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シルバーブレイト国立公園は、およそ二〇〇〇年前に
西方大陸の統一国家であったことから、単に
人々を不安と
そのうち、父親たるグルッグ・フォン・シルバーブレイト二世については、
彼が王位を承継した当時は、先代たるリヒター・フォン・シルバーブレイトの号令によって
跡を継いだグルッグは、緯北部地域における内政姿勢をあらため、武力暴動をともなう反乱には
善政によって徐々に信頼を獲得していったグルッグは、また、父親譲りの武勇も兼ね備えていた。緯北部地域の政情不安を好機とみて、同地域を強奪しようと出撃してきた東方帝国の艦隊に対し、奇計によって数的劣勢を強いられたにもかかわらず、果敢に迎撃して、大勝利をおさめたのである。
世にいう
第一皇女と皇帝の相次ぐ崩御による内乱で
なぜ突然に民主制を敷くにいたったのかという理由については、数多くの仮説が提出されていまだ定まっていないものの、精神的な
問題なのは、王女たる娘のほうである。
事績に非難される点があるわけではない。父グルッグとともに出陣した翡翠海海戦では、分艦隊をひきいて、旗艦突撃という豪胆きわまる戦術を実行し、乱戦になるとみずからで弓を引いて戦い、大勝利の契機を演出したとされる。その活躍によって〝
と、公的史料はうたっており、一般にも、そのように認知されている。
それでもなお彼女が問題視されるのは、史料の記載に、当時の常識を考慮すると、その真実性が疑われることがらが、複数存在するからである。
翡翠海における旗艦突撃は、王女付軍師であったハーチュン・ハートライドの献策とされているが、王族、しかも次期玉座に就くべき人物を危険にさらすような策を一軍師が上申するとは考えにくいこと。敵地に潜入しての調略活動を王族が直々におこなうのも、通常ではまずありえないこと。だが、最も歴史家のあいだで論争となっているのは彼女の出自であって、西方王国の王女提督はその名を、リエ・フォン・シルバーブレイトといったのである。
そのあまりにも東方的なファースト・ネームは、彼女が東方帝国領からの養子であるからだとされている。シルバーブレイト王朝は、王に実子がない場合、他の血筋が玉座を継ぐことはなく、王家とかかわりのない一般国民の子から養子をとって後継とすることとされていた。これは王家の
だが、養子が玉座を継承する例は過去に数度あるものの、それが王朝領外の、しかも敵対的勢力であった東方帝国からの養女であることは、その史料にふれたすべての人々が、率直には受け入れがたいことであった。王家の公式記録では、当時皇太子であって妻が
また、一般国民の子を養子とした場合、その名を王家の当主たる威厳に
一説には王位承継とともに改名することとされていたともいわれるが、シルバーブレイト王朝は、賢王または王女、もしくはその双方の意志によって廃絶され、〝王女提督〟がその名跡を継ぐことはついになく、彼女の名前は、信頼しうるすべての史料に一貫して、リエ・フォン・シルバーブレイトと記されている。しかも、統一政府が成って以降、すべての史料から、その名は
数々の常識外の事情から、その存在自体の真否が議論されることもある王女提督であるが、国民の人気は現代にいたるまで父親ともども高く、その渾名は我星本星の宇宙港の愛称の由来となっており、翡翠海海戦以来の彼女の座乗艦である〝クイーン・オブ・プリンセス〟は、百度を越える補修と改修をほどこされ、二〇〇〇年の時を越えて、今なおシルバーブレイト国立公園の
そして、その勇姿をほどよく見渡せる、潮風と大地がはじめて出逢う場所のひとつに、一〇〇〇秒の時を越えて、今なおその姿をあらわさない友人を待ち続ける小柄な女性の姿があった。
彼女は、どうやら約束を守ることに失敗したらしい友人と異なり、多方面の知識を得ることに
結局、我星有数の槍術の名手は、友人の安否を気遣う心情に
彼女はその名をアイリィ・アーヴィッド・アーライルといい、我星政府軍における階級は大尉であった。
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