第7話 お昼休みのご主人
「ご主人と一緒にえっちっち~♪
にゃんにゃんにゃんこのけだものえっちっち~~♪」
「変な歌唄うなぁ!!」
自称"せふれ"こと
穂乃果という"せふれ"が登場してしまったせいで、俺が「誰かのもの」になってしまい声をかけられる頻度はゼロになった。
効率的に回収ができたのに。
もちろん、このことは博士に連絡もしている。
『ああ、確かに1人から強力な性欲は届けられてきておるぞ。
この子からは無尽蔵に近い性欲が出ておる、優良物件じゃ。
間違っても手放したりするんじゃないぞ?』
と、完全に研究者目線での素敵なアドバイスをいただいた。
俺としても性欲を回収できる相手がいるのはいいことだけど……。
「ご主人、お弁当を作ってきたんだにゃ!
すっぽんとにんにくとうなぎとすっぽんのどれがいいにゃ?
にゃあの口移しで一緒に食べるにゃ!」
「時間かかるわ!!」
この調子である。めっちゃ疲れる。
いつの間にか俺の呼び方も「君」から「ご主人」にグレードアップしているし。
「にゃあ……せふれ同士は口移しで食べるって聞いてたにゃあ」
「どこからそんな知識を……」
「朝のニュースにゃ♪」
「ウソつけ! 放送倫理協会に即訴えられるわ!!」
「ふにゃあ、それじゃ飲み物はいかがかにゃ?」
「ずいぶん準備良いな」
「せふれとのお昼休みは、心と体を近づける絶好のニャンスなんだにゃ♪」
「心だけでいいって……」
水筒のふたにこぽこぽと水らしいものをつがれる。
朝からツッコミしすぎてのどがからからだ。
「……変なもの入れてないよな?」
「にゃ? 変なものって何かにゃ?」
「いや……やっぱりいい。聞くのが怖い」
俺はのどの渇きに負けてぐいと飲んだ。
なんてことないただの水道水だった。……と思う。
穂乃果がニヤニヤしているが見なかったことにする。絶対変なの入れてる。
「穂乃果、そろそろ教室戻ろう。昼休みも終わりが近いからな。
屋上から次の移動教室までは結構時間がかかる」
「にゃあ、それよりご主人に聞いてほしいお話があるんだにゃあ。
ご主人にとっても大事なお話なんだにゃあ」
いつになく真剣なトーンで話し始めるもんだから、俺は屋上のドアにかけていた手をひっこめる。
「にゃあの巣の場所は知ってるかにゃ?」
「巣? ああ、家か。いや知らないよ。
というか、クラスメートの家の場所なんて普通知らないだろ」
「にゃあの巣はね、とっても学校に近い場所にあるんだにゃあ。
でも両親は共働きの泊まり込みの仕事が多くてほとんど家にいないんだにゃあ」
「それは寂しいな」
「ふにゅ。でも、にゃあはそんなに気にしてないにゃあ。
ネットでエッチな動画見てるとすぐに1日が終わっちゃうにゃ♪」
穂乃果はうっとりと顔に手を当てる。何を思い出してるこいつ。
「……えと、それが俺にとっても大事な話なのか?」
「うにゃ」
穂乃果はこくりと頭をさげる。
「どう考えても俺には必要そうな情報じゃない気がす……」
言いかけたところで、体から一気に力が抜けて屋上のコンクリートに崩れ落ちる。
まぶたがあらがえない力で吸い寄せられるように閉じていく。
こ、これは……まさか……。
「ご主人にもとっても大事なお話なんだにゃ。
にゃあとご主人がはじめて一つになる場所だもんっ」
「おまっ……えええ……!?
まさか……水筒に……」
「水筒だけじゃにゃいにゃ。お弁当にもお薬をいれたんだにゃ。
もちろん大丈夫にゃよ、ネットを見る限り体に悪影響もにゃいし、ご主人の"ごしゅじん"も元気いっぱいになれるにゃ」
「変なもの入れてないよなって……確認した……よな……」
穂乃果は元気いっぱい、ふくよかな胸をふんすと張り上げた。
「由緒正しき"おくすり"だから、変なものじゃないにゃ!!」
ああ、この子完全にダメな子だ……。
俺はついにまぶたを閉じてしまった。
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