その5

 今回、おばあちゃんがパソコンを購入するにあたって、おじいちゃんもまた妙ちくりんな期待感を抱いていた。

「パソコンさえあれば、旅行や観光の詳しいことが現地へ行かんでも予約、確認などが出来るんやろう?それ以外にも色々なことが出来て便利そうや。おばあちゃんがパソコン教室へ通うなら、ちょっと教えてもらえばいい」

 おじいちゃんは、おばあちゃんより機械に強いから、わざわざおばあちゃんの様にパソコン教室へ行かなくても、ちょっと教えてもらえば簡単に操作が出来る、と思ったのだろう。

 だがそれは到底無理な話だ。

 おじいちゃんは、おばあちゃんより輪を掛けて人の話を聞かない性分だ。凡そのおじいちゃんという生き物は、歳を重ねる毎に、特に家族の話を聞かない人が多いと思うけれど、うちのおじいちゃんは今に始まった事ではなく、昔から『人の話を聞かない大魔王』なのだ。おじいちゃんになってから『人の話を聞かなくなった』というような昨日、今日そうなった人とは年期の入り方がまるで違う。『人の話を聞かない』についてはエキスパートである。

 そんな『聞かない』人が簡単にパソコンなんぞ扱えると思ったら大間違いである。だいたい、パソコンは家電ではない。

 パソコンはパソコンという全く別のものだとまずは認識しておかれるといいかもしれない。

 例えば、炊飯器はボタンひとつでご飯を炊く。

 電子レンジなら加熱時間を設定してボタンを押せば食事をあたためてくれる。

 トースターは予め自分の好みの焼き加減、或いはおすすめ設定などでおいしいトーストが焼ける。

 テレビは電源を入れてチャンネルさえ合わせればいい。音量も手元のリモコンで調節可能。番組表だって見られちゃう。

 家電とは、それぞれ目的に添った仕事をしてくれるので、目的に合った家電の使い方をすれば便利なものだ。

 しかしパソコンは違う。

 パソコンは電源を入れて電源を切るまでは常にこちらから動作を指示しなくてはならないのだ。

 例えばインターネットを開く。これひとつでも、

「インターネットを開きますよ~」

と指示が必要になる。その為には、指令に使う印(E字をぐるりと囲んでいる様なマーク)があって、それをポインター(矢印マーク)で起してあげる(クリックという)必要があるのだ。

と、思わず『誰でもわかる、初めてのインターネット講座』みたいな文章になってしまった。まあ、おばあちゃんもこんな感じで説明してあげないと分からないのだ。それでも完全には理解出来ないだろう。八割がた、が関の山か。

 そんな訳で、おじいちゃんは恐らくテレビでも見る感覚でパソコンを操作できると思っているのかもしれないが、そんな簡単な操作で済むのであれば専門学校も、ましてや初心者を対象にしたパソコン教室などいらないのだ。説明書ひとつで十分である。

 パソコンを全く知らない者がパソコン初心者に教えてもらうなど、初めて海外へ行って言葉も話せない人が、片言しか話せない海外旅行の初心者に有名な観光地を案内してもらうようなものである。

 このように書けばどれほど無謀な事かお分かり頂けるだろうか。今後、おばあちゃんだけではなく、おじいちゃんからもあれこれヒステリックな電話がかかってくるかも、と思うと憂鬱になってきた。


わかったこと。

『パソコンは家電にあらず。初心者が初心者に教えられるほど簡単ではない。出来れば、ご夫婦揃ってパソコン教室に通われる事をお勧めする。その方がきっと二人分スキルアップできる上、お互い競争心や共感などが生まれて刺激になるだろう』


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