第6話 喰うものたち、食われるものたち
急に差し込んだ光に、男はうめき声とともに意識を取り戻した。
「隊長!ご無事ですか?」
眩しさに目を開けることもできず、うっすらとした視界の中に、見知った部下の影が映り、徐々に視界が鮮明になっていく。
「マル、セルか?」
その言葉に、彼の部下だったマルセルは頷いた。埃と煤だらけの顔で、ひしゃげた装主席の前面装甲板を無理こじ開けたわずかな隙間から内部を覗き込む少年は、彼が鍛え上げた光速騎士の一人だ。
「よかった、ご無事で、今お助けします!」
その言葉に、視界に続いて意識もはっきりと覚醒してくる。
「せ、戦況はどうなっている」
ごふっ、と咳き込みながら男はさらに言葉を続ける。
「突破されました。急ぎ、敵を追わなければなりません」
言いながら、マルセルは強引に装甲の切れ目を左右に押し広げていく。見た目は柔和な少年だが、彼もまた光速騎士。閃装機カリウスの積層装甲であっても、その闘気で強化された膂力があれば強引に引きはがすことができる。
「他の、皆は……」
その言葉に、マルセルの動きが止まった。それだけで男はすべてを察し、そして別のことに気づいた。
「マルセル!あれから何分経っている!?」
「ご、5分(星海標準時間換算)ほどです。今急げば戦列に復帰もでき……」
「すぐに逃げろ!」
え?と少年の表情が懐疑に染まり、次の瞬間、男の視界から少年の姿が消えた。
かはっ、と肺の中から呼吸を無理やり吐き出し、マルセルは横合いから襲いかかった衝撃に脇腹をおさえた。
視界の片隅に、先ほどまで彼が取り付いていた閃装機カリウスの姿が映る。隊長機として装飾されたそれはシルエットで見ても大型の武装をつけているため一目で判別できた。
地面にうずくまる少年の横に40レン(1レン=0.9センチ)ほどの金属筒が転がる。戦装機の超音速弾頭として使われる砲弾である。
カリウスの機上にいた彼は、音速砲弾の直撃を受けたのだ。金属装甲も撃ち抜くそれを受けて無事だったのは、彼が装甲を引きはがすために全身に闘気をまとっていたからである。
「——!!」
無言で、危険を悟ってマルセルが地面を蹴った。その直後、大地がさらに爆ぜる。
少年は地面を駆け、追撃で放たれる銃撃を次々と交わす。
走りながら音速、超音速、そして瞬く間に光速に達した少年の後をわずかに追って、弾丸の雨が降った。
「残兵狩りか!」
その光景を見て、マルセルは騎士隊長が取り残されたカリウスと逆側に進路を切る。自身を囮にして、動けない隊長を守るつもりだった。
音速散弾が宙を舞い、少年めがけて降り注ぐ。少年は顔色一つ変えずに手にした剣を振るい、その弾丸の雨を振り払った。
闘気を込めた剣による衝撃波が宙に放たれた。
光速騎士とは単に光速で動けるというだけではない、その感覚も知覚、思考もすべてを高位次元で処理できる存在だ。彼らにとっては音速で飛び来る弾丸も停止した的に過ぎない。
だが、それは常に光速で活動できることを意味しない。
ヒトである限り、その力と体力には限界がある。
光速騎士と言っても、彼は人間だった。
視界を埋め尽くす砲弾の雨のすべてをかわすことも、自分に向けられた弾丸すべてを撃ち落すこともできなかった。
一秒間の間に彼が無数に剣を振るい、闘気と衝撃波で眼前に迫る弾丸を全て叩き落しても、次の弾幕が来る。それを叩き落してもまた次の弾幕が迫る。やがては砲弾の雨に対して、剣の速度が徐々に鈍り始める。
どんなに闘気を高めてその肉体を強化しても、彼は人間だった。身体に当たる音速の弾丸は弾かれても、その体力を削っていく。
同様に闘気によって強化された気鋼弾と魔力弾が彼の防御を削り、3発目でその肉体を引き千切り、消し飛ばした。
「撃て撃て撃てい!」
老人の号令の下、第一龍装師団13分隊の戦艦群及び戦装機部隊からの砲撃が放たれる。
使われている戦装機はベルガリア騎士団と同じジャルクス。リューティシア皇国軍の音速騎としてはごく一般の存在だ。
ただし、その外装は騎士団のものと違い装飾などはほとんどない、簡素なものだ。わずかな差異はあるが、多少色分けされた程度で、むしろ装甲が原色そのままの機体が大半だった。激戦地で部品交換を頻繁に行う龍装師団の機体は、団長機含めて装飾などはほとんど行われない。
部隊から進行方向から左右にかけて放射状に放たれる弾丸と魔力弾が無差別に大地に着弾し、次々に爆炎を巻き起こす。
鬼獣王エグザガリュードの侵攻跡に残された装機の残骸や擱座した戦艦にはまだ生き残りも少なからず残っていた。そのほとんどが鬼獣王にその命ごと「喰われ」てしまっていたが、撃破された後に絶えず前進を続けるエグザガリュードの吸収範囲から外れ、あるいは逃れた機体には生き残りも少なくなかった。
特に高い生命維持機能を備えた戦艦はブロック化した部位ごとに独立して機能するように設計されており、一部の生き延びた彼らはその独立部位が持つ復元機能を使い、自走砲台へ変形させ、あるいは集合して再び戦艦への復元を行い、戦場へ復帰しようとしている。
それを阻止するのが、13隊含む第一龍装師団、音速騎団の役割であった。
最初に最強戦力を突出させて敵を蹂躙し、うち漏らした敵を後続の大部隊が殲滅する。龍装師団創立当初から受け継がれてきた由緒ある戦術である。
本来は戦術とすら呼べない代物だが、我の強い戦闘者揃いの軍団では極めて効果的な、副長アディレウスの編み出した苦肉の策である。
号令する老練な兵長ドルバンはその最初期から師団に所属する歴戦の勇士だ。同僚たちが加齢や衰えを理由に引退する中、寿命の長いスート種である彼は見た目こそ老齢の
第13隊音速騎隊長であるウェルキスを差し置いて老兵長が指示を出している状況だが、実戦経験のないウェルキスより兵長の方が信用されるのは仕方がない状況でもあった。
ほかならぬ、ウェルキス自身がそれを認めているのだ。
「御曹司!いつまで呆けてやがる!」
老兵からの痛罵が飛ぶ。戦艦の看板上で砲撃を続ける戦装機部隊の中で、隊長機だけが奥で硬直して動かない。
その装主席の中に座る御曹司と呼ばれたウェルキス=ウェリオン・キンバー・ストルは、震える指先を抑えるのに必死だった。彼の指先には今も引き金を引いた感触が残っている。生身の人間を装機で撃ち殺す。その感触が。
相手は光速騎士だったとはいえ、生身の少年だったのだ。その少年を自分が、最後に自分が撃った弾丸が人を引き千切るさまを見てしまったのだ。
「いつまでグズついてやがる!」
「そんなに文句があるならてめえが光速騎士サマをぶったおして見せろ!」
「一対一でやる力もねえんだろうが!」
ドルバンだけではない、彼の部下たちも同様に隊長を次々に罵倒する。彼らはいずれも長年戦い続けてきた男である。まだ若いウェルキスが親の縁故で隊長に抜擢された以上、彼らがそれを認めることはなかった。
「こーゆうのは楽しんだ方がいいと思うんだけどなあ」
その騒動を横で眺めながら、溝呂木弧門は我関せずという態度で操作盤を叩く。
彼の乗騎、凱装機ダードは重装甲、重爆撃を得意とするクノークの三公騎と呼ばれる上級装機種の一つだ。同じ量産機であっても、リューティシアの重装機ダンゲルとは比べ物にならない火力と装甲を持つその機体の背面に背負ったミサイル・ポッドが展開され、垂直に打ち出された
「ヒャッハー!汚物は消毒だ~」
「……それが言いたかっただけだろう」
その言葉にアイヴァーン・ケントゥリスがその隣でぼそりとつぶやいた。こちらは逆に残敵掃討には一切関心を示さない。黎装機サウロスとともにただ気配もなく、たたずんでいる。十字槍を肩にかけて静かに立つその姿はそこにいる誰からも見えているように思えない。完全に気配を遮断していた。
彼ら二人は所詮は客人扱いであり、どう振舞おうと文句を言われることはなかった。
だが、ウェルキスはそうはいかない。どんな事情があれ、どんな心境であれ、彼には隊長としての責務があった。
「もうやめてください!私たち仲間じゃないですか!」
惨状にたまりかねて、13分隊指揮艦グライゼルの戦術予報士を務める少女、ルクセーラの悲鳴が上がった。
「……いつからここは託児所になった」
ドルバン兵長が吐き捨てる。主任戦術予報士のルクセーラもウェルキスと同時に配備された新人で、この荒くれたちの集まりには似つかわしくない少女だった。
リューティシア第一龍装師団。名前こそ聞こえが良いが、もとはと言えば罪人や政治犯の集まりだ。祖国を追われ、シンクレアに身を寄せたリンドレア公子グラスオウが戦力を補充する際に、シンクレア国が嫌がらせ同然に押し付けた厄介者集団だった。
その悪人たちを、グラスオウは自身の最強戦力であるザルクベインに預けた。圧倒的な力こそが彼らを唯一支配する方であると考える後の竜皇グラスオウは、彼が一番の強者であると信じるザルクベインこそその支配者にふさわしいと考えたのだ。
果たして、剣臨軍将ザルクの元、悪人たちはその命令に逆らうこともできずに戦場で消耗品のように死んでいき、再び扱いに困った悪人たちが補充されて行く中で、生き残ったものたちはリューティシア最強と謳われる軍団へと変貌していく。
だが、リューティシアが大国へと成長していく中で、第一龍装師団と呼ばれるようになった彼らには相応の品格を求められるようにもなっていた。
現団長であるゼルトリウスや、彼らの隊長になったウェルキスのような貴族の青年はその一例と言えるだろう。
しかし、ゼルトリウスが父ザルクベインの戦闘力と、次代竜皇リュケイオンの従弟として第三皇位継承者としての風格をあわせもつのに対し、ウェルキスには力がなかった。
かつて第13分隊隊長を務めた超光速騎士、ガド・バリオン・キンバーの息子として不適格と言われるほどに。二人の兄とは違い、彼には超音速戦闘が限界だった。
「——!敵機反応あります!光速騎です!」
緊迫した少女の叫びが、戦士たちの注意を戦場に引き戻した。
彼らの視界の向こう側で、一瞬の光が奔る。次の瞬間には、グライゼルの僚艦二隻が凍結して粉砕された。
魔力による一瞬の氷結。敵は光速騎の魔導戦士だ。
ちぃっ、と老人たちの舌打ちと痛罵が立て続けに巻き起こり、彼らはそれまで惰性で放っていた砲撃を止め、次の一斉射のための準備を進める。
「報告が遅い!」
「す、すみま……」
「情報連結!」
少女の謝意を遮るように老人の叫びが飛ぶ。光速騎士を相手には一秒どころか一瞬も惜しい。敵はそのわずかな間に無数の選択肢を持つのだ。
ルクセーラが慌てて意識を指揮艦の思考結晶と接続、さらに13分隊各艦の戦術予報士と思考結晶が高密度の
各艦の予測演算機能と高い
「撃て!」
老兵長の指揮のもと、各砲が一斉に火線を放つ。
一見無作為に見える全方位への無差別砲撃だが、次の瞬間には範囲を絞った集中砲火へと変化、再び全方位射撃へ切り替え、さらに範囲射撃へ切り替える。その繰り返しだ。
その間にもさらに2隻が轟沈、旗艦グライゼルも直撃を受け、かろうじて防御障壁で守り切った。
その繰り返しの中で、一瞬の残像が残る。
「兵長、見つけた!」「どこだ!?」「かすりやがった」
「戦術予報、遅いぞ!」
「す、すみま」「予測!」
砲撃を繰り返す兵士たちの怒号が飛び交う中、ウェルキスはまだ動けずにいた。
「次!」
ドルバンの声が指示が飛び、もはや何度目かもわからない高精度予測が情報連結により全員に共有された。
13分隊指揮艦グライゼルを中心に陣形を組んだ艦隊から各方位に機雷が展開される。機雷は宙に固定され、もうもうと煙幕をまき散らす。瞬く間に艦隊すべてが煙の中に隠れた。
「ふざけた真似を」
男は怒りの声とともに閃装機カリウスの魔弾砲で、その煙に向けて魔力弾を放つ。
煙に触れた魔弾が、込められた魔力によりそれを一瞬で凍結させ、粉々に砕いた。
あっさりと周辺に巻いた煙幕を取り除かれ、艦隊がその姿を現す。煙幕には魔力を遮断する効果があったが、それは艦隊そのものの凍結を防ぐことはできたが、それが限界だった。
閃装機が直下の艦隊に向けて突撃する。煙幕による見苦しい時間稼ぎなど、光速騎の前には児戯に等しい。
次の瞬間、機体の警告音にわずかに遅れて、カリウスの機体全体に激しい擦過音が鳴り響いた。
「なん……だと!?」
凍結した煙、砕けたはずのその破片が微細な金属片となって閃装機の突入を阻んだのだ。人間の目にはただの粉にしか見えないが、機体の情報分析はその危険性を察知していた。頭に血が上った男がそれを無視していたのだ。
本来なら光速騎の加速の前に砕かれ押しのけられるはずの粉塵が、艦隊の魔術士たちによって空中に「固定」され、カリウスの全身をかきむしる。復元が完全ではないカリウスではそれを無視して突き進むことはできなかった。
男は悪態をつきながら、機体を脱出させようともがき、その一瞬の停滞を慣れた龍装師団の戦士たちは見逃さなかった。
光速での突入から、一瞬空中で停止した閃装機カリウスめがけて砲弾の雨が叩き込まれる。光速騎と言えど、戦艦の光速弾は脅威であり、戦装機の放つ音速弾の範囲射撃も行動を制限するには充分な威力があった。
光速弾と光量子を躱したカリウスが音速弾幕まではよけきれずにその左脚を吹き飛ばされ、大きくバランスを崩す。
煙幕は最初から時間稼ぎが目的ではなかった。敵を挑発し、その行動を制限するための戦術予測に他ならない。
「糞が!」
片足を失ったカリウスがさらに再突入をかける。今度は予測が外れ、13分隊の砲火はむなしく宙を滑った。その一瞬でカリウスが、邪魔な粉塵を魔力弾で消し飛ばし、グライゼルに取りつく。
「沈めぇ!」
彼の目の前で散った部下のために怒りの呪詛を吐きながら男がグライゼルの中央部めがけて魔力剣を走らせる。
光速域の超感覚で走る男の前に、気配もなく、いつの間にか一騎の装機が立ちはだかっていた。男は止まらない。なぜそこに敵がいるのか、それを疑問に思うこともない。
眼前の敵のエーテルは小さく、光速騎である彼の敵ではなかった。
光速騎の横なぎの斬撃が盾を構えて間に立った黎装機サウロスの盾をあっさりと切り飛ばし、そして次の瞬間その魔力剣は半ばから切断されて、戦端が宙を舞った。
「馬鹿な!?」
男の困惑も光速の一瞬のうち、敵は彼の眼前で動くことすらない。
サウロスを駆るケントゥリスにとって、盾で斬撃を防げないことは承知の上だった。本命はその盾に隠した十字槍の刃、そこにケントゥリスはなけなしの闘気を集約させ、エーテル量ではなく、高密度に圧縮させた闘気で刃を強化したのだ。
閃装機は50階位の光速騎だが、サウロスもまた本来は同格以上の機体だ。乗り手であるケントゥリスがその力を引き出せないに過ぎない。ゆえに、その一部にケントゥリス自身の全力をつぎ込めば、一部の身であれば光速騎と同等の威力を保つことができる。ケントゥリスのエーテル量でそれが可能なのは一瞬であったが、その一瞬こそ光速騎にとっては無限大の時間だ。
カリウスの魔力剣は盾ごとサウロスを両断するつもりで、その穂先と正面から激突し、切り飛ばされたに過ぎない。
光速騎士と言えど、彼は人間だった。人間の目で見通せないものは見えない。微細な破片の危険も、相手が隠し持った刃も、それを補うのが装機という存在だった。だが、その補佐も、冷静さを欠いた男には無意味だった。せっかく十分な時間があっても眼前の敵が気配を感じさせない理由を考えなければ何の意味もないのだ。
武器を失って、男がカリウスを後退させる、させようとした。
だが、それを敵が見逃すはずもなかった。
「
その横合いから、溝呂木弧門の凱装機ダートの右腕が光速拳を放った。
速度こそ光速に劣るものの愛居真咲の超高速の必殺拳と同じその拳打がカリウスを捉え、その全身を打ち据える。
男は闘気を全身にまとい、その威力に耐えた。
だが、次の瞬間、カリウスの頭部が横合いからの砲撃で吹き飛ばされる。光速拳の対処に手いっぱいだった男には、音速弾に対処する余裕はなかった。
「い、今だ!」
ウェルキスの号令が飛ぶ。彼らがそれまで忘れていた隊長機の指示が、敵光速騎の頭を撃ち抜いた青年の声が。
それに怒号とともに部下たちが応え、体勢を崩した閃装機に無数の砲弾が撃ち込まれた。
「この……死肉漁りどもがァ!」
それが、男の断末魔だった。
光速騎が爆散する。流石に一時的に全力を使い果たし、戦士たちは大きく息をついた。
「まさか、あの技が使えるとはな」
「まーね。真咲のできることは僕にも大体できるよ。あれは無理だけど」
呆れた様子のケントゥリスに、地平線の向こうで響く爆音と衝撃波を指して、溝呂木弧門は何でもないことのように返す。
その向こうでは、ウェルキスが茫然とした表情でドルバン兵長に向き合っていた。
「まさか、効くとは思っていなかった」
自分の乗るジャルクスの手にした魔弾砲を見ながら、ウェルキスは信じられないという顔をしていた。
彼は、目の前に現れた敵の姿に無我夢中で引き金を引いたに過ぎない。それまでの悩みも忘れ、ただ敵への恐怖と衝動に突き動かされていたのだ。
「ものは同じなんだ、当たれば行けるさ」
そんな若者に、老兵は何でもないことのように返した。
「御曹司、奴らをここに置いておいて正解だったな」
溝呂木弧門が光速戦闘に対応できることは、ナーベリア海戦でわかっていた。自分たちの生存率を高めるためにもぜひ彼らを同じ部隊に置かせるべき、と主張したのはほかならぬドルバンである。
「兵長、次はどうする?」
「隊長はてめえだろうが、どうするかは貴様が指示を出せ」
老人は若者の言葉を切って捨てる。ウェルキスはまだ困惑していたが、すでに現実に立ち戻っている。先ほどまでのように戦闘を放棄する様子はなかった。
「兵長、指揮艦長、先ほどの戦闘での負傷者と損傷機を収容して、一度後退しよう。残敵掃討は他の分隊でも十分なはずだ」
「それは構わんが、大将と離れすぎるのも問題だ。こっちの光速騎はまだ宇宙の上なんだからな。さっきみたいなのが生き残っていたらこっちが持たねえ」
わかった、とウェルキスが兵長の言葉を首肯し、グライゼルの艦長からも同意の言葉が返る。
その光景を背に、分隊の戦士たちは再びそれぞれの持ち場に戻っていく。
「死肉漁り、か」
ウェルキスは敵の断末魔の言葉を思い返していた。
だが、彼にはほかに光速騎と戦う手段がない。部下たちに言われたように一対一で勝てるわけもない。相手が生身だろうが、手負いだろうが、それでもどうにかして勝たなければならないのだ。
「それが俺たちの戦い方でさぁ、てめえにも似合いだぜ」
かつて父の部下だったという老兵長の言葉は容赦なくウェルキスを叩き、ウェルキスは力なく笑った。
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