お引越し

次の土日で、私の1人暮らしが始まる。私は、荷物をまとめていた。すると、後ろから声がした。

「音華、引っ越し先はお隣さんとかいるのかな?」

その声の主はソラという少年。金髪で美しい容姿だ。

「右隣には人がいた気がする。でも、どういう人かは知らない」

「そっか〜。1人暮らしってワクワクするね」

「ソラがワクワクしてどうするの!それは私のセリフよ。」

私とソラは話しながら荷物をまとめた。

2人がかりだと、仕事が早い。なんと1日で終わったのだ。

私とソラは目を合わせると、ハイタッチをした。

「お世話になります」という意味で。


それから一週間後、引っ越しの時がやってきた。

ソラはぬいぐるみの姿だが、表情がどこか笑っているように見える。

引っ越しがだいたい済むと、私はお隣を訪ねた。

ドキドキしながらチャイムを鳴らす。しかし反応がない。もう一度チャイムを鳴らす。やはり反応がない。留守なのか?私が帰ろうとすると、ドアが開いた。

「…どなた?なんか用ですか?」

聞き覚えのある声だ。私が振り返ると、クラスメイトの男子、えーと、名前は…佐久間稔さくまみのるだ。クラスの中では、ちょっと地味目な眼鏡男子だが、彼が眼鏡をとると結構イケてるのと、学校の外では結構チャラチャラしているのを私は知っている。

「…あれ。なんで雨宮がここに居るんだ?もしかして、越してきたお隣さんて、雨宮だったの⁉︎」

「そう。あ、これ…」

私は稔に小包を渡した。

「おお、サンキュ」

稔は小包を受け取って、しばらく私の顔をじっと見つめた。私なんか悪い事したかな?

「お前さ、学校でなんであんなに厄介者にされてるの?お前さ、俺が見てる限りではいい奴だと思うんだけど…」

いい奴…?私が…?

「知らない。あ。私、まだ荷ほどき済ませてないから、帰る。」

私が立ち去ろうとした時、稔が言った。

「今度、お前の作った料理食わせて」

私は彼に背を向けたまま手を振った。

そして、勢いよく自分の部屋に入った。ああ、足がガクガクする…。最近、いつもいつも、私はなんでこんなにも異性に嬉しい言葉をかけられるんだろう…。

私がドアにもたれて荒い息づかいをしていると、ソラがやって来た。

「どうしたの?お隣さん、いた?」

「いたも何も、クラスメイトで、しかも男子…」

私がそう言うと、一瞬ソラは眉を寄せたが、すぐに笑顔に変わった。

「そっか。さ、音華、早く荷ほどき済ませよう」

「うん」

私はソラの言葉にうなずき、作業を始めた。しかし、私は彼が気になってしまってあまり作業が進まなかった。「今度、お前の作った料理食わせて」なんて、そんなの…。

「音華?」

ソラの声にハッとした。

「隣が気になる?」

私は、ソラのその言葉に驚いた。

「なんで、私が隣の心配しなきゃならないの?」

私が聞くと、ソラは私に近づき、私の頭を自分の胸へと寄せて言った。

「音華、さっきからずっと上の空じゃん。お隣さんに何か言われたの?」

私はドキッとした。

「な、何にもないよ。本当に、何も…」

私の声はだんだんと出なくなり、小さくなった。ソラは私の身に起きたことを見透かしているのだろうか。

「我慢しなくていいからね。言ったでしょ、俺には甘えて良いって。」

「…ありがと。でも、大丈夫だから。全然、悩みとかそう言うのじゃない。ただね、嬉しかったの。ソラと同じように、私を否定しない人が居てくれたから。」

私が笑うと、ソラは少し寂しげに笑って私の髪を撫でた。


その後、何とか片付けを夜までに7割程終わらせて、眠りについた。

その夜、また夢を見た。


私はまた霧の中にいて、そこで立っているだけ。ただボーッとしていた。

すると、突然後ろからゆっくり手が伸びてきた。私はそれに動じることもなく、ただボーッとしている。

その手がゆっくりと私を包み込むと、後ろからソラの声がした。

「ずっとずっと探してた。やっと夢が叶う。先代からの夢が叶う。絶対に離さない。音華は絶対に…。……。」

最後の言葉が全く聞き取れない。

夢…?何それ?ソラ…?何を言ってるの…?


そこで私は目が覚めた。

窓から月光が溢れ、部屋が青白く照らされている。

私はゆっくりと起き上がった。

見ると、ソラが私の足元に座っていた。

「どうしたの?ソラ」

私が聞くと、ソラは何も答えずに私に近づいた。2人の距離はどんどん縮まっていき、終いには、ソラの顔は私の顔のスレスレの場所まできた。私はどうしていいかわからず、固まっていた。

ソラ、寝ぼけてるのかな。

すると、ソラはゆっくりと手を伸ばし、私の頬に触れた。そして目をつぶると、強引に、しかし優しく甘いキスをした。

なんでだろう…。なんで嫌じゃないんだろう…。なんでこんなにもソラが愛おしいんだろう…。ん?愛おしい…?

私が疑問を抱き始めると、ソラはそれを感じ取ったかのように、キスはさらに甘くなった。

息が続かなくなって離れても、ソラはすぐに唇を押し付け、私の口の中に舌をぐいぐいと押し込み、私の舌に絡みつく。

私は自分の体が心とともに熱くなるのを感じた。

そして私はソラからゆっくりと離れた。

「ソラ…?」

私が声をかけると同時にソラはパタッと倒れてしまった。

「…え?」

ちょっと、ちょっと、それはないでしょ。

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