第2話 出会い

 朝9時、早く来すぎたのか話声がほとんど聞こえない。人が少ないほうが都合だ。いきなり人の多いところに入るのは私には無理だ。扉の向こうに数人の人影がみえ、こちらにも気づいているようだ。なかなか扉を開ける勇気がない。いっそこのまま出席欄に丸を付けて帰ってしまいたい。扉の前でおどおどしてるなんてまるで不審者じゃないか。

 数分が過ぎた。まだ入る勇気は湧いてこない。誰か、だれかきっかけをくれ!中にいる人も気づいているなら声をかけてくれ!心の中で叫び続け、ようやく決心というよりは諦めに近い形で恐る恐るその扉を開け、私の知らない世界へ歩みだしていった。

 なかには先生らしき人が一人、それと小さい子が一人とこちらに気付いていた年下であろう女の子が一人。

「あっ!新しく来るって言ってた子やんね!座って座って」

先生らしき人に促され座る。部屋にはカーペットが全面に敷かれ、6つほどの長い低めの机がおいてある。前と後ろにはホワイトボード、横はすべて窓。明るく風通しのいいところだ。

「はじめましてー!私A!あなたの名前は?」

こちらに気付いていた女の子だ。緊張しているところに突然話しかけられて声が変になってしまう。

「え、えとNです・・・」

かなり明るい子で初対面の私に笑顔で話しかけてくる。

「N君!よろしくねー!私グロいのとか好きなんだけどN君はグロいの好き?」

いきなり何を言い出すんだこの女はと思いながらも冷静に対処する。

「そうなんだ、俺は好きじゃないけどいやじゃないかな」

「へ~そうなんだ~」

そこへ一人の女の子が入室してきた。おとなしそうなロングヘアーの女の子。

「あ!Mちゃんおはよーこの人今日から通うんだって!」

「あ、そうなんだ、Mです。よろしくね」

テンションの差がはっきりと見える。私にはあまり興味がなさそうだ。

「Mちゃんもグロいの好きだったよねー」

「うん!」

いきなり顔が明るくなった。先ほどのおとなしさはどこへ行ったのか。Aと同じようなテンションでグロについて会話を初めてしまったではないか。これはあまり近づかないほうが良いだろうとせっせとワークを出して勉強にとりかかる。午前は勉強。午後から遊んでよし。これがこの部屋の大雑把なルールだ。

「N君はグロいの大丈夫なんだって~珍しいね!」

話に巻き込んでくるな。私は勉強中だぞ。

「そうなの?どこまでが大丈夫?腕折るとか抉るとか目玉とか」

初対面でそれは話がきつすぎやしないかお嬢様方。

「えと・・・全部大丈夫かな」

「え!そうなんだー!珍しい!」

なんで初対面でこんな話をしなければならないんだ、勉強に集中させてくれよ。てか貴女達は勉強しないのかな。あれ。

「おっすー!お!ようN!そういや今日から来るんだっけ」

相変わらずのハイテンションボーイO、一応私の親友である。この適応指導教室に通うのを勧めてくれたあの友達だ。

「おっす」

うしろからまた別の人物が。Sだ。Oに誘われて一度だけSの家で遊んだことがあるので一応顔は知っている。おとなしそうに見えるが話し出すと饒舌。よくいる人間だ。

この私も含め5人がこれからどのような関係になるかなんてだれ一人として予想はしていなかった。

私の中のヒヤシンスはこれからどんどん成長してゆく。

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ヒヤシンス 嵐 みどり @ransui

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