エピローグ
その後。
私はあの日以来、再び学校へ行かなくなった。
カナpやかおるんとの連絡も絶った。
ただ誰にも会いたくなかった。放って置いて欲しかった。それだけだ。
私はいつものようにパソコンを開き、常連のサイトにアクセスする。
その時、隣に置いてあるスマホの画面が光った。誰かから着信があったようだ。
手に取ると、母からだった。
『 to 音華
最近、学校に行ってないみたいだけど、何かあった?お母さんならいつでも相談に乗るよ。1人暮らしが辛かったら、お母さん達の所にいつでもおいで。
from 母』
母さんのところまで私が不登校な事が伝わっているのか…。もう、いっその事母達の元へ戻ってしまおうか。編入するべきなのだろうか。私は、母にこう返信した。
『 to お母さん
ありがとう。お言葉に甘えて、お母さん達の所に遊びに行こうかな。
from 音華』
すると、すぐに返信が来た。
「早っ…。『ウェルカム‼︎』って…」
文面から伝わってくる、この喜びよう。寂しかったのだろうか。
私はこの週末に母達の元へ行く事にした。
土曜日
私は1泊分の荷物を持って電車に乗った。目の前には、楽しそうに会話をするカップルがいる。つい、前の私とソラを重ねてしまい、鼻がツンとした。私は瞬きを繰り返しながら下を向いた。涙なんて零すわけにはいかない。その一心で。
駅を出ると、父が車で迎えに来てくれていた。
「音華…元気にしてたか?さ、母さん待ってるから。早く帰ろう。」
父は私の背中にそっと手を添えて乗車を促した。私は小さく頷き、助手席に乗った。
「母さんな、音華が1人暮らし始めてから毎日同じこと言ってたんだぞ。『音華、大丈夫かなぁ。ちゃんと食べてるかなぁ』って。」
父はハンドルを握りながら話した。
「…そっか。心配してくれてたんだ。」
「当たり前だ。親なんだから。」
「親って、大変?」
「なんだ、急に。」
「ねぇ、お父さんとお母さんの恋バナ聞きたい!」
「ははっ恥ずかしいなぁ…」
父は照れ臭そうに笑った。私は、いいじゃん、と少し甘えた口調で言ってみると、ポツリポツリと話し始めた。
恋バナが終わるとすぐに家に着いた。
玄関を開けると、母は駆け寄ってきては私をぎゅっと抱き締めた。
「おかえり。」
その温もりが、私の心の傷によく効いた。私は、ただいま、と言って目を閉じた。
「今お茶いれるからね。」
母は嬉しそうに笑ってキッチンに向かって行った。
父は、母にお使いを頼まれ、直ぐに姿を消してしまった。
…あ。
「このぬいぐるみ、ずっと有るよね。ボロボロなのに…。何で?」
昔からずっと気になっていた。白い狼のぬいぐるみ。どこか、ソラと雰囲気が似ている。
「音華なら、わかるんじゃない?」
「…え?」
それって…。もしかして…
「信じてもらえないかもしれないけど、聞いてくれる?」
私は、ソラの事を全て母に話すことにした。
母は、私の話を聞き、静かに頷いた。
私も貴女と同じ年頃に同じような体験をした、そう言って、母も体験談をポツリ、ポツリと話し始めた。
「でもね音華、貴女にはまだ未来があるの。1つや2つ、辛い事があったって、乗り越えなきゃいけない。ソラとのことは、『綺麗な思い出』として胸の中にしまっておきなさい。」
母がそう言った瞬間、父が帰って来た。
「私、頑張るね。」
これが、今の私の精一杯の言葉だった。
夜に目覚めると。 水楢 葉那 @peloni
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