こんにちは。
次の日、私は久しぶりに授業に出た。
少しでも、ソラへの気持ちを紛らわしたかったから。
「おと!」
不意に名前を呼ばれて声のする方を見ると、教室のドアからカナpとかおるんが手招きしている。
どうやら、いつの間にか昼休みになっていたようだ。
私が席を立つと、教室のどこからか声が聞こえてきた。
「雨宮、なんで今日に限って授業出てんだろ。マジ来んなよ」
「ねぇ〜、中退してほしいわ〜」
その2人分の声は、わざと音華に聞こえるように放たれ、教室のざわめきの中に消えた。
私はその声のする方を見ると、派手目なメイクをしている少し背伸びをしたような女子グループがこちらを冷やかな目で見ていた。
ーまたか。毎回毎回「今日に限って」って言ってるじゃん。他に無いのかよー
私はそう考えながらゆっくりと一人一人の顔を見てから背を向けた。
かおるんとカナpのもとに辿り着くと、カナpが私の耳元で囁いた。
「カンジ悪いね。気にしなくていいよ。あんな奴ら」
その言葉に私は頷き「気にしてないよ」と笑いかけた。カナpは一瞬心配そうに私を見つめてから笑い返した。
そう、これはいつもの事。不愉快だが、気にすることはない。カナpとかおるんという強い味方がいるのだから。
3人は屋上のいつもの場所に向かって歩いた。
いつもの場所というのは、屋上にある立ち入り禁止スペースのことで、そこは本来、「危ないから」という理由で封鎖されているのだが、実際危険ではない。かおるんの話によると、昔ここで事件が起きたらしい。それによって封鎖されたという話だ。
そこは封鎖されているおかげで人も来ないし、秘密話にはもってこいの場だ。
日当たりは決して良くはないが、じめっとしているわけではない。
そこはもう、3人の秘密基地へと化していた。
「そうだ。あの件、どうなった?」
カナpが私に話しかけてきてハッとした。
「何が?」
「お向かいの『覗き魔』のこと!」
「あぁ…相変わらず、覗いてきてますね…。おかげで、ずっとカーテン閉めっぱなしだよ。」
「いつかカビ生えるな。」
カナpは声のトーンを下げて言った。
「やめてよぉ!引っ越したばっかなのにカビは酷い!」
「カビの威力は凄いからね…」
とかおるんが恐ろしげに言う。
「それな。」
とカナpは笑う。
「カビル○ル○が襲ってくる…」
かおるんは本当に襲ってきそうな勢いで私の方に向かってきた。
「いやぁ〜!カビ生える!私にカビ生える!来るなぁ!」
と騒いでいると、扉が開く音がした。
その音に私達はビクッと肩を震わせ、声を押し殺した。
立ち入り禁止スペースに生徒が入っているのが教師にバレたら大変だから。
そして、扉が閉まる音と同時に聞き覚えのある声が聞こえた。
「あーもしもし?リナちゃん?……うんうん」
「この声…佐久間じゃない?」
かおるんが声をひそめて言った。
確かに、この声はそうだ。「リナちゃん」とは一体誰なのかはわからなかったが、佐久間と親しいのは彼の声のトーンでわかる。
「リナちゃんって…誰。」
と横でカナpが呟いた。
「カノジョ…とか?」
「あー。チャラ男あるあるか。『何人もカノジョがいる』っていう…」
「…あるあるか。」
3人は声を抑えながらこの状況について話した。その時だった。
「今屋上にいるからさぁ〜。…うん、立ち入り禁止スペースあるじゃん。…そこで待ってるから。」
と佐久間が言ったのだ。そして間もなく、彼はスペースに入ってきた。3人は硬直したままその場に座っていた。
そして、彼が私達3人を見つけた時、あっと声を上げた。
「…何でここに居るんだよ?」
その言葉にカナpは反論した。
「それ、こっちのセリフだから。何?ここでカノジョと…」
そこでかおるんがカナpの口を塞いだ。
「どうぞ、ごゆっくり〜私達は退散いたしますので。」
とかおるんは笑顔で言った。目は明らかに笑っていなかったのだが。
そしてかおるんは私達を連れて屋上から出た。その時、私は黙って佐久間の方に目をやった。一瞬目が合い、何か言いたげにしていたが、かおるんに腕を引かれるままにその場を後にした。
そして次にたどり着いた先は、非常階段の踊り場だった。ここは第2のお気に入りスペース。
そこでカナpは口を開いた。
「何あいつ⁉︎可笑しいんじゃないの?第一、あそこは私達という先客が居たのよ⁉︎追い出されるわ、私達の清き場が汚されるわ…」
「それちょっと言い過ぎ。」
かおるんはカナpの言葉を遮るように冷え切った声で言った。
「…仕方ない。おと!」
カナpは急に明るい声で私に言った。
「今からおとの家に行こう!」
ー音華宅ー
「おっじゃまっしまーす♪」
「お邪魔しまーす」
「ただいま〜ソラ〜?」
カナpはヤケにテンションが高く、かおるんはその隣で引いている様子だった。私が声をかけると、奥の部屋からソラが出てきた。
その瞬間、かおるんとカナpが固まった。
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