ハラハラ、ドキドキ。

ベッドの上に押し倒された。

変な事すんなって言ったのに…。

私は怖くなってぎゅっと目を閉じた。

「紗雪…?怖がらなくても良いよ?」

いや。怖いよ。だって…

「俺は紗雪が期待しているようなことはしないから。」

ん?

私はゆっくりと目を開けた。

「私、何も期待なんかしてないよ?」

「え?そうなの?てっきり期待しているのかと思ってた。」

ばかっ…‼︎

顔が熱くなる。

その時、チャイムが鳴った。

出ようとすると、シルクは私のことをしっかりと抱きしめた。

いや、ただ抱きしめたというより、私に覆いかぶさるように抱きしめた。身動きできない。

郵便物を受け取ることさえも許してくれないらしい。

「シルクは独占欲が強いね。」

私がボソッとつぶやくと、シルクはからかうように笑って言った。

「そうだよ。俺は独占欲が強いから、今日1日紗雪を離さない。」

そして、私の首元に顔をうずめた。

首元にシルクの息がかかる。

さらに顔が熱くなるのを感じ、私はシルクを突き放した。

シルクは私に押されるままに離れた。

「つまんないの。」

シルクはそう言って、私の横に座った。


もう何されるかわかんない。

そう思って、ベッドから離れた。

テレビをつけると、バラエティか何かで、街中を取材して歩いているようだった。

テーマは『好きなひとができたら?』

私だったらなんて答えるだろう。

好きな人が出来たことが無いから答えられないよなぁ。

「まず告白します!当たって砕ける!」

とか?

「木の陰から静かに見守ってます」

とか?

色々考えていると、突然、聞き慣れた声が聞こえた気がしてみると、テレビの画面の中には、顔は映されていなかったが、咲夜らしき人物が。

思わず、見入ってしまった。

その人物はこんな事を言っていた。

「僕の好きな人は、幼なじみで、小学校からずっと一緒なんです。初恋で…」

これに興味を持ったのか、インタビュアーが質問を続ける。

『今までずっとその人のことを好きなんですか?』

「はい。初恋を今まで引っ張ってきているんです。重たくて仕方がないですよ」

『その人との距離感は?』

「結構、近いですよ。いつも隣にいる感じで。」

『本人、気づいているんじゃない?』

「いやぁ…多分、気づいてないです…かなり鈍感な人なんで…」

『じゃあ、告白しないと!』

「その勇気が無いんです…」

その時、パッと画面が切り替わり、コメンテーターがそのことに関して色々と言い始めた。


あれは、咲夜だよね?

幼なじみって…。小学校からずっと一緒って…。

…私じゃん…‼︎‼︎

え⁉︎鈍感な人って…‼︎

てか、シルクが言ってた通りじゃん‼︎

私のこと好きだったんかいぃぃぃぃ‼︎‼︎


すると、背後から声がした。

「ふーん。あれがね…」

⁉︎何故わかった⁉︎

「声に出てたよ?さっきの全部。」

シルクはからかうように笑った。

「サクヤっていうんだぁ。覚えとこ。」

私はシルクの言葉を無視してテレビを見た。

ふり。なんだけど。


しばらくして、またチャイムが鳴った。

私が出ようとすると、またシルクが私の手を掴んで止めた。

今度は無表情だ。

そのまま表情を変えずにシルクが私の目を見て言った。

「行っちゃダメ。」

「もう、いい加減にしてよ。ただの郵便でしょう⁉︎」

「これはただの郵便なんかじゃ無い。だから行かないで」

「はぁ⁉︎訳わかんない。付き合ってられないよ」

私は、無意識にシルクの手を振り払った。

なんでシルクに対してこんなに怒っているのかもわからないまま。

まだ何か言いたげなシルクを残して部屋を出た。


ガチャッ。玄関のドアを開けた。

そこに立っていたのは、郵便屋さんではなく、咲夜だった。走ってきたのか、肩を大きく動かして呼吸をしている。

シルクが止めたのはこれか。

私は、無言でドアを閉めようとした。

すると、咲夜がドアを押さえた。

「…ちょっと、話があるんだけど…。」

「…何?手短に済ませて」

うつむきながら冷たくそう言うと、咲夜は声を震わせながら言った。

「…。好きです。」

え?

私は驚いて顔をあげた。

「付き合って…下さい」

いきなり来たか。

しばらく驚きでその場に立ち尽くしていた。

気づいていたはずなのに。なんで驚いているんだか…

「返事は、いつでも…」

咲夜はそう言いかけてハッとした表情で私を、いや、ドアの向こうを見た。

振り返ると、後ろにシルクが立っていた。壁に背中を合わせて腕を組んでいる。そして、からかうような目で咲夜を見つめている。

まるで、咲夜に

「お前バカじゃねーの」

とでも言っているようだ。

しまった…。シルクと咲夜を鉢合わせさせてしまった…。

私はチラリと咲夜の方を見ると、咲夜はシルクを見て驚きの表情を隠せずにいた。そして、私の方を見て

「そっか…。同居してたんだ…。なんだ。彼氏、いるんじゃん。」

そう言って、笑顔を作ってみせた。

「ち、違うの…咲夜、聞いて!」

「何が違うんだよ。何?あいつ、彼氏じゃないの?同居してんじゃないの?だったら、だったらなんなんだよ‼︎」

「信じてくれないかもしれないけど…」

言いかけたその時、シルクが割って入った。

「紗雪、サクヤさん、とりあえず、中入った方が良いんじゃ無い?外でそんなに騒いでたらご近所迷惑だよ」

シルクは笑顔でそう言ったけど、目は笑っていなかった。

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