学生編

出会い

ー音華目線ー




あぁ、ウザい。

中学の頃からか、大人が皆嫌いになった。

親も、そばに居るだけでムカつく。

無事高校に入学出来たのは奇跡だとか周りの大人は言う。

確かに私は大人の前では勉強する素振りを見せて来なかった。

でも、誰も知らないところで私は勉強していた。


私の何も知らないくせに偉そうに踏ん反り返っている大人が、本当に嫌い。


私は、いつの間にか、お気に入りのぬいぐるみにむかってグチるのが日課になっていた。

お気に入りのぬいぐるみとは、キツネのぬいぐるみで、私が小さい頃、お父さんが買ってくれたやつで、お母さんは、私がそのぬいぐるみを大事にしている様子を見て、笑ってるんだかよくわからない表情でいた。

小学生の頃だっただろうか、私は、そのぬいぐるみに名前をつけた。

ーコン太ー

中学の時、その名前に違和感を感じて「ソラ」と改名した。


「ソラ…。なんで大人は偉そうにしてられるの?バカバカしくないのかなぁ?」

私はそんなようなことをソラにむかって言って、ソラに顔を埋る。

その時が1番落ち着く。

ソラが人間だったら良いのに…。

小さい頃からそう思っていた。


そんな時、真夜中に目が覚めた。

なんとなく横を見ると、月光に照らされ、1人の少年がすやすやと寝ていた。

「…!」

私は飛び起きた。

すると少年は目を覚まして言った。

「あぁ、音華…起きたの?朝?」

何言ってんだこいつ。

「誰。」

「え⁉︎ソラだよ!」

ソラと名乗るその少年は、実に美しい姿をしていた。

サラサラとした美しい金髪。

ビー玉のような透き通った青い瞳。

程よく焼けた肌。

長い手足。

バランスよくついた筋肉。

街中を歩いていたら、誰もが振り返りそうなくらい美しい。

目をそらしても、吸い付けられるようにまた少年を見てしまう。

「音華…?どうしたの?」

そう言って少年はベッドから身を乗り出した。

…⁉︎

少年は全裸だった。

だからか。だから腹筋とかが見えたんだ。

うわ。こんなに近くで男子の裸見るなんて初めてだからどういう顔したら良いかわからない。

「…音華。服貸して…。寒い。」

そう言って少年は私に抱きついてきた。

頭がクラクラしてきた。

私は少年を突き飛ばした。

「何?あんたマジでなんなの?どうやって私の部屋に入ってきたの?」

「だから、ソラだよ。信じられないかもしれないけど、ソラなんだよ。音華、ちっちゃい時から『ソラが人間だったらなぁ』とか言ってたじゃん。現実になったんだよ?嬉しくないの?」

「変な嘘で誤魔化さないで!普通、女子の部屋に勝手に入ってきた上に全裸とか、ありえないし!変態!」

私は少年に枕を投げつけた。

次の瞬間、私はぎょっとした。

ー男が泣いてるー

正直、引いた。

「ひどいよ…音華…。俺のこと…嫌いになっちゃった?」

何こいつっ…!

「…あのさ…。今時そんな、ぬいぐるみが人間に化けるとか、嘘だってことバレるに決まってるじゃん。嘘つくならもっとマシなもんにしな。」

「だから‼︎俺は嘘なんてついてないよ‼︎」

そう言って少年は私の両肩を掴んだ。

ーすごい力ー

「…信じられないのも仕方ないかもしれない。でも、俺は音華に悪いことはしないよ‼︎」

「…っ!わかった!わかったから、離して…」

「…あ。ごめん。」

そう言って少年は手を離した。

「…服…だよね。これ着て…。」

私は、少年に服を渡した。

間違えて買ったワンサイズ大きいシャツと、あまり履かないジャージの短パン。

少年には丁度いいようだ。

「…あのさ。例え、あんたがソラだとしても…なんでこういう状況になったワケ?」

「んー。」

少年は少し考えてから答えた。

「音華と、人間として友達になりたかったから!」

少年の目はキラキラと輝き、澄んでいる。

「あ、そう。」

私はそのまま寝ようとすると、少年は私の顔の横に手を置いて言った。

「…音華。おやすみ。」

そして、次の瞬間には、頬に柔らかいものが触れた。

顔が熱くなる。

「音華?…。顔赤くしちゃって、可愛い」

少年は私の顔を見てクスッと笑った。

ああ、今私はきっとマヌケな顔をしているだろう。

「おやすみ。」

少年はそう言うと、ぬいぐるみの姿になった。

私は驚いたが、睡魔に負けて、すぐに眠ってしまった。


私は、夢を見た。


「音華…音華…音華…」

誰かがずっと私の名前を呼び続けている。

誰?私を呼んでいるのは誰?

私は、辺りを見渡して声の主を探す。

でも、辺りは濃い霧に包まれていて、身動きできない。

誰か…!

私は手を伸ばし、霧の向こうを探る。

その時、誰かにその手を握られた感触がした。

「音華…」

姿を現したのは、人間の姿のソラだった。

「ずっと探してた。俺と音華は…なん…だ…。だから…」

え?何?なんて言ったの?

私が聞き返そうとすると、フッと少年の姿が消えた。

「待って!待って!」


「待って…!」

あ。夢だ。

思わず溜息がこぼれた。


その日、私は夢でソラが言っていたことが気になって、学校でも上の空だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る