勇者づくりの匠

あまね

第1話

 勇者、それは世界滅亡の危機を、神の加護や、正当なる血、はたまた何も分からない一般人だったり、その出自はさまざまである。

 しかし、世界滅亡の危機を幾度ともなく救ってきた勇者、そのルーツの一つともいえる地球の日本という場所では、現在の勇者産業のあおりをくらい、細々と勇者を輩出するしかなくなった神さまと名乗る匠に、取材をすることができた。


 匠の朝は普通だ、奥さんに怒られ、森へと朝の9時にいそいそと向かっていく。


「昔はね、勇者を現地に送っても送っても追いつかなかったんだよ」


 匠が輩出する勇者の初期装備の棒を作成するために、近所の森を捜索しながら、我々にそう語る匠の目には、どこか寂しさが映る。


「いまは、ほら勇者産業っていう政府推奨のものができたからね、皆そっちへ依頼がいくんだ」


 勇者産業、この勇者を売り物にするために、日本政府が乗り出した経済対策の一環は成功している。

 この政策により多くの著名な勇者が輩出され、困っている世界への安定した供給を可能とし、質のいい勇者が潤っており、勇者産業は瞬く間に勇者輩出トップへと躍り出た。


 古来より作っている、神の加護を受けた勇者のなり手というタイプは古いのかなぁとぼやいていく。


 匠の言うように、神の加護の勇者や正統な血を受け継いだ勇者が、激減した理由の一つに、他人の家に入りアイテムを取るという行動が問題視されていた。

 それは、初期装備の問題であるとの指摘もあり、勇者産業はその点を克服し、質の高いアイテムや能力、ある程度の貴金属を用意し、魔王討伐へと向かわせることで、この問題を解決していった。


「そりゃあね、棒切れ一本で冒険へと向かわせる、これは大変な事だと思うよ」


 匠はその事を否定をせず、棒切れに適した棒を一つ、一つ見極めながら、我々の問いに静かに答えてくれる。


「ただ、この棒切れから強力な武器へと変った、成長した、レベルがあがったっていう感覚を忘れちゃいけないと思うんだよ」


 そう、勇者産業の勇者達はどこか、昔の勇者のような温かみはなく、仕事でやっているという感覚があるという報告も少なからず上がってきている。

 匠の排出する勇者には、温かみもあるし、レベルがあがった時の嬉しさは忘れられないという元勇者の笑顔は、今も匠の部屋の写真立てに飾られて匠のモチベーションの一つとなっているという。

 

 勇者とは使命ではなく仕事である。

 

 勇者産業の勇者は、嫌ならば投げ出せるという勇者としてのマイナスが、いずれでてくるのではないかとも匠は語ってくれる。


「そろそろ戻るか」


 3時間歩き、匠の目にかなった木の棒はたった数本であった。

 そして今回特別に匠はその木の棒を我々に触らせてくれた。

 

 触った感触としてはその木の棒を触った途端、あっこれただの木の棒だとしか思えなかった。


「ははは 勇者じゃないと違いはわからんよ」


 匠はそういいながら、勇者が触った時には、この木の棒に対する思いが違うという、不安やこれからの苦労、ただそんなものを凌駕するほどの使命感へと導いてくれるそうだ。


 そういいながら愛おしそうに木の棒をなでていく匠とともに匠の家へと向かった。


 残念ながら勇者輩出の場面は企業秘密との事で、取材することはできなかったが、今回の取材で匠は勇者に対する熱い思いを語ってくれた。

 

「勇者輩出は決してビジネスではなく、使命という事を忘れてしまえば真の勇者を輩出することはできない」


 そう、勇者とはビジネスではない、世界の滅亡を救う使命をおびたかけがえの無い人材である。

しかし助けを求める世界に安定した供給ができる勇者産業もまた、世界を救うという点では間違えてはいないだろう。

  

 そして、やっぱり今時武器が木の棒はないな、と取材した我々の感想を述べて終る。


 



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勇者づくりの匠 あまね @kinomahiru

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