その2

「買うんじゃなかった……」

 口にこそ出した訳ではないが、まだパソコンを開封もする前からおばあちゃんの顔には、『後悔』の文字がくっきりはっきりと浮き彫りになっている。が、もう購入してしまったものは仕方がないのだ。

 帰宅してもパソコンの包みを見ようともしない。ずっと開封しないまま、という訳にもいかず、私と深那堵で開封をした。

 開封後、セットアップは私がやったのだが、それを見て更に後悔の表情を浮かべるおばあちゃん。だが、セットアップが終わると早速、

「インターネットを見たい」

 というおばあちゃん。

 プロバイダーとNTTの光回線工事はまだ先の手配になるので、本来ならまだネット環境が整えられていない。しかしこのパソコンにはこう赤字でキャッチコピーが記されてあった。

「買ったその日かららくらくインターネット!」

 なんとこのパソコンには、ワイマックス受信機が搭載されており、NTTの工事完了までの間は、このワイマックスでインターネットを楽しめる、というのだ。これも割引価格の条件で契約しているから利用可能なのである。一ヶ月間無料でサービスを受けられる。  

 しかしワイマックスは選択肢には入っていない。割引価格の条件はNTT契約縛りとなるからだ。当然の事ながらワイマックスの無料期間中に解約の電話を入れなくてはいけない。不思議な事に、ワイマックスも一旦契約させられるのだ。NTT限定なのに。因みに月々のお値段はワイマックスの方が安い。 

 常識的に考えれば、いくら割引価格の条件とはいえ、NTT一社の契約が必須であるにも関わらず二つのネットワークに契約をさせて、ワイマックスの方に解約手続きの連絡を入れさせるというのもおかしな話だが、恐らくその辺りが家電店とプロバイダーや通信会社さんとの金儲け事情も絡んでいるのだろう。

 双方、いや三方にとっても世知辛い世の中、なんとか互いに取り込んで利益還元を狙わないとやっていけないのだろうなあ。本当に大変だ。

 大変じゃないのは、そんな汗水の結晶である税金で肥やしを膨らませている悪巧み顔のお役人の皆さまくらいだ。だからああいう奴らの腹はぽっこり狸の様に出ているのだ。いや、既に彼らは狸になっているのかもしれない。そんな事はさておき…。

 流石は夏モデル。最新である。ワイマックス搭載というのは素晴らしい。なんといってもインターネットにすぐ繋がる。有線LANを引いている私のパソ子さんのようにあれこれ余計な線もないのにすぐに繋がる、という事がなんとも羨ましいではないか!

「すごい!私も今度プロバイダーを変える時にはワイマックスにしよう!!」

 と思った。

 ただ、私のパソ子にはワイマックス受信機なんて便利なものが搭載されていないので、従来のようにルーターを入手する必要があるのだが、それでも無線LANというものが私にとっては画期的で都会的でお洒落でイケてるのだ。。

 そんな『羨ましい』ブツでも、おばあちゃんにとってはただの「お荷物』のようだ。インターネットにすぐ繋がるという便利さを目の当たりにしておきながら、

「せやけどこれ、NTTちゃうからどうせ解約せんとあかんのやろ?それやったら始めから付けへんかったらよかったのに」

 ……いや、私が付けたんちゃうから……

「それも始めから付いてあるから安い値段なんやんか」

「安い安いって、あんたずっと言うてるけど四万もしたんやで?こんな小さい電化製品で四万も」

「いや…その赤札の上に正規の値段が記載してあったやん。正規だと7万円台なんやで?それにしたって勉強してくれてる方やで?」

 おばあちゃん、パソコンが欲しいと言ってた割に、相場というものを把握していなかった様子。新聞をとっているのだから、毎週のように入るチラシくらい目を通しておけばよかったのになあ。

 それでもなんとか、ネットを見る環境も整ったので、ふと

「ところで、電源の入れ方と切り方はわかってる?」

 と聞いたところ、

「そんなん、電源を押したらええんやろ?」

 と、ケロっとした返事が返ってきたのだ。

 思わず無言で暫く唸った私。

 ……まさかと思っていたが知らんかったか。しかし、パソコン教室で最初に教えてもらうと思うんやが…

「パソコン教室で教えてくれへんの?」

 深那堵も隣でそうだ、という顔をおばあちゃんに向けている。

「パソコン教室は来週からやねん」

「え?教室が始まってないのにパソコン買ったん?」

 思わず二人で声を揃えてしまった。

「だって練習用がいるやろ?」

 パソコン教室へ通う事は決定していたらしいが、まだ講習が始まっていないらしい。体験入学で通う事を決め、そうなると練習用のパソコンが必要だろう、という事で今回の購入に至ったわけである。

 私と深那堵の心の中で、また別の不安が過った。

 ……パソコン教室のOSと、買ったOSが違ってたらどうするんやろう……?

 と。

 かくして、私(時々、深那堵も)とおばあちゃんのパソコン戦争の火ぶたが切ってて落された!


 わかったこと

 『パソコン購入は、パソコン教室である程度勉強してから教室で使っているパソコンの種類を先生に聞き、同じもの、或いは先生の勧めるものを購入するのが一番よい』


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