その11
さて、おばあちゃんのパソコン教室もいよいよ終盤に差し掛かり、九月から三か月コースの受講では、年賀状の作成で終わるらしい。プリンターもパソコンと一緒に購入した意味もあったという事だろうか。尤も、年賀状印刷以外だと料理のレシピに使っていたようだが。
教室ではUSBメモリーの使い方を教えてくれたらしい。珍しく?いつもは受講用の映像を見て分からないところを講師に尋ねる、という形式ではなく、さすがに最後はパソコン教室らしい事をせねば、と講師も思ったのか、映像を見せた後で詳しく説明をした後、一人一人のデスクを回ってはUSBの使い方を丁寧に指導をしたのだと言う。
いくら受講料が安い、とはいえあまりにも怠慢な教え方だな、と思っていただけに、やっと最後の最後にまともな授業内容であった事を聞いて、「それなら最初からそうしてくれればいいのに…」と思いながらも、僅かな年金から出している受講料、無駄にならずに良かったと少しほっとした。
が…。
「教室でやった事がうまくいかない」
と、またまたパニック状態で電話が…。師走を前にした十一月下旬の事だ。
日にちに都合をつけて実家へ出張サービスに向かう。そうするとUSBメモリーに入れたファイルを見る事が出来ない、と言うのだ。
もしかしてきちんと入っていないんじゃ…と思い早速開いてみたらきちんとフォルダー名が入っている。『年賀状』と。
どうせ説明したところで「分からん」の一点張りで聞く耳も持たないだろうな、と思いながらも開き方を説明した。
「これ差し込むやろ?そしたら『コンピューター』というところを開いて…」
画面を指さし確認しながら出来るだけカタカナを使わずに説明をする。
「ああもういいねん。とりあえず住所を印刷したいねん」
やはり聞く耳持たずである。分かってはいたが…。
「住所?はがきはもう買ってあるん?」
「買ってある。せやから早よ印刷だけしときたいねん」
「そしたら、まずはがきをプリンター…印刷機に入れておかんと。紙を入れるところにはがきを入れたらその儘印刷できるから」
プリンターのトレイを引き出そうとするとおばあちゃんが慌ててそれを止めた。
「いらんねん。そんなややこしい事せんでもええ」
「は?」
「印刷だけしたらええねん」
「うん…だからはがきに印刷するんやろう?此処に紙の代わりにはがきを入れるだけやから何もややこしい事…」
「ええねん。紙にそのまま印刷するんやから」
紙に印刷…?紙に印刷してどうするんだろうか。
「紙に印刷しても仕方ないで?年賀状作るんやからはがきに直接住所を印刷したらいいやん。そう習ったんやろう?」
「なんか言うてたけどややこしいから知らんねん。紙に印刷しといたら後ではがきに住所を書くからそれでええねん」
「え?…紙に印刷した住所をはがきに手書きで書くん?」
「その方が間違いがないから」
なんという面倒な事をするのだろうかこの人は。第一、住所を入れる時に使ったものがあるだろうに…。
「住所禄は何を見て作ったん?」
「ああ!そうや!!それを見て住所書いたらええんやった。いつもそうしてるのにパソコン教室なんかでややこしい事言うからすっかり忘れてたわ。ほなら、住所録見て書くから印刷せんでええわ」
事の顛末はこうである。
住所は住所録を見て手書き。だが一つ画期的な事があった。それはパソコンに予め入っていたソフトを使って、干支の絵だの挨拶だのを印刷したのだ。…年賀状はがきに。
それなら住所もプリントすればいいのに…おばあちゃんにとっては住所を印刷、という事はかなり難易度の高い事だったらしいが、ソフトを印刷する事はそれより難易度の低いものだったようだ。
確かに、郵便番号などはずれる事もあるし、年賀状というものは年始早々に相手様が受け取るものだから出来るだけ粗相はしたくないものだ。その気持ちはわかる。
そうして年賀状は、なんとかプリンターを利用して作成される事になった。
わかった事
『はがきに直接住所を印刷しようとすると、確認画面ではきちんと郵便番号が収まっていても実際に刷ってみるとずれまくっている事があるから気を付けろ』
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