猛々しい咆哮をあげる。地は揺れ、天は震えるその遠吠えで世界の終わりを告げる。

天を駆け、かの主神の元へ向かう。彼は全てを知った様に待ち槍を携え巨獣を睨んでいた。だが、巨獣は構わず突き進む。


全てを終わりにする為に。

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勝手に神話書いてみた ソラン @zgmfx42s

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