成人編
あれから。
咲夜と付き合い始めて5年が経った。
私達は同じ大学に入り、キャンパスライフを楽しんでいた。
相変わらず、咲夜はモテるのに、私を置いていくどころか、とても大切にしてくれている。
あの事件から、私は男性恐怖症っぽくなってしまい、隣にいても平気なのは咲夜だけだった。
最近、咲夜と「同居しよう」という話になっていて、近々引っ越す予定なのだ。
私は、休日を利用して荷物の整理をすることにした。
小、中、高の卒業アルバムを見つけたり、懐かしい本を見つけたりして、その日はあまり作業がはかどらなかった。
そういえば、シルク…あれから人間の姿になってないな…。
私は、シルクを抱き上げ、軽くキスをした。
その日の夜、目が覚めた。
ここ最近、夜中に目覚めることはなかったのに…。
私は、少し重たい体を起こして台所で夜食を食べた。
「こんなの久しぶりだなぁ。受験生の時はよくやってたっけ。」
私はボソッと独り言を言った。
すると、後ろから声がした。
「俺がこの姿になるのも久しぶりだよな。あれ以来。」
懐かしい声。
振り向くと、シルクが立っていた。
ぬいぐるみではない、人間の姿で。
「シルク…?」
シルクは、前よりも少し背が伸びた気がする。声も少し低くなり、顔つきも少し変わった。
でも、真っ白な髪と肌、青い目は変わっていない。
「久しぶり。紗雪」
シルクは私の手を取り、手の甲にキスをした。
シルクの手の温もりも、あの時と変わっていない。
「シルク…どうして…?」
「紗雪が、大好きだから。我慢できなくなっちゃった。」
そう言って、シルクは私に甘いキスをした。
昔と違って、とろけるようなキスで、全身の力が抜けてしまいそうになる。
シルクは、そんな私を支えながらも、まだ甘いキスを止めない。
体に力が入らないから拒めない。いや、拒みたくない…?
唇が離れたと思うと、シルクは私を抱き上げ、ベッドに向かった。
「ちょっ…!何するの⁉︎」
私が聞くと、シルクは答えずに私をベッドに下ろした。
「シルク…?」
「紗雪…。俺だって、男だよ?それわかってるの?」
「…どういうこと…?」
「男の前でも、いつもそんな格好してんのかよ?」
私は、キャミソールとショートパンツという今の服装を改めて見ると、確かに露出は多い。それに、結構お胸が見える。太ももだって…。
「でも、これは家の中でしか…。」
「じゃあ、今度咲夜と一緒に住み始めても、その格好なのかよ?」
「それは…」
私が言いかけたところで、シルクに押し倒された。
「そんな格好してたら、襲わずにはいられないのが男だぞ。」
そう言ってシルクは、またキスをした。
さっきよりも、甘くて、気絶しそうになる。
シルクの手がキャミソールの中をくぐってくる。
私はシルクを突き放そうとしたが、逆に引き寄せられた。
「…ゃ…ぃやぁっっ‼︎」
私はさっきよりも強くシルクを突き飛ばした。
涙が出てくる。
「…あなた本当にシルク…?」
私は泣きながら言った。
「久しぶりだったから…つい…。ごめん。」
そう言ってシルクはうつむいた。
私は、布団を深くかぶって寝た。
次の日の朝。
今日は咲夜が手伝いに来てくれた。
「ごめんね、わざわざ…。」
「いいの。てか紗雪、昨日ちゃんと寝てないだろ。なんかあったか?」
「え⁉︎私、そんな変な顔してる?」
気づかれたか…。
「いや、クマできてる。」
そう。私は昨日の夜、あの後眠れなかったのだ。クマができても仕方がないだろう。
私と咲夜は、黙々と作業を進めた。
午後6時頃には、ほとんど片付いた。
「紗雪、食べに行かない?」
「…?うん。いいよ?」
「じゃあ着替えて。お洒落して行こう」
「え?ファストフードじゃないの?」
「うん。お洒落な店見つけたんだ。お疲れさん会しよ。」
「えー何それー」
そう言って私と咲夜は笑った。
咲夜に連れられ、向かった先は、背の高いビルの最上階にあるレストラン。
大きな窓からは綺麗な夜景が見える。
この感じだと「あるあるパターン」で考えると…!
いやいや。ないでしょ。それは無い。
「紗雪、メニュー決めた?」
咲夜の声にハッとした。
「あ、うん。」
豪華な料理が次々とテーブルにやって来ては、私の頬が溶けて落ちそうになる。
幸せだ。
最後の皿が下げられ、デザートと一緒にワインを楽しんでいると、咲夜がそわそわし始めた。
どうしたんだろ…
「あ、あの!さ、紗雪さん‼︎」
ん…⁉︎まさかの…
「もし、宜しければ、僕と結婚して下さい‼︎」
え…。えええええええええええ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎
咲夜はポケットから指輪を取りだした。
「え、あの…。へ⁉︎」
「僕と結婚して下さい‼︎」
今日はなんて素晴らしい日なんだ。
「こ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」
そう言って私は咲夜から指輪を受け取った。
店を出てから、咲夜は私の手をぎゅっと握って言った。
「俺…家に帰りたくないなぁ…」
「え?何中学生みたいなこと言ってんの⁉︎私も咲夜も1人暮らしじゃない」
「それでも帰りたくないし、帰らせたくない。」
「何がした…い…。あ!そういうこと⁉︎」
私がそう言うと、咲夜は私の顔を見て笑った。
「やっぱり鈍感だね。紗雪。」
その後、咲夜はタクシーを呼んで2人でホテルに向かった。
「紗雪…。大丈夫?」
私は咲夜の声で我に返った。
あの事件のことを思い出してしまっていたのだ。
「ううん。大丈夫。へーきへーき。」
「そっか。よかった」
毎回そうだ。こういう事をするとき、毎回あの事件を思い出してしまって、少し怖くなる。
初めての時だって、怖くなってすぐやめてしまって、咲夜には申し訳ない事をした。
でも、さすがにもう慣れてきた。
今日はそんなに怖くない。
私は、自分の全てを咲夜に委ねた。
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