不思議

音華の家を後にしたかおるかなでは、黙っていつもの道を歩いていた。

『ねぇ…』

2人の声が重なった。

「いや…そっちからどうぞ…」

「え…いや…」

譲り合いが始まったが、奏が話を切り出した。

「あの、ソラって人に会って気になったことがあって…」

「あ。私も思った。」

『コン太に似てる』

再び2人の声が重なった。

「やっぱ、変だよね…」

薫は溜息混じりに言った。その言葉に奏も頷いた。

「つーかさ、私も、かおるんも、おとも、それぞれイケメンの定義が違うのに凄いよね。全員『イケメンだ』なんて言うって…」

「確かに…。なんか、私達もそうだったけど、おとの様子、あんなの見るの初めてじゃない?夢心地っていうか…」

『女の目をしてた。』

またもや声が重なった。2人は互いの顔を見つめ、溜息をついた。

「…まぁ、おとが幸せならいいか。私達もいい出会いがあると良いけどね〜」

「カナpはほぼ肉食系だから、逃げられるんじゃない?」

「なにそれ、酷〜い!そんな事言ったら、かおるんだって、初恋ダメダメだったじゃん!いつまで経ってもモジモジしてるから相手が…」

「やーめーてー‼︎もう忘れさせて!…私と、カナpと、半分ずつ性質分け合いたいよね…」

「ねぇ…」


「あ。じゃあここで。また明日ね。」

「うん。明日、おと来るかな?」

「…今日来たから来ないんじゃない?いつもそうじゃん…毎日来て欲しいのにね…」

「ね。じゃあね…」

「うん。」

薫と奏は、それぞれの家に帰った。






私が目を覚ましたのは、夕方の6時頃。

かおるんとカナpが帰ったのが3時過ぎだったので、約3時間眠っていたのだろう。部屋にはソラの姿はなく、不思議に思っていたが、部屋の鍵をかけていた事に気が付いた。

さっきはソラに当たってしまった。きっと彼は怒っているだろう。いや、彼の事だから、悲しんでいるかもしれない。

どうしよう。どういう顔してソラに謝ればいいの?

私は音を立てないように鍵を開け、そっとドアを開いた。

ほんの数センチの隙間からはソラの姿は見当たらず、リビングの電気は点けっぱなしだった。

そっとドアをさらに開き、部屋から一歩踏み出すと、急に横からソラが飛びついてきた。

「わっ‼︎…そ、ソラ⁉︎」

私は驚いて身動きがとれなかった。いや、ソラの力が強かったからかもしれない。

「ごめん…音華…音華の気持ちも知らずに勝手な事言って…」

ソラは震えた声で言った。

「違う…ソラは謝るような事なんてなにも言ってない。謝るのは私の方だよ。ごめんね…八つ当たりしちゃってごめん…」

私はソラをぎゅっと抱き締めた。

その時、ふと思った。

「あの夢」に似てる…?

濃い霧に包まれた私を抱きしめてくれたソラの夢。あの夢と同じような感覚だ。

それじゃあ、夢でソラが言っていた「先代からの夢」って…?

「音華…」

ソラの声に我に返ると、ソラは突然こんな質問をしてきた。

「音華は、俺のことどう思ってるの?」

「え…?」

なんでそんな質問をするのだろう。どう答えれば良いの?嘘をついても良いの?

「ど、どうしたのソラ?急に…」

「誤魔化さないで。ちゃんと答えて。」

ハッキリとしたその口調に圧倒されるように私は答えた。

「嫌いじゃ、ないよ…?」

「ぼやかさないでよ。」

そう言ってソラは密着していた私の体を引きはがした。彼は向き直り、私の両肩に手を置いて続けた。

「俺、ちゃんと音華の気持ちを分かりたいんだ。音華の事を傷付けたくないし…」

やめてよ。そんな顔しないでよ。反則だよ。そんな、私を見ているようで見ていないような…物悲しい目…

言っても良いのかな?言ったら、距離が出来たりしないかな?

私は思い切って声を出した。

「私はっ!私は、ソラのこと、好きだよ。」

「えっ…」

ああ、やっぱり引かれてる。言わなきゃ良かった。

「…良かった。」

ソラの声に弾かれたように私は顔を上げた。

「俺も、音華の事、好きだよ。」

「え…?」

ソラの顔は少しばかり赤く染まり、私の頬に伸ばしたその手には、いつも以上に熱があった。

「…俺、音華の本物の彼氏になって良いかな?」

その言葉に、胸がざわめいた。

くすぐられているような感覚と、ぎゅっと締め付けられるような感覚と…

私は無意識に首を縦に振っていた。

すると、ソラは笑顔で言った。

「良かった。改めて、よろしくね、『音華ちゃん』」

そしてソラは、私の心臓が止まりそうになる程の、甘いキスをした。

それから、ソラは私を固く抱きしめた。


その時、ソラの笑顔に何処か影の笑みがあるような気がした。

いや、きっと、気のせいだろう。

何よりも、今はとても幸せだから…

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