奇跡は起きると信じる。
バランスを崩し、倒れ込むように路地に入った私は、何が起きたのかを理解しきれずに転んでしまった。
「カモ、ゲット〜」
男の人の声が頭上から聞こえてきた。ふ、と顔を上げると、知らない男達がいた。どうやら、私の後ろを歩いていた奴もグルだったようだ。
「ねえ、俺たちさ、今お金必要なんだよね…。お姉ちゃんさ、貸してくれない?」
カツアゲだ。まさか、私が被害に遭うとは…!
「い…嫌です。」
「は?ごめーん。聞こえなかった。…もっかい言って?」
リーダーらしき人物が私に詰め寄り、壁際へと追い詰める。
「わ…私…、お金なんて持ってないです…‼︎」
言った。言ってやったぞ。そう思ったが、彼らは中々しぶとかった。
「じゃあ、ケータイでもいいや。…ほら、早く。」
どうしても渡したく無い。私がそうやっていつまでも俯いていると、リーダーの後ろにいる奴らが、拳をパキパキと鳴らし始めた。
…もうダメだ。でも渡したく無い。
「早く出せっつってんだよっ‼︎」
ヒュッと音を立てて、こちらへ拳が飛んでくるのが、目をつむっていてもわかった。グッと唇を噛んでいると、鈍い音が響いた。殴られたのは、私では無かった。
「咲夜…!」
彼は私を庇ってくれたのだと、一瞬で気づく。
「何だよ、てめー。邪魔すんじゃねーっ‼︎」
手下達が咲夜に襲いかかる。しかし、彼はそれをかわしていき、一発で獲物を仕留めてしまった。
それを見た他の連中は、それにビビって去っていった。
咲夜の強さに驚いていると、突然滝のように涙が零れ落ち始めた。
「紗雪…。怖かったな…。もう安心だから…。もう大丈夫だから…」
そう言って咲夜は優しく私を包んだ。
涙が止まらない。
安心感と、緊張という名の糸が切れたことと、生々しい恐怖感と…。
「咲夜…っ‼︎」
私は咲夜の胸元に顔を埋め、泣いた。
咲夜は、私の涙が枯れるまでずっと頭を撫で、抱きしめていてくれた。
「…ごめん。ありがとう…もう平気」
私は涙が枯れ、顔を上げた。
「…無理すんなよ?」
少し顔を赤くして咲夜は優しく笑った。
「咲夜…どうして私の居場所がわかったの?」
私が聞くと、咲夜は私の頭を自分の方に寄せて抱きしめ、こう話した。
俺が部活が終わって、帰ろうとしたら、ある女の子に声をかけられた。
紗雪と一緒に帰ろうと思って、待たすと悪いから、手短に、と伝えた。
その女の子は、ストレートに、好き、と俺に言った。
俺はもちろん断った。
さっさと帰ろうとすると、女の子は俺の腕を掴んで、なんで?と俺に問いかけてきた。
俺は、あまりにもしつこいから、好きな人がいる。と答えた。本当はいいたくなかったんだけど。
ほんの数分だったんだけど、玄関に紗雪の姿はなかった。
俺は、先に帰ったのかと思った。
でも、いつものバス停にもいない。
で、たまたまここを通りかかったら、誰かカツアゲされてるから…。
それを聞いた私は、我慢が限界に達して、
「咲夜…返事…だけど…。OKで。」
と言って咲夜にキスした。
咲夜は驚いていたが、私が離れると、次は咲夜からキスしてきた。
「めっちゃ嬉しい。ありがとう」
咲夜からのプレゼントは、濃厚で、甘くて、チョコレートみたいに溶けそうだった。
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