同居からの“同棲”

その日の夜、私はソラの同じ布団に寝た。私がソラに「添い寝して欲しい」と頼んだからだ。ソラと正式な付き合いが出来ると思うと、嬉しくて仕方がなかった。そこから発展して、何故か「添い寝」に辿り着いた。

ソラとの添い寝は、いつもよりベッドが狭く、ソラの体温がいつも以上によく伝わってきた。

ソラの胸に顔を埋めると、彼の鼓動と呼吸のリズムが良く聞こえてくる。

背中に添えられた彼の大きな手は、何処か懐かしいような感覚になり、「守られている」と感じられた。

ああ、体が熱い。添い寝を頼んだはいいものの、眠れない。

「ソラ…」

私は小声で彼の名を呼んだ。しかし、彼の反応はなかった。

寝てしまっているのだろうか。少し残念なような気もしたが、私は黙って目を閉じた。


「…寝たのかよ。」

音華がすっかり眠ってしまってから、ソラは目を開けた。あまりにも音華の鼓動が速いから、ソラは寝たふりをしていたのだ。

彼は音華の頬に軽くキスをした。しかし、起きている時のような反応は無く、ただ気持ち良さそうに眠っているだけだった。

彼は静かに笑い、目を閉じた。




次の日、私は5時に起きた。

久しぶりにぐっすり眠れたので、いつものような不機嫌な朝ではなかった。

自分の分とソラの分の朝食が作り、制服に着替える。ソラを起こし、共に朝食を食べ、身支度を終えた。

「…学校、行くんだ。」

「うん。ソラの言う通りかなって思って。お金も時間も、もったいないし。」

「そっか。気を付けてね。」

ソラは笑顔で私にそう言った。今までとは違う、爽やかな朝にこの笑顔は最高に嬉しい。

「うん。いってきます」

私は笑顔で答えて扉を開けた。


朝の爽やかな風に吹かれながら階段を降りると、稔が立っていた。

私は黙って会釈し、立ち去ろうとすると声を掛けられた。

「昨日の事だけど、あれ、彼女じゃねーから。」

「そうですか。私は何も聞いてませんけどね?」

冷やかにそう答え、かおるんとカナpの待ついつもの場所へ向かった。

稔はまだ何か言いたげにその場に立ち尽くしていた。


「おはよう」

待ち合わせ場所にいたかおるんに声をかけると、彼女は大袈裟な程勢い良く振り返った。

「おと…!おはよう!」

かおるんは笑顔でそう答えて言った。

「珍しいね。おとが2日連続で時間通りに登校するなんて。」

「これからは毎日そうしますよ。ちゃんと授業だって受けるつもり。」

「うお。マジかっ!」

突然カナpの声がして振り返ると、彼女が目を丸くして立っていた。

「カナp、足!ガニ股になってるよ!」

「…おと、何かあったの?」

カナpは足を閉じてから静かに聞いた。

「何かって程でもないけどね…」

「わかった!あの、えっと、ソラ(?)さんに何か言われたのか!」

「かおるん流石だね…推理力半端ない…。昨日、2人が帰った後、説得されたの。それで『確かに、もったいないな』って」

「流石、彼氏の言う事は乙女の心に響くのね…」

カナpはうんうんと頷きながら言った。

「あ、そうそう。私ね、正式にソラと付き合う事にしたの。」

私がそう言うと、2人は一瞬黙ったまま私の顔を見つめ、叫び始めた。

「おめでとおおおお‼︎」

「え?付き合ってなかったの?」

「私達の中で一番じゃない?彼氏できたの!」

「リア充かよおおおお‼︎」

2人の声が合わさると、公害レベルの音量だ。

「落ち着いて⁉︎うるさいよ2人共‼︎」

私の声掛けに、2人は黙ったが、目がまだ何かを訴えている。

「で?ファーストキスはいつ?」

「いやいや、カナp、もうこの人達関係持つ前からチューしてるから!」

「あ、そっかぁーー‼︎」

大袈裟に2人は笑っているが、私自身は笑えなかった。だって、恥ずかしいから。


登校すると、教室にはがいた。私の姿を見ると、ヒソヒソと何かを話し始めた。

私は黙って自分の席に着き、かおるんやカナpとお喋りを始めた。



事件が起きたのは、昼休みに入ったばかりのことだった。

「雨宮サンって、彼氏いるらしいよ〜」

「へぇ〜あんなのでも彼氏できるんだ〜」

「雨宮サンが勘違いしてるだけじゃない?その彼に騙されてるとか」

「散々貢いで、捨てられるやつ?」

「ウケる〜」

のメンバーが口々に「ヤバい」だの「笑える」だの言って笑っていた。

なぜ…?私とソラが付き合っている事はかおるんとカナpにしか話してないし、その2人が言いふらすなんて考えられない。


「でも、その彼氏って誰なの?」

「えー知らなーい。つーか興味なーい。どうせブスでしょ。」


ソラのこと何も知らないくせに。


「私が聞いた話ではイケメンらしいよ。しかも同棲してるらしいよ。」

「うわー。その彼氏絶対詐欺師だって〜」


なんで知ってるの?同棲してるって事も、ソラがイケメンだって事も…

私は黙って教室を出た。そして、向かった先は非常階段。私は非常階段の踊り場の手すりにつかまり、その場にズルズルとしゃがみ込んだ。

どうして?どうして?

私は手で顔を覆い隠し、目を瞑った。


ソラの存在を知っているのは、かおるんとカナp、それから佐久間。

最初の2人はよく喋るが、他人に人の恋愛事情を言いふらすような事はしない。だとしたら、佐久間しか言いふらす奴はいない。私は佐久間が他人に私達のことを言いふらしているのを想像した。だんだんと腹が立ってきて私はすっと立ち上がった。

とにかく、お昼ご飯を食べよう。

あの2人に相談するのはその後だ。

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