第12話 STAGE7



 セキレイは詰んでいる。



 快力オルゴンの素質。

 密度の高い骨と筋肉。

 ずば抜けた反射神経。

 練磨を苦に思わない誠実さと、悪事を苦に思わない不誠実さ。

 彼女が若くして皇帝シャールドンの親衛隊に抜擢されたのは必然だった。


 のし上がるのは簡単だ。

 問題はそこに居座り続けること。

 セキレイは居座るための算段を十分に、万端に整えてから、のし上がった。

 自分と同じようにのし上がらんとする連中を蹴落とし、セキレイは転移の日までその地位を保ち続けた。


 それほどの女丈夫であるにも関わらず、彼女シーにルールを告げられた時点でセキレイは詰んでいる。


 生き延びる上での最善は皇帝シャールドンと行動を共にすることだった。

 だが彼女の主であり後援者パトロンである男は狩峰翡翠かりみねひすいに惚れている。

 元の世界へ戻れるのは生き残った二人だけ。

 つまり皇帝に忠誠を尽くせば最後の最後で翡翠を生かすための生贄にされてしまう。

 さりとてシャールドンを殺めれば元の世界へ戻った時に強大な後援者パトロンを失ってしまう。


 自分一人が生き残り、勝者特権で彼を蘇らせることも考えたが、色惚け皇帝がそれを喜ぶとは思えなかった。

 なぜ翡翠を蘇らせなかったのだとその場で首をねられるかも知れないし、元の世界へ無事戻れたとしても、悲嘆に暮れ、腑抜けになってしまうかも知れない。

 いずれにせよセキレイにとって愉快なことは何一つ起こらない。 


 シャールドンの生還と自分の生還。

 この二つは両立しないとセキレイは考える。


 結局のところ、どちらかを失うしかない。

 地位カネか、命か。


 セキレイは詰んでいる。








(誰かと思えば)


 闘技場から見て東に位置する古城。

 その傍には無数の葉が浮く沼があり、時折銀色の鱗が見え隠れしている。


 家屋を十は飲み込めるほど大きな沼の岸辺にセキレイは身を伏せていた。


(面倒な奴が……)


 同じく沼の岸辺には空飛ぶ少女、オレンジマスカットの姿があった。

 水草の隙間に身を伏せたセキレイから三十メートルほど離れた場所で彼女は傷ついた羽を休めている。

 意図せぬ形でオレンジマスカットと遭遇したセキレイは身じろぎした。


 迷彩服に金髪、両腕にトンファーというのがこの世界へ来た時のセキレイの姿だった。

 今は違う。

 彼女は金髪を石のナイフでばっさりと切り、ショートボブとなっていた。

 胸から上には頭巾状に加工した迷彩の上着を被り、白いタンクトップを含め、肌の露出した部分は泥と葉に覆われている。

 沼に浸かって女の匂いも落としているし、呼吸を切り詰めているので鳥や虫にすら警戒されていない。

 セキレイは戦うための算段を十分に、万端に整えている最中だった。


 彼女にとっての「戦う」とはドンパチをやることではない。

 シャールドンには勝ち目が無いし、先ほど起きた火災旋風を見るに紅島甲州べにしまこうしゅうも優勝候補だ。

 魔法使いやロボットは言うまでもない。


 だが彼らとて人間だ。

 水無しで何日生きることができるだろう。

 食物無しでは何日だ。

 気の休まる場所が無ければ精神は疲弊し、息は切れる。


 この殺し合いには制限時間が無く、神はいかなる形での援助も約束していない。 

 ゆえにセキレイは長期戦に持ち込むことを考えていた。

 それしか彼女に勝ち筋は無かった。


(……よりにもよって飛ぶ奴か)

 

 沼の浅瀬に佇むオレンジマスカット。

 深緑の髪を濡らした彼女は全身に痛々しい火傷を負っている。


 傷ついているのは肉体だけではない。

 今の彼女からは積極的な戦意を感じなかった。

 おそらくセキレイと同じようにどこかに身を隠し、最後の最後に疲弊した参加者からすべてを掻っ攫おうと企んでいる。

 空飛ぶ彼女が『逃げ』に徹したら誰も追いつくことはできない。


 殺すなら今だ。


(どうするかな……)


 セキレイが持つのは『嗜虐の快力オルゴン』。

 操るのは雷にすら匹敵する紫電。

 その気になれば人間を黒焦げにすることもできる。


 問題は敵の頑丈さが分からないこと。

 それから『嗜虐の快力オルゴン』の出力が安定しないこと。

 サディストでも何でもないセキレイは事務的に『嗜虐』の感情を練り上げるため、シャールドンや甲州のように安定した力を発揮できない。


 仕損じれば決して手の届かない上空からの集中砲火が待っている。

 セキレイは脂汗を浮かべた。


(一撃……一撃でやるしか……)


 その一撃を入れるためにセキレイはただひたすら、待つ。

 一時間。

 二時間。


 オレンジマスカットは浅い睡眠で体力の回復に努めているようだったが、セキレイは不用意に手を出さなかった。

 距離が数十メートル離れていることも問題だったし、泥が濡れていることも問題だった。

 

 次第に日が暮れ始める。


 












 オレンジマスカットが動いたのは夕暮れ時だった。

 彼女の羽は乾き、相棒であるロザリオビアンコも意識の水槽でどうにか息を吹き返している。


『ごめんなさいね、オム』


 穏やかな声音を取り戻したロザは、しかし、まだ痛みを押し殺しているようだ。

 損傷した肉体に留まり続けるオムの激痛には程遠いが、だからといってロザにとって気休めになるわけではない。

 オレンジマスカットは自分だけが痛みを引き受けていることに不満一つ漏らさず、告げる。


「ロザ、これからどうしよう……」


 沼地の泥は彼女の肢体をいやらしく汚していたが、そんなものは飛べばすぐに取れるとオムは考える。

 幸い、彼女達は北の森に清流があることを知っている。

 そこまで飛ぶことができれば身を清めることはいくらでもできる。


『羽、動かせる?』


「うん」


 オムは恐る恐る背中の羽を動かした。

 根元まで焦げの入った羽には激痛が爆ぜた。


「うっ!」


『……しばらくダメみたいね』


 感覚を共有するロザに嘘は通じない。

 とてもではないが、今のオムは空を自在に飛ぶことはできない。

 低空飛行なら可能だが、あの『炎の男』や『銀のゴーレム』に見つかったら一巻の終わりだ。


『仲間が必要かもね』


「仲間……」


『その前に神様を呼んでみてくれる?』


 うん、とオムはその場にちょこんと正座した。

 意図があってのことではなく、身を縮めることで少しでも神に対する敬意を示しているつもりらしいs。


「神様、神様。どうか私の前に姿を……」


 オムは両手を握り、祈る。

 飴色の夕陽に照らされた水面は燃える朝日に照らされた森にも似ていた。

 精霊人の見せる幻想的な光景にセキレイはしばし言葉を失う。


「神様……」


 オムの宗教は大地への、森林への祈りであり、特定の神を信奉する類のものではない。

 だが幸いにして彼女シーはオムの仕草に敬虔さを感じ取った。

 あるいは、恭順を。


『オレンジマスカットさん』


 脳裏で声が響いたその瞬間、オムはぴょんと飛び上がった。

 危うく羽を動かしかけたが、付け根から背中に激痛が爆ぜたためべしゃりと泥地に落ちる。


「神様!」


『代わりなさい』


 オムが応答する間もなく、ロザが表出する。


『あ、あら?』


 彼女シーはいささか困ったような声を上げたが、その実、大して困ってはいなかった。

 彼女の声音に反応し、周囲を警戒するロザの姿を心中密かにほくそ笑んでいる。


(さっきは応えなかったのに今度は応じた……?)


 ロザは神の行動を不審に思う。

 やはりどこかから自分たちを見ているのだろうか、と。


『どうしました? ロザリオビアンコさん』


「ルールについて確認させて」


 正座を解いたロザは痛みに顔を顰め、せめてもの気休めにと沼に足を入れた

 ボロボロの百合のドレスからは白い素肌が覗いている。

 

「私達は何人になるの」


『一人です』


「……それは本当?」


『神が嘘を言うとお思いですか?』


 ロザは神に咎められるのが二度目だと気づく。

 三度目は無いかも知れないと、少々語調を和らげた。


「気を悪くしないでくださる? 認識に誤りがあるといけないからもう一度だけ聞かせて」


『どうぞ』


「私とオレンジマスカット、それに他の誰かが勝ち残った時、勝者は何人として勘定されるの?」


『二人です。こちらこそ認識を誤らせたくないので繰り返しますが、あなたとオレンジマスカットさんは「二人で一人」です』


「……」


 ロザは安堵する。

 

『お話はそれだけですか?』


「え、ええ」


 相手が超自然の存在でなければ会話を引き延ばし、情報を引きずり出すところだ。

 だがロザは慎重だった。

 神が自分たちの声を聞いていることを確かめられただけでも良しとしなければならない。

 声を聴いているからには何らかの感情を抱ているはず。

 自分の不用意な言動でオムを死なせるわけには行かない。


『では私はこれで。ご健闘を』


 神の声はたちどころに消え去り、後には物憂げな顔をしたロザだけが残される。



 突如としてオムが独り言を呟き始めたことにセキレイは驚いていた。

 更に深緑色だった彼女の髪が徐々に青みを帯び、やがて黒紫色へと変じたのだ。

 髪色だけではなく表情からもあどけなさが抜け落ち、怜悧な知性が窺える。


(……。二重人格ってこと……?)


 髪色が変わっても身体の傷は癒えていないようなので、どうやら一つの肉体を二人で共有しているらしい。

 精神が二つあるということは、一つが活動している間、一つが休めるということではないだろうか。

 長期戦になった時、その差が生死を分けるかも知れない。


(空飛ぶだけじゃなくてそんなことまで……!)


 卑怯だ、とセキレイは感じる。

 だが卑怯な人間などありふれている。

 重要なのは自分にとって邪魔だと感じた時、排除できるかどうか。


(……)


 セキレイはなおも息を潜めた。

 全身の泥は乾き、西日を浴びたことで全身が火照っている。

 喉の渇きを我慢できなくなった時はそっと舌を伸ばし、泥水を啜った。

 貧民街で育ったセキレイは泥水を啜ることに慣れている。茶色い方の泥水も、白い方の泥水も。

 

 セキレイは水晶玉の手触りを確かめるようにして惨めな頃の記憶を再生リプレイする。

 ろくでもないことばかりの人生が彼女に与えてくれたものは少ない。


 生存欲求。

 成り上がるための飽くなき闘志。

 尽きることのない幸福への欲望。

 彼女の中では常にそれらが燃えている。







  







 いよいよ夕陽が沈み始める頃になって動きがあった。

 オレンジマスカットに、ではない。

 すぐ傍の茂みに、だ。


「!」

「!?」


 がささ、と藪から顔を出したのは緩やかなローブ姿の少年だった。

 髪は淡い茶色で、顔はげっそりとやつれている。


(あの子は確か……)


 セキレイは思い出す。

 骸骨の戦士を消滅させた子供だ。

 能力は手から妙な玉を出すこと。


「そこに居るのは誰!?」


 ばっと立ち上がったオレンジマスカットは羽を二、三度動かした。

 威嚇の仕草にも見えるが、おそらく飛び立とうとしたのだろう、とセキレイは推測する。


「っ。……っ」


 少年、ガルナチャは両手で頭を抱え、いやいやをするように首を振った。

 彼の姿を認めたオムは怪訝そうな顔をする。

 

「あなたは……」


(! お、ちょっとっ……)


 ぷちゃ、ぷちゃ、ぷちゃ、とぬかるみを踏んで精霊人の少女が近づいてくる。

 まずい、とセキレイは身を固くした。


 擬態には手間をかけているが、あまり近づかれると気づかれてしまう。

 彼女は流木になった気分で息を殺す。


「どうしたの? こんなところで」


「ぁ、ぅぁ」


 少年の挙動は明らかに異常だった。

 目の焦点は合っておらず、どう悪意的に解釈しても可憐としか表現しようのない少女を前に恐怖の表情を浮かべている。

 発せられる言葉は意味を為していない。


 あの子は錯乱しかかっている。

 セキレイはそう判断する。


「大丈夫? 身体中ボロボロじゃない」


 セキレイは気付いた。

 空飛ぶ少女の声が先ほどより甘くなっている。髪の色もいつの間にか黒紫に変わっている。


(入れ替わった……?)


 ロザリオビアンコは少年の目に害意どころか理性すら読み取れないことに気づき、彼を懐柔することにした。

 殺すのではなく、協力者にするのだ。


 協力者は素晴らしい。

 強いなら更に良い。

 無知であれば文句なしだ。

 この子供はおそらくすべての条件を満たしている。


「ほら、もう大丈夫。ね?」


 ロザリオビアンコはわざとらしく身をくねらせ、傷ついた肢体を少年に押し付けた。

 精神の水槽ではオレンジマスカットが抗議の声を上げているが気にしない。


 ガルナチャは柔らかい感触に包まれ、母に甘えていた頃のことを思い出す。


「ぅっ、ぅ、ぅ……」


 じわっと涙が溢れた。

 転移の恐怖。理不尽への恐怖。死への恐怖。苦痛への恐怖。

 粘っこい恐怖がこびりついた精神に少女の温もりが沁みた。

 ぼたぼたと黒い感情が剥がれ落ち、ガルナチャは瞬く間に涙を流し始める。


 数十分も二人はそうしていたが、やがて少年は鼻水を啜って泣き止んだ。

 

「大丈夫? ほら、泣かないで。良い男が台無しよ?」


 ロザリオビアンコは前かがみになり、豊かな胸元を半分ほどさらけ出した。

 数秒そこを凝視した少年が顔を背けると、空飛ぶ少女はふふっと自然な微笑を浮かべる。

 だがそこにセキレイは悪意を感じ取る。


 案の定、次に少年を抱きすくめた時、ロザは必要以上に身体を押し付けていた。

 傷ついた衣服の隙間から濃厚な色香が漂う。

 ガルナチャは前かがみになり、ロザは口の端を持ち上げる。


(子供相手にソレをするの、アンタは)


 他の女はどうなのか知らないが、セキレイは自分の視界の中で女が女の武器を使うことを嫌う。

 女を安売りしているとかいうイデオロギーの問題ではなく、生理的な嫌悪感が先に立つ。

 まして相手は子供だ。


 じきに日は沈む。

 夜になって数時間もすればあの少年は空飛ぶ少女に絡め取られてしまうだろう。

 狡猾な『逃げ』の少女と愚直な『攻め』の少年。

 厄介な組み合わせだ。

 組み合う前に潰すしかない。

 可能なら、二人まとめて。


(一、二……足りるかな)


 セキレイは慎重に距離を測る。

 数時間の『観察日記』の中で彼女はオレンジマスカットが咄嗟に空を飛翔できないことに気づいている。


 咄嗟には空を飛べない。だがいざとなれば空を飛べる。

 彼女はそう考えているはずだ。

 『いざとなれば』空を飛べる、と。


(……)


 セキレイは泥を蹴り、走り出す。

 ただし、三割程度の力で。


 ぺちゃぺちゃと泥を踏む彼女は、はしゃぐ犬ぐらいのスピードで二人に駆け寄る。

 見る見る内に二人との距離が縮んでいく。

 

「!」


 すぐさま空飛ぶ少女が気づき、戦闘体勢に入った。

 今の髪色は深緑。

 ロザの体調を気遣ったオムが飛び出してきたのだ。


「止まって! 止まりなさい!」


 セキレイは止まらない。

 オムは何事かを呟く。

 いざとなれば自分がどうにかする、とでも言われたのだろう。


「うん! ソフトニードル!!」


 両手を掲げ、彼女はオレンジ色の針を飛ばし――――





「『嗜虐の快力オルゴン』」





 途端、切り離しを行った直後のロケットのごとく、セキレイは加速する。

 無邪気な子供の「かけっこ」が、無慈悲なるチーターの「狩りの速度」へ。


 一秒足らずで眼前に迫られたオムは即座にボムを放たんとした。

 だがすぐ傍には子供が居る。

 ブレイズカーネーションを放てば彼も巻き添えになる。

 オムの逡巡は肉体の同居者に伝わった。


『代わり――――なさいっ!』


 ロザが飛び出し、オムが水槽の底へ。

 だが既に遅い。


 セキレイは黒紫の少女に飛びつき、そのままどぶんと沼の中へ。


「!?」


 ロザリオビアンコは『いざとなれば』ボムを使うつもりだった。

 陸上でいくら組み伏せられようと彼女には必殺の『三十一次元殺』がある。

 だから平気だと考えていたところで思考と肉体とが同時に濁った沼の中へ。


「~~~~ッッ!!!」


 鼻腔から流入する水。

 あっという間に消費される肺の酸素。

 息苦しさ。

 溺死の恐怖。

 遠ざかる水面。

 深くなる闇。

 ロザはパニックに陥る。

 

『ロザ!!』


 オムが飛び出す。

 飛び出したところで何も変わらないと彼女は知っている。

 水中ではブレイズカーネーションを使えないと。

 だがボムを使っている間は短時間だが無敵になれる。


 意識の水槽の中へ沈みながら、ロザは思う。

 オムは『いざとなれば』――――







 快力オルゴンを帯びた強靭な二本指が。

 オレンジマスカットの喉に突き刺さっている。 






「!!」


 血煙が水中を漂う。

 オムが感じたのは痛みではなく、呼気と血液の抜けていく喪失感だった。


 沼の中、オレンジマスカットは必死に羽を動かした。

 手足よりも激しくばたつかせ、水の中を飛ぼうとする。


 だがセキレイは十分に備えていた。

 肺にたっぷりの酸素。

 心肺機能を大きく向上させる快力オルゴン

 

(……)


 セキレイは知っている。

 『いざという時』を決めるのは誰かの銃口でも切っ先でもなく己の決意であると。

 死力を尽くすタイミングを決めるのは、自分だ。

 そして空飛ぶ少女はそのタイミングを誤った。


 セキレイの二本指が再び喉の穴を穿ち、フック状になって数グラムの肉を削ぎ落とした。


「~~~っ!!」


 悲鳴と泡が濁り水に溶ける。


「~~~~……! ……。――――……」


 頼みの『ボム』を発動させる間もなく。

 オレンジマスカットは意識の水槽へ沈んだ。




 真っ暗な意識の水槽の中ではロザリオビアンコも白目となり、力なく浮いていた。

 死んだ金魚のように漂う二人の少女を乗せたまま、水槽が真の闇へと沈む。













 セキレイはすぐに沼から這い出すことはない。

 十分に岸から距離を取り、ワニのようにすーっと頭部を覗かせる。


「お、お姉ちゃん……?」


 少年が呆然とした面持ちで水面を見つめていることを確かめ、ざぶりと身を引き上げる。

 この音だけはごまかしようが無い。


「っ!?」


 ガルナチャが振り返り、セキレイを睨む。

 だが彼女は意にも留めない。


「やめなさい。それより――――」


「――――っ」


 ガルナチャが夕焼けの眩しさに手で目を覆った。

 

「!」


 隙あり、と踏み込みかけたところでセキレイは気付く。






 沈む夕陽を直視しているのは自分だ、と。






 ではこの子供が見ているものは、と振り返ったところで目の当たりにする。

 夕陽よりも激しく燃える『ソレ』を。

 

「……! っ」


 業火の魔人、紅島甲州べにしまこうしゅうが悪鬼さながらの表情で二人に迫る。

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