魔法の歌姫 リズメロディ 第44話『あなたは知らない』

○律の部屋(夜)

  机に向かい、勉強している律。机に置いた携帯電話にメールが入ったことに気がつく。携帯電話を手に取ると、液晶画面には「今からそっちに行っていいか?」という響からのメールが表示されている。

  律、椅子から立ち上がりカーテンを開ける。隣の家では、同じようにカーテンを開けた響が律に向かって手を振っていた。律と響、それぞれの部屋の窓を開ける。響、窓から窓へ飛び移り、律の部屋へ入ってくる。

響「いよっと」

  床に着地する響。机に広がっているノートが目に入る。

響「勉強してたのか? 悪いなあ、邪魔しちゃって」

  律、「気にしないで」と言いたげに首を振る。

響「用件だけ伝えたらすぐに帰るからさ。……実は、ねいろちゃんのライブのチケットが取れたんだ。1か月後なんだけど、3月20日。ねいろちゃんの最初で最後のライブだからさ。律も、良かったら一緒にどうかな」

  響の顔が赤い。

  律、複雑な表情の後、机からスケッチブックとペンを取り、何か書いてスケッチブックを見せる。『ごめんね、その日は無理』と書いてある。

響「ああ、そうか。ならいいんだ。誰か友達を誘っていくよ」

  響、残念そう。律、申し訳なさそう。二人の様子を部屋の片隅でビートが見ている。


○律の部屋(夜・ベッド)

  律、パジャマ姿でベッドの中に入り眠ろうとしている。枕元にビートが座っている。

ビート「響は、まだ律が大和やまとねいろだって気がつかないビーね」

律の心の声「それは仕方がないわよ。私と似ているとは前も言ってたけど……5年後の私の姿なんだし、なにより大和ねいろは美しい声が出るんですもの。声が出ない私が魔法で変身しただなんて夢にも思わないでしょ」

ビート「律はそれでいいビー?」

律の心の声「どういう意味?」

ビート「響は大和ねいろのことが好きだビー。でも律のこともきっと大事に思ってくれてるビー。大和ねいろが律だって打ち明けてもいいんじゃないかビー」

  律、ビートと反対側へ体を向ける。

律の心の声「そんなことしたからどうなるっていうの。響はこんな私のこと、障害のあるかわいそうな幼なじみとしか思ってないわよ」

ビート「律……」

律の心の声「ライブの日が、私が大和ねいろでいられる最後の日なんでしょ。がんばって、せめて大和ねいろとして響の心の中に居続けたい。それでじゅうぶん」

ビート「ビー……」

律の心の声「さあ、寝ましょう寝ましょう! 明日も大和ねいろとしてのお仕事あるんだから!」

  律、布団を頭からかぶる。ビート、何も言えずただ律を見つめる。

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