え…⁉︎

次の日、目覚めるとシルクはぬいぐるみに戻っていた。

見ると、シルクに貸したTシャツはシルクのサイズに合った大きさになっていた。

夢じゃなかったんだ。

私はその日、1日中昨日のことが頭から離れなかった。

放課後、テニス部の活動をしていたら後ろから声をかけられた気がして振り向くと、クラスメイトであり、親友の雨宮咲夜あまみやさくやが立っていた。

「紗雪、お前さぁ、今日何か変だよ?何か悩みでもあんのか?」

「え?そう?変?」

「変だよ。悩みなら聞くぜ?部活終わったらお前んち行くからよ。」

「えっ‼︎‼︎」

シルクがいる…!

「えっ。ダメなの?お前1人暮らしじゃん。誰かと同居してんの?カレシデキタンデスカー⁉︎」

咲夜はからかうように私の肩に腕を回した。

他の女子がその様子を見て、騒ぎ始めた。

ヤバい。

咲夜は学校では結構な人気がある。整った顔立ち、筋肉が程良くついた体、爽やかな雰囲気、まさに「美」である。

こんな私と仲良くしているなんて許せるワケがない。

「そんな、この私に彼氏何てできるワケないでしょ‼︎」

ここは、さりげなく咲夜から離れなければ…

「だよなぁ〜」

「てか、私女子だから。普通男が女子の家に行くかっ‼︎」

「チッいっつもそうやって家に入れてくんないんだから。」

じゃん。」

よし、今だっ!離れろ!

私はラケットを強く握りしめてコートに出た。


部活が終わったのは18:00。

家に帰るまでは咲夜が送ってくれたから、少し遅くなった。

部屋のドアを開けて電気をつけると、シルクはぬいぐるみのままだった。

夕食の時も、入浴の時もそのままだった。しかし、8時頃、背後でゆらりと影が動いた気がして、振り向いた。

すると、銀髪、白い肌、青い目の美しい少年の姿が。

「シルク…。」

「あーあ。やっと動けた。」

「シルク、今度、服買ってくるね。」

「え?別にいいよ。このまんまで。」

「いや、私が良くない。」

私が指差した先には、Tシャツからチラリと見えるシルクのブツ

「あ、ごめーん。」

そう言ってシルクはTシャツの裾を下に引っ張った。

「今日の映画、何?」

テレビをつけてから、そう言ってシルクは私の手を引いてベットに座らせた。

「何か、海外の映画。ラブコメっぽい」

「ふーん。」

シルクは気の抜けた返事をして私の肩に腕を回した。

今日はよく肩を組まれる日だ。

あーあ。なんでこんなに緊張してんだ。

顔が近すぎて息がかかるから?

体がぴったりくっついてるから?

隣にいるのが思ってもいなかったような男子ひとだから?

とにかく、鼓動がうるさい。

映画に集中できない…!

「…なんか、つまんないね。字幕しか見れないし、違うのにしよっか。」

私がリモコンを手にとるとき、そっとシルクの腕をよけた。

見るとシルクは寝ていた。

シルクをベットに寝かそうと抱きかかえたその時、シルクの目が開いた。

「…引っかかったな。」

シルクは意地悪い笑みを浮かべて私の顔に手を伸ばす。

あぁ、動けない…ドキドキする。

どうすればいいの?

どう回避すればいいの?

「紗雪…」

シルクの顔が近づいてくる。

目をぎゅっとつぶる。

唇に柔らかいものが触れた。

ぬいぐるみにファーストキスを奪われた瞬間だった。

「…///シルク…?何すんの…?」

「毎朝やってることじゃん。姿を変えただけなのに顔赤くしちゃってさ」

あぁ、意地悪だ。

毎日一緒に寝ていた可愛いぬいぐるみは、こんなにも意地悪だったなんて…

「がお。」

「…は?」

「紗雪?俺が狼だってコト、忘れてない?」

「狼って…ぬいぐるみでしょ…」

「でも狼だから。」

「だから何?」

「紗雪を食べる。」

…‼︎

食べるだと⁉︎

「まって‼︎なんで急にこんなコトすんの?」

「…。」

「え…?」

「だから、今から紗雪は俺のモノってコト。」

え?

「そうそう、マーキングって定期的にやらないと効果が薄れるから。」

え?え?

「他の男にとられないように、隙あらば…」

そこまで言いかけて私の頬に軽くキスした。

「さてと、俺寝るわ。」

そう言ってシルクは布団に入った。

「そこで寝るな‼︎」

「え?なんで?昨日は許してくれたじゃん…」

「だって…。何されるかわかんないし。ヤダ。」

「大丈夫だって。俺そんな寝てるところ襲うような奴じゃないから。」

信用ならん…

さっきは「隙あらば…」とか言ってたくせに。

「良いからベットから出てよ。」

ベットの前で立っている私の姿を見て、シルクは困ったように笑ってベットから出た。

「シルクは、床で寝て。」

「うん。」

そう言った瞬間、私の手を掴んだ。

「シルク?」

「…やっぱり、無理。

俺、紗雪が横にいてくれないと無理。紗雪…」

下を向いていたシルクが顔を上げる。

少し頬を染めて何だか可愛い。

「俺、今まで寝る時、紗雪が横にいてくれたから安心できてた。でも、急にこんなの、不安で…」

そうか。シルクも同じ気持ちでいてくれてたんだ。

「…仕方ないな。その代わり、何かしたら追い出すから。」

あ。ついに許してしまった。

シルク、ズルいよ。

そんな可愛い顔するなんて。

私が可愛いのに弱いこと知っててやった。

そうわかってるのに、許しちゃう。

「ありがとうっっっっ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

シルクはほっぺがまだ赤いまま、私に抱きついた。

「ちょっと!何もするなって言ったでしょ‼︎」

「でも、まだ2人ともベットに入ってないじゃん。」

ニヤリと意地悪く笑うシルク。

「おやすみ。」

そう言って、私に優しいキスをして布団に入った。



はあ。朝だ。

朝がきた。

一睡もできなかった。

約束通り、シルクは何もしてこなかった。

今はぬいぐるみの姿に戻っている。

今日が土曜日で良かった。

これが平日だったら、

遅刻&授業中の居眠り

でお説教のフルコースだっただろう。

昼間、シルクは人間の姿にはなれないはずだから、やっと安心して眠れる。

で、寝ようとした瞬間。

スマホが鳴る。

見ると、咲夜からのメッセージが入っていた。

『よぅ😎今日暇❓部活無いし、遊びに行こうぜ☆』

しょうがない。

シルクの服買うの手伝って貰おうかな。

『OKでぇーす👍』

『じゃあ9時にいつもの場所』

9時…?はっ⁉︎

今8時じゃん‼︎

ヤバいヤバい。

急いで準備をして、家を出た。


も忘れて。

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