CHANGE!!!! Hinako side(2)
「ありえない、入れ替わりなんてありえない。アニメの見過ぎだ、日菜子。俺は信じないぞ。つまらない冗談はやめるんだ」
「だから! さっきから何度も言ってるでしょう! 物分かりが悪いなあ!」
与謝野に対し、日菜子の姿をした羽後なお美が声を荒げた。そう、彼女は『日菜子』の姿をしているが、間違いなくなお美である。日菜子にはそれがわかる。日菜子自身が、現在は羽後なお美の姿なのだから。
病院の駐車場へ停めた車の中で、三人は堂々巡りの議論をしていた。
階段の踊り場で目覚めた後、程なくして日菜子も自分の体がなお美のものであることに気が付いた。もちろん驚きはしたがパニックに陥らなかったのは、様々なアニメや漫画でよく見る展開だったからかもしれない、と日菜子は思う。
なお美と状況を確認し合った後、二人は与謝野へどう対応するか決めかねていた。階段から落ちた痛みもあり、まずは与謝野の車で病院へと向かった。二人は診察を受ける合間に話し合い、お互いの仕事もある以上、与謝野には状況を説明してみるべきだという結論に達したのだった。幸い二人とも打撲程度で済み、簡単な治療を受けるだけで良かった。そして与謝野の車に乗り込んだところで、日菜子の姿をしたなお美が話を切り出したのである。
「はあ」
運転席に座る与謝野はため息をついた。
「ダメだ、信じられん」
疲れ切っているようである。いつも冷静な与謝野がこんなに困っている様子は初めて見る、と助手席の日菜子は思った。後部座席からなお美が身を乗り出して、
「与謝野さん、今だって思い当たる節があるんじゃないですか? いつもひなこちゃんと一緒にいるんだから、あたしがこうして話している様子を見て、いつものひなこちゃんじゃないって感じないんですか。それに、例えば……そう、与謝野さんからすると、大して親しくもない羽後なお美がごく自然に助手席へ乗り込んだじゃないですか。まるで慣れているみたいに」
そう言われればそうだな、と日菜子は思った。与謝野は前を向いたまま、
「それは……。いや、全て演技かもしれない。二人で打ち合わせる時間は充分にあったはずだ」
動揺したようにも見えるが、まだ納得しない。
「もう、頑固だなあ」
なお美は呆れているようだった。
「すいません……」
思わず、日菜子が謝ってしまった。
「別にひなこちゃんが謝ることじゃないでしょ。そうだ、ひなこちゃんからどうにか証明することはできないの? ひなこちゃんと与謝野さんしか知らないことを話してあげれば、羽後なお美じゃなくてひなこちゃんだって信じるかもしれない。どうですか、与謝野さん」
「まあ、内容によるよ」
なお美の提案に、与謝野はしぶしぶといった感じでうなずいた。
「私と与謝野さんしか知らないこと……」
日菜子は考える。つまり、『羽後なお美が知っているはずがないこと』を話して、自分がなお美ではなく日菜子だと証明するということだ。日菜子自身に関することは、メディアに語っていることも多々ある。それを話しても、与謝野は納得しないだろう。となると、与謝野に関することの方がいいのではないか。
「与謝野さん、耳を貸してください」
「……」
与謝野は無言で体を寄せ、左耳を近づけてきた。日菜子はなお美に聞こえないように、そっと耳打ちする。
「去年のクリスマスイヴ」
与謝野の顔が青ざめるのがわかったが、日菜子は構わず続けた。
「私の家で、家族と咲月ちゃんと一緒にパーティーしてる時に、酔っぱらった状態で突然やってきましたよね。彼女さんに前の日にフラれたとかで『俺にはもうハニハニしかいないんです』って言いながらボロボロ泣いてたって、朝まで与謝野さんに付き合ったパパが言ってました」
「ああ、確かにあんたは日菜子だ! わかった、信じる!」
与謝野が叫んだ。
「……いったい何を話したの?」
日菜子の顔をしたなお美がキョトンとしている様子が目に入ったが、
「秘密です」
日菜子は笑って言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます