観覧車

デート当日。私とソラはいつもより早めに起きた。いや、起きてしまったと言うべきかもしれない。

2人は朝食を摂り、支度を済ませた。

手を取り合い、駅へと向かう間、私達はずっと笑っていた。照れ隠しも有ったが、何より楽しかったのだ。

一駅行った所に、大きなショッピングセンターがあり、そこで買い物をしたり、昼食を摂ったりした。気付けばもう夕暮れ時で、足早に駅に向かった。

観覧車のゴンドラに乗る頃には、空は真っ赤に染まっていた。

「綺麗だね…」

「うん。」

私達はその美しさに見惚れ、息を呑んだ。

「音華…。」

「ん?」

名前を呼ばれ、ソラの方を見ると、彼は顔を赤くしていた。いや、夕暮れのせいかもしれない。

彼はいつの間にか私の隣に座り、そっと私を腕の中に閉じ込めた。

「音華、今日…ありがとう。楽しかった。」

「ううん。私こそ、ありがとう。」

彼の体温は、いつもより温かく感じた。

ああ、ソラと出会えて良かった。ずっと、ずっと一緒にいたい…

気付けば、私とソラは互いの唇を重ねていた。

彼の優しさは、いつも私に安らぎを与えてくれる。このまま、永遠に2人でいたい…

「音華…。」

ソラは私の両肩にそっと手を添えて言った。

「俺と…結婚して下さい。」

……は⁉︎今、なんと…?

「ちょっと、待って、私、高校生だし、16だけど、まだ…」

私は言葉を濁そうと努力したが、ソラには効果が無いようだ。

「…そっか。」

そうつぶやいて彼は俯いた。

その横顔は、胸が締め付けられるようなくらい哀しげなものだった。


それから、私達は終始無言でいた。

観覧車を降りてからも、電車の中でも、住宅街の細道でも。

家に着いてからもソラは哀しげな表情でいた。私は何と声を掛けるべきか分からず、夜になってからも無音の世界だった。

ついさっきまで盛り上がっていたのに。ピークを過ぎたら地上まで戻ってしまう。そんなところは観覧車そっくりだ。

時計の針が午後の12時をさす頃、私は思い切って声を絞り出した。

「…ソラ、私、もう…寝るね。」

「…あぁ、うん。…おやすみ。」

「…おやすみ。」



これが、最後の会話となった。

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