第5章 アマクサ
予想はしていたが、私の前に立ちはだかるのは、やはりお前か。
霧野 せつな。 『赤い魔眼』を宿す男。
「やあ、リョウ兄さん。久しぶり」
笑顔で手を振るせつな。
相変わらずのようだ。
「まだ『兄』と呼ぶのか。破門同然の私を」
「僕も修行の途中で出て行ったからね。似たようなものさ」
そう言って、アンナの家のある方向を向く。
「それよりさ、久しぶりにアンナに会いに来て、ずいぶん派手な演出だね」
「アンナは派手好きだからな」
「フフ。そうだね」
しばし沈黙。
私は全身に魔力をめぐらせ『魔眼』発動に備える。お互いの実力は熟知している。何年経とうと根本は変わらない。私が警戒するのはただひとつ。覚醒が第二段階まで進んでいるかどうか、だ。進んでいれば、こっちも始めから本気で行かないといけない。
「『魔眼』を狙っているようだけど、キリノ家の血を引く者しか使えないよ」
「承知のうえだ」
せつながこちらに顔を向けた。
「何のために?」
それをお前が聞くのか。
「分かっているはずだ」
強い風が海のほうから吹きこんだ。せつなの長い髪と、黒いコートがなびいた。左腰の刀が見え隠れする。
試行錯誤していたが、魔力と相性の良い刀を見つけたようだ。
「静を殺したのは、リョウ兄さんなの?」
まっすぐ私を見て尋ねてきた。
さて、どう答えるべきか・・・・
それとも、真実を知っていてなお、私に尋ねているのか・・・・?
「そうだと答えたらどうする?」
私を憎むか
せつなは目を閉じた。そして、ゆっくり目を開ける。
右目が赤く染まっている。
なるほど。そこまで制御できているのか。大したものだ。感情で心を乱せば、『魔眼』は暴走して宿主を食い潰す。
ようやくお前と本気で戦える日が来たようだ。
「彼女の『魔眼』は渡さないよ。静から頼まれているからね」
そう言って、腰の刀に手を添えるせつな。
「ならば、私を止めてみろ」
抜刀させなければいいだけだ。
私はダラリと下げた手の指を、パチンと鳴らした。せつなの立っている足元から、全身を覆うくらいの火柱があがる。
せつなは既にそこにいない。
二度、指を弾く。
私の右手方向の地面から、鋼鉄の針が飛び出す。上空にせつな。
思ったより素早いな。
せつなは刃を指先でなぞる。紅い魔法文字が浮かび上がる。
彼を指差す。鋼鉄の針が飛ぶ。人間離れした速度で刀が振られ、すべての針が打ち落された。
せつなの頭上で炎を凝縮した矢が控えている。
私の目線が発動の合図。矢の雨がせつなを襲う。かわせる距離ではないし、刀一本で防げる本数ではあるまい。
一瞬、せつなの体が歪んで見えた。
姿を見失ったと確信する間もなく、私の目の前に刃が迫っていた。
そのまま振り抜けばいい
私の体に触れる寸前、次元はベクトルの方向を変え、刃は持ち主の首を狙う。
せつなはためらうことなく刀を手放し体を大きく反らした。驚くべき反射速度だ。
目標を失った炎の矢が地面に突き刺さった。
持ち主を失った刀は、石畳の地面に落下することなく、再びせつなの手の中に収まっていた。なるほど、あの刃に浮かぶ魔法文字でつながっているわけか。
「さすが『ギルの魔法使い』。殺し合いでは敵いそうにないな」
負け惜しみではなく、本気でそう思った。
魔法使いは、タネがバレてしまえば終わりだ。詠唱を破棄したところで、魔法発動までのラグは縮まらない。
『魔眼』の力を使ったせつなの速さは尋常でない。これから新たな魔法を構築するのは命取りだ。
「騙されないよ。リョウ兄さんが何の策もなく、僕と戦うわけないからね」
せつなが言った。
思わず口元が緩んでしまった。
気心が知れているというのは、やりにくいものだな。
私は戦闘を消去法で考える。相手が武器を持っているなら、それを奪えばいい。目で追えない程素早いなら、その動きを止めればいい。
簡単なことだ。
時間稼ぎはもういいだろう。準備は万端だ。
私は指先に神経を注ぐ。無色不可視の魔力に命を吹き込む。あらゆる方向からせつなを囲う。
見えないし感じないはずだが、『魔眼』の力か、せつなは私と距離をとった。しかしそれは想定内だ。
一撃目は刀で弾かれた。次は少し変化球でいこう。
せつなは目線を激しく動かして、二撃目に対応しようとしている。五感を越えた感覚だけで防いだか。
私の指先から、自分の魔力で編んだ細い糸のようなものが、何十何百の束となって伸びていた。その一本一本に私の魔力信号が伝わっていて、意思により、対象を切断することも掴むことも出来る。
二撃目は振り下ろした刀をすり抜けてうまく刃に絡まった。そのまま全体に巻きつける。これで武器の自由を奪った。
「まいったな。魔法が個性的で対処できないな」
せつながつぶやく。
指を少し動かす。空中をさまよう魔力の糸が、鋭利な刃物となってせつなを襲う。
危険を察知しているが動けまい。
どの方向に移動しても、私の糸がお前の体を切り刻む。
寸止めできたが、せつなの頬と首筋に少し糸を食い込ませた。ゆっくりと赤い筋が伸びて、糸に血がにじんだ。
指一本動かすだけで命を絶てる状態だ。なのに、その顔は何だ。まだ笑っていられるのか。
「追い込んだぞ。出し惜しみせず本気でこい、せつな」
『魔眼』の第二覚醒を見せてみろ
「さすがリョウ兄さん。相変わらず強いね。魔法だけでここまで詰められるとは。いやあ、まいったまいった」
でも・・・・
「これ以上はもう無いよ」
せつなの表情が変わる。
体外に放出された”気”のようなものに吹き飛ばされそうになる。
『魔眼』覚醒の第一段階は、自身の魔力とのバランスを考えながらの、制限した魔力量。そして第二段階は、制限無しで『魔眼』の魔力を開放する。
宿主が魔法使いとして優秀で、なおかつ強靭な肉体ならば、『魔眼』は本来の力を発揮する。そうでなければ、力は宿主を食いつぶし、尽きるまで魔力を暴走させると言われている。
せつなが開口した。
覚醒を促す言葉を言おうとした、まさにその瞬間!
アンナの家がある丘の向こう。強い魔力を感じる。地面が少し揺れた気がした。これは・・・・『魔眼』が覚醒したか。まずいな。これでは手に入れる前に使い物にならなくなる。
せつなが何か言ったようだが、かまっていられない。
私は指先から伸びる魔力糸を操る。糸は高速でせつなの体に巻き付く。更に指を弾いて魔法発動。彼の周りを魔力の壁、結界のようなものを何層も重ねて覆う。
これでしばらく動けまい。
「少し先を急ぐ。続きは用事が済んでからだ」
そう言って、腰に下げたキーホルダーを手に取る。
ベリアン! 出番だ
私の呼び声に応じて、犬のキーホルダーが指をかじる。手のひらサイズから子犬サイズへ。石畳の地面に着地して、クンクン匂いを嗅いでいる。
青い『魔眼』のもとへ
承知いたしました。こちらからどうぞ
子犬は地面に体を預け、私の足元にドアが現れた。私の魔力を吸っているので、状況を把握している。ここが最短で行けるのだな。
私はドアノブとなった子犬の尻尾を持ち、手前に引いた。ドアの向こうに飛び降りるように入り、ドアは自重で閉まった。
アンナの家の前。
気配を消して、彼女のすぐ横に立つ。
「『魔眼』の主は頂いていく。邪魔をすればアンナでも容赦しない」
私の言葉を聞いて、アンナは苦笑した。
「お前がせつなに『魔眼』を使わせるから、誘発したじゃないか。どうするつもりなんだい?」
「私がこいつを押さえ込む」
そう言って、アンナより一歩近づく。
なんという魔力。
なんという魔法だ。
『魔眼』の主はここまでのレベルなのか。氷の魔法だけなら、『三大魔法使い』を超えているじゃないか。
指先に魔力を集中させる。
近づく気配を感じていたが、何の抵抗もしなかった。
魔力の糸は全身を包み込んだ。手足の自由を奪う。これでルーン魔法は使えまい。
ほほう。良い魔力を持っておるな
目の前の少女が笑った。
「『魔眼』の主よ。私と契約しないか?」
私の提案に、また少女が笑った。
なるほど。そのためにキリノの血を・・・・興味深い男だ
すべてお見通しか。ならば話は早い。
私の体なら、お前の魔法が存分に使える。私なら、お前の魔力を自在に操れる。
「リョウ。お前、何を・・・・?」
語尾が消えそうな声でつぶやくアンナ。
私の人生は、せつなと出会ったことで、大きく変わってしまった。
奴を超えるためには『魔眼』が必要だ。キリノ家の呪縛があるなら、それをクリアできる方法を考えればいい。
それだけのことだ。
少女は、動かない体と見えない糸を確認していた。
無(ウィアド)
ルーン文字無しでの魔法発動。
ルーン魔法のなかで、唯一文字の無い魔法。自身に付加された魔法、魔力を無効(リセット)にすることができる。
存在すらはっきりしない魔法を、目の前で見れるとは。
少女の全身を覆っていた糸が溶けてしまった。
悪くない提案だ。今のこの体では、我の魔力は出しきれぬ
少女は私を見た。
左目は青く、その青い『魔眼』が肉体を支配している。
「私のもとへ来れば、魔力は存分に使える。キリノの呪縛も解ける。悪くない相談だと思うが?」
心の裏側まで見透かすような青い瞳。
主も分かっているはずだ。
このまま魔力を開放し続ければ、魔法使いとして覚醒していない宿主の肉体は崩壊する。肉体が無くなれば、次のキリノ家の誰か、主と適合する者が現れるまで、『魔眼』はどこかに消えてしまう。
何十年、何百年。繰り返された消滅と再生。そろそろ嫌気が差してきたのではないか?
さあ、私を宿主として認めろ。
そうすれば・・・・?
・・・・何だ?
少女は不意に自分の手のひらを見つめ、また私を見た。
すぐに視線を外す。何か様子がおかしい。
背後にアンナ以外の気配を感じる。有り得ないが、もう私の術を解いたのか。
『魔眼』の魔力は見事に予想を裏切ってくれる。
「リョウ兄さん、違法勧誘しちゃダメだよ」
口調も笑顔も変わらないが、魔力量がケタ違いだ。
赤い右目がさらに怪しく輝いている。覚醒は第二段階まで進んでいたか。
「合意のもとなら問題あるまい」
そう言って、少女のほうを向く。
やはり様子がおかしい。
手足が動くかどうか、確認しているような仕草を繰り返している。
原因は形となって現れた。
露出している肌の表面に、黒いシミのようなものが出始めた。顔や腕。黒い点はみるみる広がり、大きくなっていく。
あれは何だ。
魔法文字・・・・しかも、見たこともない組み合わせの術式。
近年の魔法世界で、優れた術式魔法使いといえば、思いつくのはただ独り。
霧野 静
何かがカギとなって発動する、残留魔力による魔法。せつなの『魔眼』に共鳴したせいか、それとも自身の覚醒のせいか。
どうでもいい。
暴走した『魔眼』を止める魔法など、魔法の歴史に存在しない。なんという男だ。 死んでなお、私の邪魔をするのか。
久しいな、シュバよ
少女の目線はせつなの右目に向いていた。耳にした名前らしき言葉は、すぐに記憶から消えてしまう。
再会の喜びに、浸ることはできぬようだ
左目の青が、次第に輝きを失くしてゆく。
この術は、我には解けぬ。この魔力、我の知るキリノによく似ている・・・・
少女から主の気配が消えた。その場で崩れるように倒れる少女を、移動したせつなが抱き止めた。
目は閉じていない。意識はあるようだ。
「助かったよ。私の魔法では『魔眼』を止める自信がなかったからね」
アンナが言った。
この世にいない男に語りかけているのか。
『魔眼』の魔力が消えている。せつなの右目も元通りの色に戻っていた。
「あかねさん、大丈夫?」
せつなにつられ、私も少女を見る。
瞳から涙が溢れていた。
「お父さん」
少女のかすれた声。
「何でだろ。もう死んでしまってこの世にいないはずなのに、さっきまですぐそばにお父さんがいたんです」
残留魔力のせいか。生活を共にしていれば、魔力を個人特有の匂いと等しく認識している可能性がある。それを感じ取ったのだろう。
お父さんがいたんです
その言葉を繰り返し、両手で口元を隠しながら泣き出す少女。
「そうだよ。よかったね。ホントに君のお父さんが守ってくれたんだよ」
そう言って、少女を抱き寄せるせつな。
感動の場面、か。
まだ終わったわけではないのに、そんなスキだらけでいいのか、せつな。『魔眼』の暴走が止まったのなら有り難い。魔術回路が未熟なうちに取り出せばいい。まだ間に合うはずだ。
私は魔力を集中させる。
「そこまでして『魔眼』が必要なのかい? リョウ」
アンナの言葉。
「努力だけでは得られない力だ。あの少女には荷が重すぎる」
振り返らずに答える。
「お前が決めることじゃないさ」
強い魔力を感じる。アンナが得意とする、火の魔法を手のひらサイズの小さな玉に凝縮したアレか。まともに食らえば厄介だ。
私は大きく息を吐く。
さきを 見失う
魔力を込めた言葉。
アンナの視力と方向感覚を一時的に奪った。
「チッ、またかい」
そう言って、指を弾く。
その程度の魔法では無駄だ。
言葉の中にには、複雑な術式魔法が含まれている。アンナでもそう簡単には解けまい。
「さっきも言ったけど・・・・」
せつなが立っていた。
少女はその場に座ったまま、顔を隠しすすり泣いている。
「これ以上は無いよ」
そう言って目を閉じるせつな。
シュバリッヒダルト
『魔眼』の力を開放する言葉。記憶からすぐに消えるが、それは『魔眼』の中に存在する魔法使いの名前。
肌に伝わる気迫だけで押しつぶされそうになる。なんという魔力量。お前はこれをすべて剣技に注ぐのか。
刃を指でなぞる。
赤い魔法文字が現れ、炎のように揺らいだかと思うと、刃全体が赤く染まった。収まりきらない魔力が溢れて、まるで刀が燃えているようだ。
先ほどの、足止めを破るのにかかった時間を考慮し、糸に込める魔力を調節する。 まともに戦っても私が不利なだけだ。五分、いや一分でもいい。それだけあれば『魔眼』を取り出せる。
私は両手をダラリと下げ、指を広げた。
せつなは目を開けた。
真っ赤に染まった右目が妖しく光った。
「待ってください!」
かすれた叫び声が、私とせつなの間に割り込んできた。
せつなのすぐ後ろ。少女が泣き顔のまま立っていた。弱々しいが、はっきりと意思を持った目を、私のほうへ向けている。
「あかねさん、危ないから少し離れていて」
振り返らないまま、せつなが言った。
少女は無視して歩み寄り、せつなの前に立った。
「わたし、事故に遭った時のこと、ほとんど覚えていないけど、車が崖から落ちて、その時お母さんがわたしを抱きしめてくれて、お父さんがわたしとお母さんを抱きしめてくれて・・・・落下した衝撃から守ってくれたんです。それで、わたしだけが助かって、わたしだけ生き残って・・・・
だから、わたしのことで誰かが傷ついたりするの、嫌なんです!
もう誰も失いたくないんです!」
じっと私を見据える二つの瞳。
剣技や魔力とは別の、弱い部分を鷲掴みされたような威圧感。私の過去の記憶が鮮明に蘇る。前にもこの感覚を味わった事がある。
初めてせつなと出会った時。
すぐ横に立っていたせつなの兄。
少女はあの時の兄と同じ目をしていた。
「他人が傷つくのが嫌なら、その目を私に渡せ」
それですべてが解決する。
「嫌です」
はっきりとした声で答える少女。
「ならば、どうする?」
「わたしと、勝負してください!」
私も含め、せつなもアンナも、耳を疑ったに違いない。
何を言っているのだ、この子は。魔法の使い方も知らないお前と勝負しろだと?!そんなの、戦う前から結果が見ているじゃないか。両親のことを思い出して混乱しているのか?それとも、どこかで頭を打ったのか?
わたし、魔法使いになります!
「これから修行して、魔法使いになります。魔法使いになって、この眼の力が使えるようになります。それで、わたしと勝負してください。負ければこの眼はあなたにお渡しします。だから、少し時間を下さい。お願いします!」
第二段階まで『魔眼』が覚醒すれば、本人の意思で『魔眼』を取り出すことができると言われている。あくまで眼の中の魔法使い同意の上、だが。少女がそのことを知っていて提案しているのかどうかは分からないが、それならば術式魔法を使わずに『魔眼』が手に入る。
しかし・・・・
他人が傷つくのが嫌で、自分はまだ未熟だから、修行する時間をくれ。
『魔眼』が使えるようになるまで待て。
そう言っているのか、この少女は。
「自分で何を言っているのか、分かっているのか?」
「はい。分かっています」
そんな都合よく、私が待つと思っているのか?
「わたしに負けるのが怖いですか?」
「・・・・なんだと」
「わたしがこの眼を使えるようになったら、勝つ自信が無いから待てませんか?」
何だ、この妙な感情は・・・・?
こんな安い挑発に、私は動揺しているのか?
それとも、この少女の未知数な伸びしろに、私は恐怖を感じているのだろうか。
私は笑った。大声で笑った。
自分でもよく分からない感情がこみ上げて、久しぶりに笑った。
「面白い。いいだろう。お前が『魔眼』を使えるようになるまで待ってやる」
そう言って、私は指先の魔力を断ち、アンナの術を解いた。
「その時が来たら、私はまた現れる。それまで良い魔法使いになれるよう修行に励むんだな」
私は振り返り歩き出した。
アンナの前で立ち止まる。
「今日のところはこれで引き上げる。ちゃんと鍛えてやれよ。私を幻滅させるな」
アンナに忠告。
振り返って少女を見る。涙で酷い顔になっているが、いい目をしている。
「一応言っておくが、『魔眼』を狙っているのは私だけではない。次に会う時まで奪われるなよ」
また来る
アンナにその言葉を残し、わたしは再び進んだ。
海と街並みを眺めながら、昔のほうが好きだな、とそんなことを考えていた。
天草 了が見えなくなって緊張の糸が切れたのか、あかねはその場にへたり込んでしまった。
勝手に震える体にやや過呼吸ぎみの息遣い。
よくやった、わたし!
自分で自分を褒める。あの怖い人を追い返してやったぞ。わたしだって、やるときはやるんだから。
せつなさんもアンナさんも、よくやった、って褒めてくれるはず。顔を上げてアンナを見る。
なんだか微妙な表情。
座ったまま振り返ってせつなを見る。こちらもあまり良い表情じゃない。
わたし、頑張ったのに・・・・
「あーあ・・・・」
ため息混じりのせつな。
「リョウ兄さんにケンカ売っちゃったよ、あかねさん」
目線の先にはアンナ。
「あいつのことだから、次はさらに万全の体制で来るよ。あかね、うまく追い返した、とか思っているかもしれないけど、違うからね。あいつは努力型の天才だから、今日のデータを分析して、緻密な計画をたてて戻って来るよ。これ以上手に負えなくなったら、私やせつなでも止められないかもしれない」
あかねは無理に笑顔を作った。
そうしないと、意識がどこかへ飛んでいきそうだった。
止まっていた涙が、またポロポロ落ちてきた。せつなのほうを振り返る。
「・・・・どうしましょう」
自分がした事への責任が、何倍にもなってのしかかっていた。
苦笑いのせつな。
「大丈夫。僕もアンナもついてるから。まずは魔法が使えるようにならなくちゃ。優しくて、教え上手の先生が目の前にいるから、安心して」
泣き出したあかねの背中をさするせつな。
「やれやれ」
と、ため息をつくアンナ。
「のんびり隠居生活は先延ばしだね。全く、最後の弟子が、口だけ達者など素人かい。そいつが『魔眼』を使える魔法使いになりたいだって? フン、言うことだけは立派じゃないか」
そう言ってあかねを見る。
肩を揺らしながら、ヒクヒク泣いている。
「ま、そういう奴は嫌いじゃないけどね」
そう言って、アンナはせつなと顔を見合わせ笑った。
潮風がとても心地良かった。
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