なんとかしてほしい。

夜、暑さで目が覚めた。

同じ布団にシルクが寝ているからか余計暑い。

私は台所で水分補給をしていると、後ろから声がした。

「紗雪ちゃん」

シルクではない声。

振り返ると、少し色黒な女の子がいた。

その子は、私が最初にシルクを見たときと一緒で裸だった。

女の子なのに全裸は可哀想すぎる。

「服、貸す?」

私がそう聞くと、恥ずかしそうに女の子は頷いた。

女の子が服を着ている間に、私はシルクが寝ているかを確認した。

着替え終わった時、私は女の子に話しかけた。

「えっと…貴女は…?」

「ピリカだよ」

ピリカとは、茶色いクマのぬいぐるみだ。手のひらにハートの刺繍がしてあって、目がクリクリした可愛い子だ。

人間の姿になっても可愛い。

「あの、ピリカ、さっき、シルクが『俺以外は人間になれない』って言ってたんだけど…」

「あぁ、シルクったらデタラメ言ったのね。ヒドイわ。私達だって人間になろうと思えばなれるのに。」

ピリカは溜息をついた。

「多分、私達が人間の姿になれること知らなかったんじゃないかな?」

私とピリカは、ジュースを飲みながら、その他にもたくさん喋った。

2時頃だろうか。

シルクがフラ〜っと出てきて

「あ、起きてたんだ。寝ないの?」

と言った。

私達は、ハッとして寝床に戻った。


朝。アラームが部屋中に鳴り響いて目が覚めた。

重い。身体が重すぎて起き上がれない。

瞼さえも開けられない。

つーか、唇に何か触れてるような…?

いや、唇だけじゃない。上からのしかかられているのか?

ゆっくりと目を開けると、目の前にシルクの顔があった。

「○×%$〆☆€#〒*‼︎‼︎‼︎」

私は思わず、言葉ではない何かを叫び、

シルクを突き飛ばしてしまった。

「いってー…。紗雪ぃ今のは酷すぎでしょ…?今めっちゃいい夢見てたのに…」

シルクは溜息混じりで言った。

「ごめん…。って‼︎シルクが私に謝ってよ‼︎」

「なんで?」

シルクは澄んだ目で私を見つめた。

「なんでって…。さっき私にキスしてたでしょ!人が寝てる時にそういう事するの止めてくれる⁉︎」

「え…?ああ、ごめん…。」

シルクは最初、頭の上に「?」が浮かんでいたが、すぐに「!」に変わり、少しにやけながら私に謝った。

ワケがわからん。

私は、時間が迫っていることに気づき、慌てて家を出た。



学校に行く途中のバスの中で、咲夜に会った。

一瞬、目が合ったが、私は慌てて目を逸らした。

だって、顔が熱いから。

だって、昨日は咲夜にあんなコト言われるとは思ってもいなかったから。

私が知らん顔してバスを降りると、咲夜が近寄って来た。

「何逃げようとしてるの?」

後ろから耳元で囁かれて驚いた。

昨日のあのセリフを言った時と同じ、甘くて、溶けそうな声だったから。

「…逃げてないよ」

私は、静かに言った。

でも、その言葉は微かに震えていた。

きっと、咲夜は私が動揺しているのを見破ってる。

ああ、恥ずかしい。

「なんか用?」

平然を装って咲夜の目を見て話しかけた。

「別に…」

咲夜は顔を赤くして目を逸らした。

「ただ…。話したかっただけ…。」

咲夜って、結構可愛い。

そう思ったのは私だけ?

なんだか気まずくなって、沈黙が続いた。

そのまま教室まで2人で歩いた。

別に2人できた事で周りは珍しそうに見たり、からかったりしなかった。

毎日2人で来てるから…。


昼間は、いつも通りに過ごした。

咲夜は取り巻きに囲まれっぱなしで、私も友達と笑っていた。


夕方、部活が終わって帰ろうとした時、告白現場を見てしまった。

告白しているコは同じテニス部の学校内だけでなく、学校外でも評判の後輩。

告白されている方は咲夜だった。

…モテるのになんで私を選んだんだろう。

そんな事を思って、現場を後にした。

私は独りで帰り道を歩いていると、後ろから走る音が聞こえた。だんだんと近づいて来る。

少女マンガの世界だったら、きっとこれは咲夜だろう。

私は目を閉じて待っていると、建物と建物との間にある細道から突然腕を引かれた。

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