核融合女子高生

 鉄のサンドイッチ、それは伝説上の喫茶店が嫌がらせで作ったとされる代物。だれも実在を信じなかった……渋谷で、女子高生が、路上で、さりげなく、それをかじりながら! ウィンドウショッピングしているのが目撃されるまでは! 考古学者はこの歴史的スクープを激写しようと一眼レフをばしばし光らせたが、自称善良な市民たちは盗撮魔と勘違い、考古学者を私刑に処し体中をナイフで刺しまくった挙げ句、騒ぎに気づいた女子高生はサンドイッチを核融合させた! その鉄は水素から核融合して鉄まで進んだ、いわば星の成長の姿! サンドイッチは星だったのだ! 当然、その瞬間渋谷は消滅! すべては炎に包まれたのだった……109以外! 109は来るべき戦争にそなえて完全冷房完備なので外が燃えてもとっても涼しい! だから女子高生はサンドイッチをかじりながら100万ドルの夜景(破滅)を窓からウィンドウショッピングする……

 「ああ、奇麗! 沢山の命がみんな、地球より重い命が、みんな! この窓の外で、みんな死んでいくのね! ああ、美しい!」そのとき窓に血の手形が! 「許さん……この恨み、わすれじか……」それからだ。炎に焼かれた自称善良な市民たちと、女子高生たちの果てしない争いの歴史が起こったのは。

 ここまでは考古学者は教科書で読んだ! 世界を滅ぼした炎から数千年経ったいまや、我々考古学者はあの過去に学ぶため、いまこそ発掘によって真実を知らねばならぬのである! そして今掘ってるのは、女子校だったところの部分である! 

 「ここに……古代に存在したという、『女子高生』が!」

 「それは、あの伝説の!」助手が興奮する。「存在自体が犯罪という、呪われた、あの!」考古学者と助手は地層を掘りまくったが、出るのは骸骨ばかりでしだいにトーンダウン、いったい犯罪はどこに埋まってるんだ! 誰か犯罪を! 犯罪を探してください! 罪の根源を、罪とは何かを掘り当てさせてください! その瞬間、考古学者はツルハシの手元が狂い、助手の頭蓋骨を爆砕した。「助手!」考古学者はツルハシを放り投げて彼を抱きかかえたがもう手遅れだった、助手の頭蓋骨のぶち割れたところから彼の想像上の女子高生が何人も溢れ出し、笑ったり、踊ったり、なんかポーズをとったり、うっとりしたりしながら舞っていた。

 「いいんです、先生……ぼくは幸せです。犯罪がなんなのか、分かった気がします……」

 「まさか君は、わざと……!!」だが考古学者は認めなかった。助手の頭から溢れ出た女子高生たちというのは、考古学者の想像していた女子高生とはぜんぜんちがっていたからだ。女子高生っていうのは、もっとこう、鉄のサンドイッチを食うんだからアゴが発達していて、核融合に耐えるんだから皮膚がぶあつくて、剛毛に全身が覆われていて! 筋肉量も現代の人間の20倍はあるとおもう! 犯罪内容は絶対に殺人だから、気性がものすごく荒くて、知能はゴリラ並みで、攻撃的だ! なのに、助手の奴! 何考えてるんだよ! それでも学者のタマゴかよ! くそっ、死ねよ! 死ね、死ね死ね死ね!! 考古学者は息も絶え絶えの助手にツルハシを何度も振り下ろし、とどめを刺した。その拍子に、地層が崩れ、中から非常に保存状態のいいミイラが突き出てきたのである。「これが、女子高生か!!」考古学者はそれを持ち帰り、ニュー渋谷の109に飾り、無辜の市民にウィンドウショッピングさせた。市民は驚嘆と困惑の眼差しでそれを見た。「これが、伝説上の生き物『女子高生』?」「まるで女みたいだ……」「本当にゴリラ並みに強かったの?」「ぜひとも生きてる状態を見てみたいものだ……」だがその夜、女子高生のいたウィンドウは割られ、彼女はこつ然とすがたを消してしまったので、考古学者は窃盗だと怒り狂い、1時間以内に帰ってこない場合は鉄サンドイッチでふたたび渋谷を焼き払う、と宣言した。これには自称善良な市民も、もはや善良ではいられない。身を守るために暴徒そのものと化し、考古学者の立てこもる109を包囲、爆弾をぽいぽい投げる。だが考古学者の用意は周到、仮想の女子高生遺伝子を持つ生物つまりゴリラを何十匹も放っていたのだった。「人間はゴリラに勝てない! つまり人間は女子高生に勝てないんだ!」考古学者は笑う。「さあ、一時間経ったぞ! ゴリラごと、町も人間も、再び滅ぶがいい!」そして鉄サンドイッチは炸裂、すべては炎に包まれた。

 そして考古学者は思い出した。

 この炎の記憶を。

 あの火、救いを求めてガラスに手をつけたことを。

 その向こうで、罪のように美しい、ひとりの女の子がサンドイッチを食べていて

 自分はただ焼かれていったこと。

 そうだ

 これが罪だったのか

 どんな想像も及ばない

 原子が引き合い結ばれていく

 この灼熱の反応の中で

 懺悔する

 ただ懺悔する

 そしてなにもかも燃え尽きた

 あとかたもなく。


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