その3

8/15(月)

 昼過ぎののんびりしたひととき、また私の携帯が鳴る。

「光電話をやめたいねん。なんか親子電話も、FAX機能も今まで使ってきたものが使えなくなるんやて。それは困るから今の電話にしておきたいっておじいちゃんが…」

 そういえば、今日は光回線工事の方へ連絡をしなければならない日だった事を思い出した。 

 おばあちゃんの電話の内容だけではよく分からない部分もあったので、担当の人に話を聞いてみた。担当の人の話はこうだった。

「電話を光回線にすると、アナログ回線専用の機器ですと利用出来なくなってしまいますね」

 親子電話というのは、親機、子機という分割した電話ではなく、我が家の場合だと一階、二階に電話機が備えてあり、電話がかかってきた時や何か連絡事がある場合、家の中で内線で繋ぐ事が出来る、というものだ。

「FAXやインターホンも電話に接続されておられるようですし、そうなると光は対応出来ませんので、どうしてもそれらを利用されたい、という事でしたら、光回線の工事終了後に再び電話回線をアナログに戻す工事が必要になってきます。アナログ回線の工事費はお客様負担になります」

 そこまで聞いて、漸くおばあちゃんが電話で言っていた意味が理解出来た。

 要は、うちの様に一戸建てでアナログ回線を利用している家庭では、それらすべてを一度破棄して光回線を新たに敷く。その際、アナログ回線で利用していた通信機器は光に対応していなければ使えない、という事だ。

 なんと不便なんだろう。本当の便利さ、というものは旧式のものも変わらずに使用できてこそ、だと思うのだが、そういえば新しいものが生れると旧式のタイプは使えない、という事が当たり前になっているような気がする。これは本当に『便利』なの?ふとそんな疑問が頭をよぎった。

 ……あ、まだNTTの人と電話中だった。よそ事に耽っている場合ではない。携帯電話代は高いのだ……

「FAXについては、ここ最近滅多に使う事はないです。伺ったお話のように再度アナログ回線の工事や、それに伴う金額を知ればわざわざ使わないFAXの為だけにアナログに戻す、という事はしないと思います。インターホンも光に対応していないから使えない、という事ですよね?」

「そうなりますね。何分、お宅の通信機器はかなり古いものをお使いのようですし…」

 ……古くて悪かったな。案外あれが使い勝手がええねん!まさかこれまで使っていた通信機器が使えなくなるなんて私も今回初めて知ったわ……

「電話機は使えるのでしょうか?」

「電話機は使えますよ。インターホンやFAXは買い替える必要がありますね」

 電話は古いままでいいのに、それに繋げている通信機器は新しく替えろ、という意味が最後まで理解出来なかった。

「ひとまず光回線を通さなければインターネットも使えませんから、工事に伺います」

 そう最後に締めくくる担当者。その頃になると私も心が折れそうになっており適当に相槌を打って電話を切った。

 とにもかくにもNTTの光契約は必須条件である。インターネットだけ利用したいなら電話やテレビを断らなくてはならないのだが、光電話だと月々の基本料金がアナログ回線よりも格段に安価となる為、一度は光電話にしようという事になったのだが、まさかこれまで使っていた危機が使えなくなる、とは…。

 さて、この使えなくなるFAXだが、最後まで「使えないと困る」と渋っていたのはおじいちゃんだった。といっても、頻繁に使っていた訳ではない。一年に一度か二度、どうしても送らなければならない書類があってそれに利用しているに過ぎなかった。FAXが無ければ郵送で送ればいいだけの話なのだ。

 だからFAXを使わないおばあちゃんにとっては、光電話に変えて月々の基本料金が安価となる方が都合がいい。彼女にとっては何ら不便を生じないのだから。まあ、インターホンが使えなくなる事を除けば…だが。

 そんな中、おじいちゃんは突如変わる通信システムに戸惑っていた。おじいちゃんの言い分はこうだ。

「親子電話は一階にいても二階にいても、電話やインターホンに応対できる。それに、一階から二階に内線で用事などを伝えることができるし、外線も繋げられる。それが光になったら出来なくなる上に、インターホンは自分で新しいのを買えと言う。新しいインターホンを買ったとしても取り付け工事をしてらわなあかんのに!不便になるわ無駄な出費はかさむわ…そんなあほな事が出来るか!!」

「んじゃFAXは?」

「それはもういらん。それも買い替えなあかんらしいからな。アナログに戻すのはどれだけ掛かるのか知らんが…」

「アナログに戻す費用は8000円。或いは条件によって値段が違うらしいけど、最低それだけは掛かるらしいわ」

 通信機器の買い替えや、それに伴う工事費がかかると計算していたおじいちゃんは8000円という費用に然程痛いとは思わないらしい。

「それでええならそうする」

 と、あっさりアナログ回線を選んだのだ。

 結果的にいえば、光回線でインターネットのみ利用で電話はいらない、という結論に至った。後日、ミドリ電化へその旨連絡を入れた。

「…畏まりました。ですが、一度は光電話を敷いてもらい、光テレビも繋いでもらわないと契約違反となりますから、割引価格の対象外となってしまいます。出来れば、一度工事をさせて頂いた後、お客様の方でアナログ回線に戻して頂けるといいのですが…」

「申し訳ございません。何分購入者がお年寄りなので再々工事、となると面倒だ、という事でして…差額はお支払しますから」

「まあ…本来であれば、光電話やひかりテレビ、インターネット等、光回線のプラン全てご契約戴かないと『割安価格』が無効になる所ですが、インターネットは当社がお勧めするプロバイダーとNTT光さんを利用して頂く、という事ですし、今回は初めてのパソコンをご購入と言う事で追加料金は5000円のお支払のみとさせて頂きます」

「本当に申し訳ございません。では後日お支払に向かわせますので、よろしくお願い致します」

「光電話の回線はアナログのままにしておくように、当店から手配を致しますが、お客様からも工事担当へその旨ご一報お願い致します」

 再度丁寧にお願いをして電話を切った。

 本来ならこういう電話や交渉は、購入者であるおばあちゃんがしなくてはならない。本人が電話をしているのではない、という所で更に手間と時間が掛かってしまった。


  <わかったこと>

 『光電話だと料金は安くなるが、従来のアナログ回線で使用していた通信機器が使えなくなり、買い替えなければいけない。』

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